「フランス人はおしゃれでグルメ。それは私たちがつくり上げているかもしれません」と話すのは、フランス文化研究者・翻訳家のペレ信子さん。パリ五輪も近くなり、世界中がパリへの注目度が高まっています。フランス人と言えば、おしゃれで、グルメで、人生を楽しんでいるイメージ。でも、そのイメージのうち、じつは現実はちょっと違うのでは? とペレさんが思っていることを3つお話ししてくださいました。

フランス人は普段、朝食にクロワッサンを食べない

フランス旅行に行った人が「朝食のクロワッサンがおいしかった!」と感動して帰ってくることがよくあります。試しに「フランス、朝食」というキーワードで画像検索すると真っ先に出てくるのはクロワッサンの写真。「フランスの朝食=クロワッサン」という図式ができあがっているようです。

【写真】日本人が思うフランス人の朝食

そんなすてきなイメージに水を差すようで心苦しいのですが、フランス人は朝食にクロワッサンを食べません。というか、厳密には普段は朝食にクロワッサンを食べていないのです。

サクサクでバターたっぷりのリッチなクロワッサンはおいしいですが、そんな状態のクロワッサンは焼きたて。そしてシンプルなバゲットに比べると高価。毎日の忙しい朝に焼きたてのクロワッサンを買いに行く時間的、そして金銭的余裕はないというのが実情です。

どちらかというとクロワッサンは週末など余裕のある時のお楽しみ。普段は前日のバゲットの残りや、保存の効くビスコット(堅焼きのカリカリした薄い食パンのようなもの)やシリアルなどで、倹約家の彼らは簡単に済ませることが多いのです。

室内で外靴を履かなくなってきている

海外の映画やドラマの影響でしょうか、「外国ではベッドルームまで外の靴を履いている」というイメージがあります。私も映画でそんなシーンを観た記憶がありますが、日本人的にはちょっと理解できないシチュエーションです。

たしかに、室内に外靴で入る人もいると思いますが、ここ最近、フランスでは変わってきている印象。気のおけない友達や親戚の家に行った時は玄関を見て、その家の人が玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えているようなら「私も靴を脱ぐね」と声をかけることにしています。「別に好きにしていいよ」と言われることも、「ありがとう、そうして」と言われることもあります。ちなみに靴を脱いでも来客用のスリッパはありませんので、ストッキングや靴下で過ごすことになります。

新型コロナの流行の後、人々の衛生観念に変化が見られ、玄関でスリッパに履き替えることが増えているようですが、全く初めてのお宅で靴を脱ぐことはまずありませんのでお気をつけて。

フランス人は10着しか服を持たないわけではない

アメリカ人の著者が書いてヒットした本『フランス人は10着しか服を持たない』。フランス人といえばおしゃれ。また、ココシャネルの名言「流行は流行遅れになるけれど、スタイルは廃れない (La mode se démode, le style jamais)」にあるように、流行を追うことよりも自分のスタイルを確立することが大切だというのはとてもフランスらしい考え方。

それでは自分らしいスタイルを確立するには服を10着に絞らなければならないのか、というとそうでない気がします。パリにあるような狭いアパルトマンでは、服を厳選しなければならないこともあるけれど、最近はファーストファッションの影響で色んなおしゃれを楽しむ人も増えている様子。でも本気になれば、自分のワードローブを10着に絞れるくらい自分のスタイルを持っているということなのでしょう。実際に所有しているのが10着かどうかは別にして。

フランス人の友人とこの話をした時に、「フランス人が10着のワードローブに絞るとしたら、その特徴はシャネルもユニクロも同じレベルで存在する独自の審美眼を持っていること」と言っていたのが印象的でした。

フランス人も変化している

昔からのイメージのフランスと、時と共に変化するフランス。ユニクロがフランスでも浸透してきて基本のワードローブに入ってきたり、新型コロナ感染症流行後に出てきた新しい生活様式があったり、なにかが変わっていく過渡期にあると感じているこの頃です。