アドビは6月14日、プレスイベント「Adobe AcrobatとPDFの未来」を開催しました。6月15日の「PDFの日」を翌日に控えたこの日のイベントは、Webアンケートから見えたビジネス文書の課題とその解決策としてのPDFの提示、生成AI機能「Acrobat AI Assistant」のデモンストレーション、2024年5月に募集した「私のイチオー業務川柳」キャンペーンの応募結果発表と盛りだくさんの内容となりました。

「私のイチオー業務川柳」の発表に参加したミキの昴生さん・亜生さんと、アドビ株式会社 執行役員の竹嶋拓也氏(中央)

PDFフォーマットは1993年6月15日にアドビから発表されました。これを記念し、2023年に6月15日を「PDFの日」に登録しています

イベントの最初のブロックでは、アドビ株式会社 マーケティング本部デジタルメディアビジネスマーケティング 執行役員の竹嶋拓也氏が登壇しました。同氏は、2024年1月に施行された電子帳簿保存法の改正、2024年10月に予定されている郵便料金の値上げといったビジネス文書を取り巻く環境の変化を踏まえて2024年4月に実施した、「ビジネスにおける帳票郵送業務に関する調査」の結果を紹介。そこから見えてくる課題に対して、Acrobat/PDFがどんな解決を提案できるかを語りました。

アドビ株式会社 マーケティング本部デジタルメディアビジネスマーケティング 執行役員の竹嶋拓也氏

2024年4月に実施された「ビジネスにおける帳票郵送業務に関する調査」

最初に紹介された調査結果は、電子メールでの文書送付に関するもの。パスワードで保護されたファイルを電子メールで送信し、その直後にパスワードをメールで送る、いわゆる「PPAP」でファイルの送受信を行ったことがあるかという質問で、82%がその経験があると回答しています。

この送信方法は、別便で送付するとはいえ立て続けにメールを送ることになりがちで、誤送信に気付いたとしてもパスワードも送られてしまっていることが多くなります。またZIPファイルの暗号化は、現在では必ずしも安全とはいえません。さらには、暗号化ZIPファイルとして送付されたデータはモバイル機器から取り扱うのが面倒と、ダメなところが多いと竹嶋氏は指摘します。

暗号化済みファイルとそのパスワードを別メールで送る/受け取るのを経験したことがある人は82%にのぼります

続いて、ビジネス文書のデジタル化が進む中でどんな書類が紙の形で残っているかを聞いています。上位には見積書・請求書、領収書などが挙がっていますが、次の設問としてそれらを紙に印刷して送付する際にPDFなどのデジタルデータでも送っているかを聞いたところ、69.5%がデジタルでも送っていると回答しているそうです。つまり、デジタルで文書を取り交わすことが可能であるにもかかわらず、何らかの理由で紙書類の送付を強いられているということ。こういった点を改善することが生産性の向上につながり、また前述の郵便料金値上げなども考えると紙書類の送付を続けるのはコスト上昇にもつながってしまいます。

どんな書類で紙資料が利用されているか

紙資料を送付する際には、デジタルデータでも送っているというケースが約7割

こういった紙の書類・資料が残り続けているのはなぜなのでしょうか。デジタル化を進めたくないという人にその理由を尋ねたところ、もっとも多かったのは「手書き・神の処理に慣れているから」という回答だったそうです。それに続くのが、「デジタル処理に不慣れだから」「業務が増えてしまう」といった理由で、「会社がデジタル化を認めていない」「業務上や法律・制度上デジタル化が不可能なため」という理由はそれほどおおくありませんでした。

つまり、デジタル化が進まないのは組織や制度の問題ではなく、個々のマインドではないかということがうかがえます。竹嶋氏はこのデータを見て、「我々の努力も必要なところですが、デジタル化のメリットを伝えられていないのではないか。それを伝えられれば変わってくるのではないか」といい、この後に紹介される「Adobe Acrobat」のAI assistantなどがデジタル化のメリットを感じてもらえる機能なのではないかと話していました。

デジタル化を進めたくない理由

そんなデジタル化への姿勢が従業員に与える影響・印象はというのが次の設問です。承認や帳票処理などにおいてデジタル化への対応が遅い会社をどう思うかという質問に対して、全体では58.2%が、そういう会社では「働きたくない」と答えているそうです。20代の若手に限るとその傾向はより顕著で、64%が「働きたくない」と回答しているとのこと。人手不足で採用が難しくなっている現状、デジタル化への取り組みは採用にも影響してくるわけです。

