帝国喫茶、KALMA、シャイトープ、クジラ夜の街が走り抜けた宴、清水音泉主催イベント『Band On The Run!』レポート

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『Band On The Run!』2024.6.15(SAT)大阪・なんばHatch

6月15日(土)大阪・なんばHatchにて、関西の名物イベンター・清水音泉主催のイベント『Band On The Run!』が開催された。コンセプトは、ひたすらバンドを応援するという至ってシンプルなもの。清水音泉のイベントは、いつだってそうなのだが、観客が入場する開場中に流れている音楽が単なるBGMではない。毎回、選曲に意識や意図を感じるのだが、この日もイベントタイトル名にかけて、“走る”をテーマに日本の格好良いロックンロールが流れていた。

この日は、帝国喫茶、KALMA、シャイトープ、クジラ夜の街が出演したが、より4組を楽しむために、清水音泉のイベント担当した女史自らが前説を務める。担当の女史が「Band On The……」とコールして、観客が「Run!」とレスポンスするストレートなやり取りだが、これだけで全員の気持ちがイベントに集中できた。

帝国喫茶

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

トップランナーは帝国喫茶。1曲目「貴方日和」で緩やかに走り出すが、続く「and i」はどっしりとしたリズムで始まり、途中、演奏のスピードにギアが入り疾走感が増す。地元が大阪なだけあって、ボーカルの杉浦祐輝はノリを理解しているので、早速「Band On The……」とコールして、観客に「Run!」のレスポンスを求める。イベンターとバンドの関係性……というか、イベンターという職業自体がいまいちピンとこない観客も多いだろうが、こういった何気ないバンドマンのひとことによって、イベントを作る人とイベントに出る人の関係性がわかったりするはずだ。杉浦も「4組お互いぶつかり合って!」と言っていたが、ただ4組が出演するのではなくて、ぶつかり合って高め合ってしのぎを削る対バンだということが改めて伝わった。舞台後方に吊るされた「Band On The Run!」というイベント屋号看板を指差して、「思いっきり駆け抜けていきます!」という宣言も誠に良かった。

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

サーフロックな「夏の夢は」は唸りをあげてまさしく駆け抜けたし、だからこそ「愛していたいよ」と緩やかに歌いかけから始まる「君が月」と緩急が見事に決まるライブ。帝国喫茶の持ち味は静と動とも言える緩急を使い分けて、観客の心を揺り動かすところであり、「じゃなくて」「燦然と輝くとは」「カレンダー」「春風往来」の4曲は、静と動で言えば動であり、緩急で言えば急であり、このブロックでのストレートに揺さぶりをかける走り抜け方は爽快すぎた。杉浦がハンドマイクのみで地団駄を踏むかのように煽りながら歌い上げる場面など、一気に勝負を決めようとする姿は最高だった。

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

7月から3ヶ月連続でシングルをリリースして、それに伴い3ヶ月連続でライブをすることと、11月9日に大阪・Zepp Nambaでワンマンライブを開催することも初発表されるなど、とにかく最後までトップランナーとして駆け抜ける意気込みが感じられた。ラストナンバー「夜に叶えて」は、その流れもあっただけに、尚更、訴えかけるように丁寧に歌われて、最後の最後まで強い印象を植えつけた。後に控えたランナーたちにバトンを渡せただけでなく、良きプレッシャーもかけられた素晴らしき走り。杉浦の深く深く頭を下げるお辞儀からも、観客への感謝と、やりきった想いが届いた。

