街中に溢れていた「タピオカ屋」はどこに消えたのか…「一過性のブーム」でも収益を生み出す"すごい仕組み"
※本稿は、菅原由一『タピオカ屋はどこへいったのか? 商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■1回目の「タピオカブーム」は1992年
社会の変化を捉え、ブームに飛び乗ること。これは儲けるための定番の方法です。タピオカ屋の急増と成功はその典型といえるでしょう。
タピオカ屋が流行り始めたのは2018年ごろで、19年には新語・流行語大賞のトップ10に「タピる」がランクインしました。
じつは、このブームは3回目です。1回目は1992年で、80年代から流行っていたアジア料理のデザートとして出された白いタピオカが入ったココナッツミルクが流行しました。2回目は2008年。台湾の飲食チェーン店が日本に増えて、タピオカミルクティが流行しました。このときにはタピオカは白から黒になり、スプーンで食べるものからストローで飲むものに変わっています。直近のブームの原型はこのときにできたものです。
そして、2018年が3回目です。きっかけは、LCC(格安航空会社)の就航によって海外へのアクセスが安価になり、近場である台湾旅行の人気に火がついたことで本場のタピオカミルクティの人気が再燃したのです。
■飲料としてではなく「撮影の小物」として流行
直近のブームが前回までと異なるのは、インスタグラムが重要なキーワードとなったことです。新語・流行語大賞を見ると「タピる」がランクインした前々年の2017年に「インスタ映え」が年間大賞に選ばれています。
若いSNSユーザーたちはインスタ映えするネタを探していました。その下地がある状況でタピオカミルクティが「映えフード」としてマッチして、喉を潤すために買われていたタピオカミルクティが、写真に撮って投稿する若者のアイテムとして買われるようになったわけです。
飲料としてではなく撮影の小物としてタピオカミルクティが流行った現象は「コト消費」の表れといえます。コト消費は、体験の価値を重視して商品を購入する消費行動のことです。
従来の消費はモノの機能を重視していましたが、多機能で高機能なモノがひと通り世の中に行き渡った結果、モノを通じた形ある価値よりも、モノを持ったり使ったりすることを通じた形のない価値(コト)が重視されるようになりました。これは事業を考えるうえで押さえておきたい社会変化の1つです。
社会変化という点で見ると、ブームは短期的な社会変化といえます。ブームよりも息が長いのがトレンドで、さらに長くなると変化が常識として定着します。環境問題はブームからトレンドになり、常識になった一例といえるでしょう。
今でこそ世界全体が環境に配慮することを常識としていますが、過去にはロハス、エコ、エシカルといった短いブームを繰り返し、SDGs時代になってようやく広く浸透したわけです。
■消えたタピオカ屋は「次のブーム」に乗り換えていた
何がブームになるかは分かりません。ブームがどれくらい大きくなり、どれくらい続くかも分かりません。
これを事業機会とする場合は、どんな商品にも寿命(プロダクトライフサイクル)があることを踏まえておくことが大事です。また、一過性のブームで終わるかもしれないリスクを考えて、いつでも撤退できるようにすることがリスク対策になります。
そのためには、少資金、省スペースで開店(開業)するなど、開業にかかるコスト(イニシャルコスト)を安く抑えることがポイントです。
ブームが長続きするようなら追加投資をし、冷めつつあると感じたら次の事業機会を探すといった柔軟性と俊敏性を持っておくことで、時代の変化に乗ることができるのです。
さて、一時期は街中に溢れていたタピオカ屋ですが、今も残っているのはGong chaやBull Puluなど一部のチェーンだけです。
消えたタピオカ屋がどこに行ったかというと、ある店は唐揚げ店になり、ある店はマリトッツォの店に変わり、ある店は焼き芋の店になりました。
イニシャルコストを徹底的に抑えることで短期で利益を回収し、ブームが去ったらすぐに見切りを付けて撤退する。