デジタル化への対応が遅い会社で働きたいか

最後に、業務で非効率/無駄だと感じる業務慣習はどんなものかを聞いています。もっとも多い「書類への押印、捺印」や3位の「紙資料の印刷・配布」はさもあろうという感じですが、「メール送信時の定型文」が2位に挙がっているのは興味深いところです。先ほど触れた「パスワード付き添付ファイルの送受信(パスワードを別途送付)」も3割強が挙げています。

非効率/無駄と感じる業務

こういった調査結果で見えてきた無駄な業務に対して、竹嶋氏は「手前みそではありますが」と言いつつ、「Adobe Acrobat」がその改善に寄与できるといいます。紙資料のかわりにPDFで配布・共有を行なえば、Document Cloud経由での共有/共同編集、Adobe Scanによる電子化、Acrobat Signによる電子承認などを利用すれば、ここまでに挙げられたような非効率/無駄な業務が不要になるというわけです。

非効率/無駄な業務を「Adobe Acrobat」で解消

そこからアドビが今回提唱するのが、「みんなでSTOP 一応やってる仕事 〜5つのSTOP宣言〜」。非効率/無駄な仕事の中でもよくある5つのパターンを挙げ、それを“やめよう”と提言しています。具体的には、「請求書や領収書の原本の二重郵送」「会議資料のプリントアウト」「印刷して捺印してまたスキャン」「押印と電子署名の二重手続」「メール添付ファイルのパスワード後送」の5点。前ページのスライドにもあるようにこの5つにはデジタルによる代替手段が用意されていますから、それを利用して非効率/無駄な仕事をやめよう、ということです。竹嶋氏は「誰かに対して『やりなさい』と言っているつもりはなくて、ひとりひとりの心がけや管理職の方の考え一つで変えていけるものばかりだと思っています」といい、「この提言をPDFの日のメッセージとさせていただきます」とこのパートを締めくくりました。

みんなでSTOP 一応やってる仕事 〜5つのSTOP宣言〜

そして竹嶋氏は、「ここからはドキュメントのデジタル化の先、PDFの未来についてお話したいと思います」といい、デジタル文書の活用についての話に移りました。

PDFは今やどの会社も持っており、それはいわば“ドキュメント資産”というべきものになっています。しかしそれはただ保管されているだけというケースがほとんど。それを宝の山として何とか活用できないかと考えている企業はたくさんあるといいます。

そしてこういったドキュメント資産の活用に向け、「Adobe Acrobat」のAIアシスタント機能を利用によって、それがナレッジの財産に変わる可能性がある、というのです。

その一端を示すため、ここでAIアシスタント機能のデモが行われました。なお、現時点でAIアシスタント機能は英語版のみが実装されているため、デモはまず英語の文書を利用して行われています。

デモを担当したビジネスデベロップメントマネージャーの岩松健史氏

例として使用した文書は架空の会社の社内規則集のようなもので、給与規定や休暇規定などがまとめられており、25ページほどのファイルになっています。

最初に実演されたのは、文書のサマリー作成。右上のボタンをワンクリックするだけで、元文書の構成に従い、それぞれのセクションがどういった内容になっているかを要約してくれます。なお、今回は元文書がきれいにセクションに整理されたものでしたが、そうではない文書、たとえば会議の文字起こしテキストのようなものであっても対応できるといいます。

会議の議事録作成のようなソリューションはさまざまなベンダーから提供されていますが、文字起こしした内容をPDF化しそこに要約を生成するといった作業を一貫して行えること、そのためのシステムを導入することなく普段使っている「Adobe Acrobat」で処理を行えることが、アドビのソリューションを利用するメリットであると岩松氏は話していました。

文書を開いたウィンドウの右上、「Share」ボタン(日本語版の「共有」ボタン)の右にある「AI Assistant」ボタンがAiアシスタント機能を呼び出すボタンです。その下に縦に並んでいるアイコンのいちばん上のものをクリックすれば、要約が生成されます

生成された要約は元文書の見出し構成に従ったものになります。要約側でどこかのセクションをクリックすると、元文書の対応部分にスクロールし、内容を対照させることができます

なお、AIアシスタント機能を利用する場合、いちど文書をクラウドに送り、そこで文書の解析を行います。その時点で、ユーザーがその文書を読んで考えるであろう疑問などがすぐに提示されます。それ以外に、たとえば「休憩に関する規定はどんなもの?」という質問を投げれば、文書内から休憩に関する規定を探し、その内容を要約して回答してくれます。その回答には元文書の対応部分へのリンクも設定されているため、元文書を参照してその回答が正しい内容であるかを検証することもできます。