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

KALMA

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

T・レックス「20th Century Boy」。約51年前のイギリスのロックナンバーが鳴り響き、異様な興奮と高揚を感じる。こんな不敵で挑発的な登場SEで登場するのは、セカンドランナーのKALMA。ボーカル&ギターの畑山悠月は軽く飛び跳ねながら現れるが、まるで試合前のプロレスや格闘技の選手の如く闘争心がビシバシと伝わる。畑山とベースの斉藤陸斗がドラムの金田竜也の方に向き、そのまま間髪を入れずに「ペーパーバック」へ。<歌で歌で>というサビ部分から敢えて歌い出して、その上で、帝国喫茶、シャイトープ、クジラ夜の街という3バンドの名前と、それぞれの良さを端的に語り、その3バンドの良さは自分たちには無いことも認め、だが「一番生々しいロックンロールを魅せるんで!」ととんでもない宣戦布告をする。<けどアイツには負けたくなくて>という歌詞も実際にあるが、敬意を示しながらも、しっかりとライバル意識も示す。これぞ対バン! 観ている我々も自然に拳を握ってしまう。続く「隣」もぶっ飛ばしていくが、本人も言っていた通り、とんでもなく歌と演奏が伸びていく。なんばHatchという大きなライブハウスだからこその、その伸び伸びとしたロックンロールグルーブを初っ端から自分たちのものにしている。

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

古き良きドカドカうるさいロックンロールバンドを現代で更新しているKALMAだが、「これでいいんだ」でのギターリフなどを聴くとキラキラも持ち合わせていることが強烈にわかる。そして何よりも言葉の強さがとんでもない。まぁ、1曲ずつ丁寧に触れていきたいところだが、この文字数では全く足りないくらいに詰め込みまくったセットリストであり、持ち時間を思わず心配していたら、予想通り、7曲終わったところで残り時間を気にして、「5曲残している! じゃあ2曲削ります!」と無茶苦茶な報告が! 

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

てか、ロックンロールは無茶苦茶で良いに決まっていて、観ている僕らを満足させてくれたらよい。楽器のスタッフを呼び込んでギターエフェクターのボタンを押してもらったり、舞台から降りて柵越しの観客にマイクを渡して人力マイクスタンドで歌ったり。そして清水音泉への感謝であったり、清水音泉主催の野外イベントに出れなかった悔しさであったり、120分あっても絶対に足りないくらいの強い楽曲と強い気持ちと強い愛をぶちまけてくれた。文字数も全く足りないのだが、最後に短く記すが、なかでも新曲「恋人はバンドマン」が素晴らしすぎた。今が一番格好良いのがロックンロールであり、何よりも命を削ってまでして、今の気持ちを曝け出していたのが凄かった。何でか泣けてしまった……。これだけは最後に書いておきます。

写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)

シャイトープ

サードランナーはシャイトープ。セカンドランナーが良い意味で荒らしまくった走り場で、どう魅せてくれるのかと、個人的にも初めてじっくりライブを観るだけに興味があった。でも、そんな勝手な危惧は1曲目「桃源郷」のカンカンカンというドラムカウントでどうでもよくなった。たったそれだけのことなのに、それだけでそう思わせる堂々とした佇まい。しっとりしたナンバーながらも、のっけから惹きこんでしまう。

2曲目「None」でのメリハリのある聴かせ方も良かった。リズムビートが一気に鋭さを増し、なのに落ち着いた声で「Ladies and gentlemen」と歌い、確かなロック魂を感じさせてくれる。スローやミディアムなナンバーのイメージを持ってしまっていただけに、このバンド感は嬉しかった。

3曲目「誘拐」も、「これぞスリーピースロックバンド」なアレンジで、アップテンポな中にバンドの勢いをも感じさせていた。続く「Burn!!」。これまた骨太ロックであり、演奏も歌詞もシャープでタイトに突き刺さってくる。タイトルに沿ったコール&レスポンスを観客と共にした「curry & rice」、その次に鳴らされた「マーガリン」という終盤2曲でストレートなロックナンバーが続いたというのは実に意味を感じた。だからこそ、「次は僕たちの大事な曲をお聴きいただけたらと思います」という「ランデヴー」の沁み方は観客にとって尋常じゃなかったはずだ。観客に何を伝えたいかが明確であった。