この変わり身の早さを活かして、消えたタピオカ屋は次のブームに乗り換え、新たな収益を生み出しているのです。
■コンビニはいつから日用品を置くようになったのか
便利さは繁盛店の共通項です。便利な商品やサービスを提供することが来店理由になり、来店需要を生み出すことにつながります。
そのニーズに応えて成長してきた代表例がコンビニです。コンビニは24時間営業ですから、急な買い物にも対応できます。肉や野菜なども売っています。
近年はコンビニの多機能化が進み、ATMでお金をおろす、宅配便を送るといった用事も済ますことができ、その名の通りコンビニエンス(便利さ)が増しています。
また、最近は2リットルの水、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなど日用品の扱いも増えています。こうした品揃えの拡充によって、働く人や忙しい人を中心にコンビニをスーパーマーケット代わりに使う人が増えました。
この背景にある社会変化は、働く女性が増えたことです。専業主婦世帯と共働き世帯の数が逆転したのは1990年代のことです。80年代に入るまでは専業主婦世帯が共働き世帯の2倍を占めていましたが、2022年の調査ではその数は逆転し、共働き世帯が専業主婦世帯の2倍を占めるようになりました。未婚者も含む女性全体で見れば、働く人のほぼ半分(45%)が女性です。
仕事をする女性は日中に買い物をすることが難しいため、夜遅くまで開いている店を求めます。調査を見ても、専業主婦層の多くが午前中に買い物をしているのに対し、仕事をする主婦層の多くは15時から18時に買い物をしています。
また、仕事をしていると買い物に使える時間が少なくなります。安くてお得な商品を求めてあちこちの店を回る時間が減り、最小限の移動で必要なものが揃う店が重宝され、その結果としてコンビニの価値が高まったのです。
■「開いててよかった」から「近くて便利」へ
コンビニの便利さの変遷を見てみると、1974年に1号店をオープンしたセブンイレブンは、当時のキャッチコピーとして「開いててよかった」を掲げていました。これは夜中でも開いている便利さをアピールするものです。
当時は夜中に買い物できる場所がなく、夜中の買い物ニーズを一手に引き受けることを成長のきっかけにしました。
ちなみに、夜の買い物需要で成長したという点ではドン・キホーテも同じです。ドンキは、あらゆる商品を揃え、それらを安く売るとともに、生活時間が24時間化している都市部において深夜営業を先駆けたことで大きく成長しました。
コンビニ業界に話を戻すと、街中にコンビニが増えたことで、夜に買い物する不便さが解消され、「開いててよかった」ありがたみが薄れました。
この変化を踏まえて、セブンイレブンのキャッチコピーは「開いててよかった」から「近くて便利」に変わりました。コンビニの価値を「夜でも開いている店」から「近くて便利な店」に変えたわけです。
■価格で比べればスーパーで買ったほうが得だが…
コンビニの強みである「便利さ」は、忙しい人が増えることによってその価値を高めています。
今後もコンビニをスーパー代わりに使いたい人たちは、すぐに飲むための500ミリリットルの飲料だけではなく、買い置きのための2リットルの水をコンビニで買うでしょう。
コンビニの商品は基本的に定価販売ですから、価格で比べればスーパーで買ったほうが得です。そのことは消費者も知っています。
しかし、夜でも開いていて、スーパーよりも店舗数が多いため、コンビニの水を買います。ティッシュペーパーやトイレットペーパーも買います。つまり「便利さ」は「安さ」に対抗する武器になるということです。
これは日用品や価格競争が起きやすい商品を扱っている企業にとってヒントになるでしょう。日用品などは品質の差がつきづらく、そのせいで価格競争が起きます。
しかし、そこに便利さ(便利に買える)という価値をつけることで高くても売れるようになるのです。
■なぜラーメン屋は麺の硬さが選べるのか
多様性が重視される社会になりました。多様性は、簡単にいえば「みんな違って、みんな良い」ということです。
個人の好みに合わせた商品やサービスの提供は、消費者の満足度を高める効果があります。
