その人が現在どうなったかはわからないけれど、女優からの評判が悪いと段々と現場に呼ばれなくなるのが一般的。技術だけではなく、それ以外の部分も重要視されるのがこの仕事の大変なところだ。

◆ヘアメイクの仕事は「身なりを整える」以外にも

 演者にお化粧して、髪の毛をセットしたらヘアメイクの仕事は終わりと思われがちだが、彼らは仕事中「何もしていない時間」がそう多くない。特にビデオ現場は女優のサポート(お世話係と表現しても良い)はヘアメイクが担当するため、常にバタバタとしながら1日を過ごす。

 制作スタッフに言いづらいこと、お願いしづらいことを仲介して伝えるのも彼らの仕事だ。コミュニケーションを取って1日を円滑に進めるための重要な役割を担うため、先ほど説明した“人柄が良い”というのは、この部分に大きく影響する。仮にメイクの性格が悪く、話しかけづらいとか、頼りないとかだと演者が困った際の助けが大幅に遅れ、トラブル発生の元になるかもしれないからだ。

 何か問題が起きれば現場が押すだけではなく、事務所とメーカーの摩擦に繋がる恐れさえ考えられる。ヘアメイクのちょっとした気遣いや“察する”能力の高さがトラブルを防ぐ例も多いので、気遣いも“仕事ができる・できない”をジャッジするポイントだ。

◆ヘアメイクは「現場全員の接着剤」に

 ヘアメイクは「現場全員の接着剤となり得る存在」と言えようか。ただ身なりを整え、演者を彩ればハイ終了ではないのがとても奥深い。彼らあっての撮影現場なのだから、冒頭で言った「全員頭が上がらない」の理由を少しは理解できたかと思う。

 ちなみにセクシー業界だけではなく、芸能界でもヘアメイク担当の動きは大体一緒である。ドラマや映画は拘束時間も期間長いことから1日撮りのビデオに比べると遥かに重労働で、メイクの人数も多い。どの界隈でも「ヘアメイクは神」という風潮は、全く同じだろう。

 あまり表には出ない裏方の事情も、知れば知るほど面白いもの。また機会があれば他のスタッフについても執筆する予定なので、首を長くして待っていてほしい。

文/たかなし亜妖

―[元セクシー女優のよもやま話]―

【たかなし亜妖】
セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。