慶應大の清原正吾

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高校時代はアメフト部

 東京六大学野球は、全国の大学野球連盟のなかで最も歴史があり、レベルの高さは1、2を争っている。今年の春リーグ戦で大きな話題となったのが、西武、巨人などで活躍した清原和博氏の長男、慶応大の清原正吾(4年、慶応高)だ。昨年まではリーグ戦通算1安打だったが、今年はファーストのレギュラーに定着。13試合に出場し、打率.269(52打数14安打)、7打点、0本塁打という成績を残して、ベストナインを受賞した。

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 清原は、中学でバレーボール部、高校ではアメリカンフットボール部に所属しており、大学入学に至るまで6年間も本格的な野球から離れていた。

慶應大の清原正吾

 ベストナインを受賞した選手を見ると、ショートの早稲田大・山縣秀(4年・早大学院)や、外野手の東京大・大原海輝(3年・県立浦和)といった野球強豪高の出身ではない選手はいる。しかし、高校で野球部に入っていなかったのは、清原だけである。もちろん、偉大な父親から受け継いだ才能もあるだろうが、大学入学後に相当な努力を積み重ねてきたことは間違いない。

 一部のマスコミ報道によれば、清原が今秋のドラフト会議で指名されるのではないかと期待する声も上がっているという。しかしながら、支配下指名の可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

ファーストに必須な長打力

 大きな理由の一つが、清原が“一塁手”であるということだ。プロ野球では、ファーストは外国人選手や他のポジションからコンバートされたベテランが守ることが多い。こうした事情もあって、ファーストの選手はよほどの長打力がないと、ドラフトで指名されることはない。特に、大学生の場合、こうした傾向は強いのだ。

 過去10年のドラフト会議を振り返ると、一塁手として指名された大学生は、佐野恵太(明治大→2016年DeNA9位)と村田怜音(皇学館大→2023年西武6位)しかいない。佐野は東京六大学で通算6本塁打、全国大会で2本のホームランを放っている。村田は、公式戦で大学通算25本塁打を記録している。

 このほか、中山翔太(法政大→2018年ヤクルト2位、現・オイシックス)、甲斐生海(登録名は生海、東北福祉大→2022年ソフトバンク3位)、北村恵吾(中央大→2022年ヤクルト5位)は、大学時代こそファーストをメインで守ることが多かったものの、複数のポジションができる。

 清原は、春のリーグ戦で、試合途中からライト、セカンドに回ったケースはあったが、全試合ファーストのスタメンで出場している。リーグ戦通算成績は、18試合に出場して、打率.246(61打数15安打)、7打点、5四死球、0盗塁、出塁率.303 長打率.327 OPS.630となっている。

 15安打中5安打がツーベースで、それなりの長打力は備えているが、ホームランはいまだに1本も出ていない。プロ側もホームランがないファーストを守る選手を高く評価することは、当然、難しいだろう。

スカウト陣の反応は……

 もうひとつ、支配下指名の可能性が極めて低い理由が、打撃以外のプレーに飛び抜けたものがない点だ。

 脚力と肩の強さがあれば、他のポジションへのコンバートが考えられる。だが、筆者が、これまでのプレーを見ても、目立ったパフォーマンスは見られない。

 一塁までの到達タイムは、右打者の場合、4.20秒を切れば、ある程度のスピードがあると見られる。筆者が計測した限りでは、清原の最速タイムは4.30秒で、ほとんどが4.5秒以上だった。決して鈍足ではないが、足を武器にできるレベルにはない。前述したように、盗塁は一つも記録していない。実際、リーグ戦での通算盗塁数も0である。一方、肩については、スローイングの強さがあるわけではない。

 筆者の現地取材で、スカウト陣の動きを観察したが、清原の打席を撮影する姿を見たことはない。また、清原のプレーについて、スカウト陣からコメントが出たことも、筆者がスカウト陣から感想を求められたこともない。そういった現場の雰囲気からも、今秋のドラフトで支配下指名の対象として、清原を視察している球団はないと断言してもいいだろう。

 今秋のリーグ戦で、スカウト陣が驚くような活躍ができれば、育成でのプロ入りが見えてくる可能性も否定できないが、清原が果たしてそれを選ぶだろうか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部