例えば、スターバックスはミルクの種類や量などを変えることによって自分好みの飲み物にカスタマイズすることができます。
カレーチェーンのCoCo壱番屋は、ルーの辛さを甘口から20辛まで選べます。ライスの量も変更でき、好きなトッピングもできます。
ラーメン屋も好みの具材をトッピングでき、油の量や麺の硬さを指定することができます。これらはいずれも多様性への対応です。
このようなカスタマイズ対応は手間と時間がかかります。また、見返りとしての利益も決して大きくありません。
ラーメンを例にすると、売値100円、利益50円の煮卵をトッピングしてもらうために時間をかけるよりも、回転率を上げて1人でも多くお客さんを入れた方が売上は増えます。
それでもカスタマイズにこだわる理由は利用者の満足度が高まるためです。自分好みの味をつくれる(つくってくれる)ことがリピートしたい気持ちにつながり、それが中長期で通うファンづくりになるのです。
■大量生産と大量消費からの脱却につながる
カスタマイズ対応は競合店との差別化にもなります。例えば、最近はグルテンフリーやビーガンなどに対応した料理を提供する店があります。
これらはフードダイバーシティといわれ、細やかに対応することによって顧客層が広がり、店の特徴をつくることができます。
言い換えると、多様性への対応は、大量生産と大量消費からの脱却につながるということです。
モノ不足だった時代と違い、今は良質なモノが安く買えます。その環境に慣れたことで、消費者は大量生産されたありきたりなものでは満足しなくなりました。安くて良いものは相変わらず人気がありますが、高くても良いのでさらに良いものを求める人もいます。モノの質だけでなく、モノが提供される環境にこだわる人もいます。
そのニーズに応える手段がカスタマイズであり、大量生産と大量消費によるマスプロダクションに対して、個人の好みをより深く捉えるパーソナルマーケティングが求められるようになったのです。
■商品が生み出す「3つの価値」
さらに一歩掘り下げると、商品やサービスには3つの価値があります。
1つ目は、ユーザーにどのように役立つかを示す「機能的価値」です。
多機能なスマートフォンは機能的価値が高い商品です。事業としては、安くて美味しい牛丼やハンバーガーなども機能的価値が高いといえますし、あらゆるサービスに対応するコンビニも機能的価値が高い店といえます。
2つ目は、ユーザーの感情に訴えかける「情緒的価値」です。
例えば、店の雰囲気や接客などが良い高級レストランは、味だけでなく利用者の感情も満たすという点で情緒的価値が高いといえます。ディズニーランドなども情緒的価値が高い施設といえます。
3つ目は、ユーザーそれぞれの価値観に合うかどうかを意味する「自己表現的価値」です。カスタマイズやパーソナルマーケティングはこの領域で価値が高いといえます。
前述したマスプロダクションからパーソナルマーケティングへの流れを踏まえると、モノが十分に行き渡るようになったことで、世の中には機能的価値、情緒的価値が高い商品
とサービスが浸透しました。
その結果、新たな価値が求められるようになり、自己表現的価値が高いカスタマイズや、カスタマイズ可能な店の人気が高まるようになったということです。
カスタマイズ可能なラーメン店は、その方法で成長しています。これは他の業種でも応用できる方法で、多様性時代のビジネスの成功を支えるためのポイントともいえるでしょう。
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菅原 由一(すがわら・ゆういち)
税理士
1975年三重県生まれ。東京・名古屋・大阪・三重に拠点を置き、中小企業の財務コンサルタントとして活躍。YouTubeチャンネル「脱・税理士スガワラくん」は開設1年で登録者数38万人を突破する。著書に『会社の運命を変える究極の資金繰り』(幻冬舎)、『激レア 資金繰りテクニック50』(幻冬舎)がある。
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(税理士 菅原 由一)