今の中学受験の特色のひとつが、入試問題の多様化。30年ほど前に“中受”を経験した親は、つい自分の時代と結びつけて子どもに語りがちですが、まったく役立たないほど、昔と今では違うものとなっています。そこで、入試問題のスペシャリスト、過去問題集を出版する「声の教育社」の後藤和浩さんに、実際の首都圏中学入試で出題された問題を例に挙げながら解説していただきます。

中学受験の入試問題、この数年でどう変わった?

かつての中学受験の入試問題は、知識があれば即答できる一問一答の出題が多く、思考力を試すような問題は一部の私立の難関中でのみ出されていました。ところが、公立の中高一貫校の適性検査を皮切りに、最近では中堅私立中でも広く取り入れられるようになってきたそう。その変化の理由は、ズバリ大学入試改革の影響だといいます。

「中学受験は、大学受験の変化にとても敏感に反応します。数年前から大学入試改革が始まり、大学の入試問題で思考力や表現力が問われるように。すると、それと連動するように、中学入試でも『あなたはどう考えますか?』というような思考力を試す問題を導入する学校が増えてきました。ほかにも、与えられた複数の資料や表から複合的に考えて答えを導き出す問いや、机にかじりついているだけではなく、さまざまな『体験』をしていないと解けない問題などが目立ちます」(後藤和浩さん、以下同)

思考力を試す問題のトレーニングは「親子の会話」が有効

たとえば、2023年の横浜創英の国語では、一枚の写真を提示し、「どのような場面であるかを、見ていない人にも伝わるように説明する」問題が出されました。

「この写真は、子どもたちが雑巾がけをする様子ですが、複数人の子どもがいて動きもさまざま。この場面を写真を見ていない人にもわかるように解説するとなると、大人でも頭を悩ませてしまうのではないでしょうか? 自分の考えたことを言葉で表現し、伝える力が求められる問いとなっています」

また、2024年の開智所沢・特待Aの社会では、「分断」という言葉の広まりとメディアの相関関係を、グラフから必要な情報のみを取り出して説明するという出題がありました。さらに、「多様性の重視」と「社会の分断を防ぐ」という、一見相反する考え方の双方を両立させるにはどうすべきか? という受験生自身の考えを求められる問いもあり、資料から読み取れることを答えるだけでなく、そこから一歩踏み込んで自分なりの意見を述べる力が求められていることがわかります。

「こういった思考力や表現力が問われる問題への対応力を高めるには、家庭での“雑談”が有効。テレビや新聞で出た話題に、『どう思う?』と積極的に会話をすることで、普段から考える癖をつけると実践で役立ちます。また、ジェンダーや貧困、ChatGPTなど、世の中で話題になっているキーワードは入試で取り上げられやすいので、家族で確認しておくといいでしょう」

大人も楽しい!雑誌のようにつくり込まれたカラー問題

「入試問題を見れば、入学してからの授業の面白さや充実度が想像できる」という後藤さんが毎年楽しみにしているのが、雑誌やパンフレットさながらにつくり込まれた清泉女学院のAP(アカデミックポテンシャル)入試の問題。カラーのイラストがふんだんに盛り込まれたAP入試の問題は、先生方のすさまじい情熱を感じることができます。

「22年度の問題では『いざ、鎌倉』をテーマに展開され、ガイドブックさながらの別冊資料まで添付してあったりと、これを読むだけで授業を受けているような気分になります。本や図鑑を読むのが好きな子どもは、楽しみながら解くことができるはず」

小6からのチャレンジもアリな“一教科受験”も

教科数も、その内容もますます多様化している中学入試。そのなかでも、算数一教科受験、しかも標準レベルの問題のみというかなりユニークな方式を取っているのが、普連土学園の2月1日午後入試です。

「特殊算の基礎的な問題を50分間で50題解くという、とてもシンプルなものです。ゆっくり時間をかければ満点を取れるかもしれませんが、それを入試本番でスピーディにミスなく解けるかがキモ。真面目にコツコツ学習できる子に入学してもらうにはどうすればいいかを学校側が考え、この形式を思いついたのでしょう。実際、この試験で入学してきた子は、その後の成績の伸びもいいのだとか」

算数だけなら、短期間で準備して入試に臨むことも可能。こういった一教科受験は、小学4〜5年生での入塾を逃してしまった子どもにもおすすめです。

「学校側も多様性のある子どもたちに入学してほしいので、入試の内容は本当にさまざまになってきています。まずはいろんな学校の入試問題を実際に見て、わが子が興味をもちそうな問題がないかを、ぜひ探してみてください」