質問を投げると文書内を検索して回答してくれる

AIアシスタントに与えるプロンプトによっては、「検索された回答をスタッフに共有するための電子メールメッセージ文章を作成する」といったことも可能です。

電子メールのドラフトの作成を指示すると……

メッセージを生成してくれる



AIアシスタント機能のデモンストレーション

こういった英語版での機能に続いて、現在開発中のAIアシスタント日本語版の動作デモも行われました。AIアシスタント日本語版はこの数日前に動作するものができたばかりということで、この日が初公開。PDFについて解説している日本語の文書から「PDFを利用するメリットは何か」という質問の答えを見つけるなど、英語版で利用できるものと基本的に同じ機能が日本語で利用できるようになるとのことです。





AIアシスタント日本語版のデモ。岩松氏は「答えが英語で返ってきてしまうこともあるのですが……」と言いながらデモを進めていましたが、きちんと日本語で答えを返してくれました



AIアシスタント機能 日本語版のデモンストレーション

最後に岩松氏からは、「PDFをAIで活用するために」として、AI(AIアシスタント)で活用するために望ましいPDFについての話がありました。表や文字がイメージ(画像)として使われていたり、複数カラムの段組みが設定されている文書が正しく解釈されていなかったりするPDFでは、AIも正しくPDFから情報を取得できないそうです。そういった問題の起きない“精度の高い”PDFをAcrobatで作成してほしいとして、岩松氏はデモを締めくくりました。

Acrobatで作成したPDFは再利用性の高い、AIで活用するのに適したPDFだといいます

ここで竹嶋氏から、AIアシスタント日本語版の開発表明があらためて行われました。リリース時期や機能の詳細は未定とのことでしたが、「みなさまご期待いただければと思います」と竹嶋氏は話していました。

AIアシスタント日本語版の開発を正式に表明しました

そしてここからは、「私のイチオー業務川柳」キャンペーンの応募結果発表となります。ゲストとしてお笑いコンビ・ミキの二人も登場し、最優秀作品と、20の入選作品が発表されました。

「私のイチオー業務川柳」最優秀作品と20の入選作品

最優秀作品は「電子書類 印刷手書き 再スキャン」というもの。PDFには追記などをする機能があるのにも関わらず、こういった無駄な仕事が発生しているというよくある状況を切り取った作品です。入選作品の中で気になったものは? と問われると、亜生さんは「空気読み お辞儀ハンコで ヨイショする」、昴生さんは「役員の 会議資料は フルカラー」という作品を選んでいました。

昴生さんは「役員の 会議資料は フルカラー」という作品を選び、「われわれの楽屋弁当はサンドイッチだけで、MCさんは立派な焼肉弁当とか」と芸人でも似たようなことがあると話していました

さらに二人には、芸人が一応行っている「イチオー業務」を川柳の形で発表。昴生さんは「お兄ちゃん 声かけられたら 元気にはい!」と、普段から「お兄ちゃん」という声が聞こえたら明るく返事をするようにしているものの、「ミキのお兄ちゃん」に声をかけているわけではないことも多いというエピソードを披露。亜生さんが「出番前 西川きよしに 要注意」という川柳で、劇場の出番前などに西川きよしさんに声をかけられても邪険にするわけにもいかないという話をすると、昴生は「僕は『出番前』だけじゃなくて『ずっと要注意』だと思います」と笑っていました。

ミキの二人も「イチオー業務川柳」を発表

イベントの最後には質疑応答が行われました。AIアシスタントのデモの際に岩松氏が語った「再利用しやすい、精度の高いPDF」という話に関連し、AIが文書を分析してうまくPDFを作るということはできないのか、という質問がありました。アドビからは「ある程度はやるんですけれど、機械ではちょっと限界がある」との回答で、現状ではそれはまだ難しいようです。

また前述のPPAPを行わないという話に関連し、PPAPを使わないとしてなにがベストプラクティスになるのかという問いに対しては、AcrobatでWeb共有をする、PDFをMicrosoftnoMPIPテクノロジーで暗号化して開示対象を指定するといったソリューションを提示。またAIアシスタントで単一ファイルを処理するだけでなく複数ファイルの一括処理はできないのかという要望については、複数ファイルを対象として処理する機能は提供の予定があり、また例えばフォルダ単位の一括処理などについても機能実装の可能性があると答えていました。