住まいを探すためには、情報をいかに活用するかが大切です。取引価格などの情報はもちろんのこと、災害リスクの程度も気になれば、子どもがいれば学区や医療機関も気になります。特に物件を探す際には、いくつかの候補地を比較検討することになるので、こうした情報を複数地域で数多く集めるのは大変なことです。

そこで国土交通省が、いろいろなところに掲載されているこうした必要な情報を、地図上にまとめて閲覧できる「不動産情報ライブラリ」を提供することになりました。2024年4月1日から運用が開始されていますが、どんなライブラリなのでしょうか?

子育て家庭なら気になる教育関連情報も地図上で検索可能

「不動産情報ライブラリ」(TOP)

子どもがいなくても医療機関や公園が近所にあるか気になるものですが、子どものいる家庭ならなおさらでしょう。

住まいを選ぶ際には、子どもの安全面に配慮してできるだけ学校の近くに住みたいなど、それぞれに希望条件があるものです。地図上で小学校が近くにあったとしても、学区が異なって実際には別の小学校になるという場合もありえます。地元で住まいを探している場合は、分かっていることですが、地縁のない場所で探している場合には、役所で学区の確認をしたうえで地図を確認するといったことになるでしょう。医療機関も同様で、クリニックがあったとしても小児科かどうかまで調べないと、いざというときに利用できません。

「不動産情報ライブラリ」では、「周辺施設情報」が検索できます。「保育園・幼稚園等」「小学校区」「中学校区」「図書館」「医療機関」「福祉施設」「自然公園地域」などが、地図上で探せます。画像は吉祥寺駅周辺(武蔵野市)の例ですが、隣の西荻窪駅は杉並区になります。一般的には、所管する役所が異なるとそれぞれの役所の情報を調べることになりますが、ライブラリは地図上で探せるので、一つ隣の駅の情報もそのまま調べることができるのです。

■周辺施設情報で小学校区や医療機関を検索

学校区や医療機関など、欲しい情報を選択すると、
地図上で学校区(青色線内:画面上では第三小学校区域)や○で示した医療機関名、診療科目などが表示される

気になる不動産取引価格の情報を集約

不動産を買うときに最も気になるのは、価格でしょう。不動産の価格情報はさまざまあります。土地については、国土交通省が「地価公示(公示価格)」を、都道府県が「基準地価」を調査しています。

また、不動産ポータルサイトに掲載されているのは、売り出し価格ですが、実際に取引が成立した成約価格については、一般には公表されていません。成約価格を一般消費者でも知ることができるように、国土交通省が不動産購入者を対象にアンケート調査をした情報を「不動産取引価格情報」として公開しています。さらに、指定流通機構※が集約した、実際の取引の成約価格情報を個別物件が特定できないように加工して提供している「レインズ・マーケット・インフォメーション」もあります。

※指定流通機構は、通称「レインズ」と呼ばれ、不動産取引が円滑に進むように、宅地建物取引業者間で不動産情報を交換する国土交通省指定の団体。

「公示価格」や「基準地価」は土地の価格、「不動産取引価格情報」は宅地(土地/土地と建物)、中古マンションなど、「レインズ・マーケット・インフォメーション」はマンションと戸建てと、それぞれ対象とする物件は異なります。いずれも、不動産を取引する上では、相場を知ることができる貴重なデータです。

新しい「不動産情報ライブラリ」では、これらの分散した不動産の価格に関する情報を集約して、地図上で探せるようにしています。これからは、このライブラリひとつで、価格に関する複数の情報をまとめて探せるようになります。

■価格情報で公示地価、基準地価、成約価格などを調べる

知りたい価格情報を選ぶ
地価公示では調査地点(標準地)が決まっているので、その地点の平方メートル単価が表示される
「詳細表示」をクリックするとその地点のより詳しい情報や実際の「鑑定評価書」を見ることができる
成約価格の情報は、物件が特定できないように町(字)単位となり、「詳細表示」をクリックすると取引事例の情報が一覧で表示される

不動産の購入の決め手になる土地の条件もまとめて検索

不動産の購入を決める際に、どの土地にどんな建物が建てられるかなども知っておく必要があります。それが「都市計画」で、都道府県や市町村が決めています。

いろいろな都市計画がありますが、たとえば「用途地域」で「第一種低層住居専用地域」に定められた地域では、建ぺい率や容積率が抑えられているので、土地の目いっぱいに建物を建てたり、高い建物を建てたりすることはできません。また商業施設や工場などを建てることができないため、主に2~3階建てまでの低層の住宅が多い地域になります。

このような都市計画も、「都市計画情報」から探せます。画面上では、緑色のエリアは用途地域が「第1種低層住居専用地域」で、容積率は80%、建ぺい率40%であると分かります。色の違いは凡例で確認できます。

■都市計画情報で用途地域などを調べる

用途地域が色分けで表示され、その地域の容積率と建ぺい率も分かる

なお、画面上には「周辺施設情報」で選んだ情報がそのまま残っていて、その上に「価格情報」や「都市計画情報」が表示される形になっています。このように、知りたい情報を重ねてまとめてみることができるのも、ライブラリの大きな特徴です。

また、マイホームを探す際には、災害リスクも気になるところ。これまでも、国土交通省では「ハザードマップポータルサイト」を提供していますが、この「不動産情報ライブラリ」でも洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域、津波浸水想定区域、高潮浸水想定区域が地図上で確認できるようになっています。

■防災情報でハザードマップを調べる

洪水浸水想定区域が地図上で表示され、ピンク色が濃くなるほど想定される浸水の最大規模が深くなる

ライブラリの地図は、ゼンリンの地図と国土地理院の地図が利用できます。「地形情報」では、国土地理院の大規模盛土造成地マップ、陰影起伏図、土地条件図の切り替えができるようになっています。土地の履歴や詳しい情報が知りたい場合に活用できます。

■地形情報で大規模盛土造成地を調べる

地形情報の大規模盛土造成地マップでは、谷や沢を埋めたり、傾斜地に盛土をした大規模な盛土造成地のおおよその位置が分かる

街の成長性が地図から分かる?

このほかにも、駅の乗降客数が分かったり、将来推計人口が分かったりします。たとえば、「人口情報等」では2050年までの将来人口の試算結果が確認できます。人の動きから街の将来性が分かるかもしれませんね。まずは、自分で気になる地域の情報をいろいろと探してみてください。

■人口情報で将来推計人口を調べる

画面上では2050年の将来推計人口500メートルメッシュが確認できる。色分けは凡例でチェック

ここまで便利なライブラリですから、欲しい情報、必要な情報がまとめて入手できます。とはいえ、注意点もあります。ライブラリは、国土交通省の地図や情報、地方自治体が持っている情報、ゼンリンの地図情報などを集約して、まとめて見られるようにしたものです。情報の更新は、それぞれの元の情報源によって、時期や頻度が異なります。

したがって、不動産情報ライブラリで広範囲な情報を集めた後、実際に不動産を購入する際には、改めて最新の情報を確認する必要があります。たとえば、学校区も変わる可能性がありますし、医療機関の閉鎖や新規営業などもあるでしょう。ライブラリを便利に利用する一方で、自身で最新情報を確認するようにしましょう。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

国土交通省「不動産情報ライブラリ」
URL:https://www.reinfolib.mlit.go.jp/