ラストナンバーは7月17日(水)にメジャーデビューシングルとしてリリースする新曲「ヒカリアウ」。当たり前だが、リリース前だから、どんな楽曲か観客は分からないわけで、それだけにボーカルの佐々木想は歌に込めたメッセージを丁寧に丁寧に伝えていた。そういうことを妥協せずにやり遂げるからこそ、しっかりと観客は新曲に耳を傾けたし、実際にリリースされてから聴いたときに、今日のライブのこともを思い出させてくれるのだろう。完璧な状態でラストランナーつまりはアンカーにバトンは渡された。

クジラ夜の街

ドラムがライティングされている。そのデコレーション、イルミネーションは美しくて、ファンタジーの世界がスタートすることを教えてくれる。言うまでもなく対バンではあるのだが、クジラ夜の街のリサイタルに招待された気分になっているから不思議だ。一種の魔法をかけられた気分になっている。そうでなかったら、「みなさん長らくお待たせしました! これよりファンタジーを創るバンド、クジラ夜の街。演奏したいと思います!」なんて言えないはずだ。というのも、1曲目が始まる前から、なんとも言えない自信を感じていた。絶対に、必ず、クジラ夜の街の虜にしてみせるという自信しか伝わってこなかった。そうなりゃ「超新星」がバッチリ決まらないわけない。観客も不思議なもので、クジラ夜の街リサイタルを観に来たテンションに見事に仕上がっている。スーパーベースなんていう紹介がボーカルの宮崎一晴からもあったが、佐伯隼也のベースソロは聴き応えあり、ファンタジーの世界でありながらリアリティーの凄みもしっかりと届けてくれる。ちなみにギター・ドラマー・キーボード・ボーカルと全てにスーパーを付けて紹介するのも、ファンタジーとリアリティーの両方を個人的に凄く感じた。

「とあるところに魔法使いが…」なんていう語りから入り、「そんなお話です」とも語っていたが、まるで絵本を読み聞かせてもらっているような感覚になれるというかひとつの物語を観ているというか、ストーリーテラーというか……その表現の魅せ方はオリジナリティーでしかない。それは「詠唱」「ラフマジック」の流れで、完全に表現されていた。そんな中で曲終わりに清水音泉担当女史の名前を出して、「(清水音泉担当女史の)想いに応えないとね!」なんていう現実的なMCもニクかったし、粋であった。

「踊ろう命ある限り」では畳みかける演奏もあり、一晴が指揮者みたいにメンバーのグルーブをまとめて煽っていくのもバンマスとしての才能も如実に表れてた。「裏終電・敵前逃亡同盟」ではムーディーなサウンドも心地良かったし、車掌が電車についてロマンチックに語るなんていう、まるで絵本の世界に紛れ込んでしまった鋭感さもあり、クジラ夜の街のライブの魅せ方の振れ幅に驚くのみ。

「再会の街~ヨエツアルカイハ1番街の時計塔」でのコンサートホール感であったり、「祝祭は遠く」での楽隊感であったり、「夜間飛行」「夜間飛行少年」でのエモーショナル感であったり、色々な感情を与えてくれることを書くには文字数がやはり足りないのだが、ラストナンバーについて書かないわけにはいかない、本当に……。

7月3日(水)リリースのメジャー2nd EP「青写真は褪せない」にも収録される「Saisei」。こんな陳腐な書き方はしたくないけど、でも、結句、生と死を考えざるおえなかった……。一晴は日本武道館でライブという夢も明かしながら、観客への想いを長く長く語り尽くしてくれた。あくまで私の感想にしかならないが、家族であったり身近な人間への想いも頭にも心にも浮かんだし、何よりも目の前にいる観客を大切に大事に想っている一晴の魂に胸を打たれた。

『Band On The Run!』。すごい速さでランナーたちが走り抜けていった、それぞれにしかできない走り方で。みんなトップランナーであり、みんなアンカーであり、だから、どのランナーのことも忘れられない。どんな走りを次は魅せてくれるのだろうか。『Band On The Run!』……まだまだ走り続けていく。

取材・文=鈴木淳史 写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)