三笘薫、久保建英がこの舞台に立ったら? CL準々決勝で目立った強力ウインガーたち
トーナメントは決勝戦より準々決勝、準決勝のほうが面白いとよく言われる。決勝トーナメントの準決勝までホーム&アウェーで戦うチャンピオンズリーグ(CL)はなおさらだ。一発勝負ではない気楽さが好試合に導く大きな要素となる。
レアル・マドリード3−3マンチェスター・シティ
アーセナル2−2バイエルン
パリ・サンジェルマン(PSG)2−3バルセロナ
アトレティコ・マドリード2−1ドルトムント
(左側がホーム)
4試合がいずれも接戦の好ゲームになった理由は、準々決勝という舞台と大きく関係する。
そのなかでいちばんの撃ち合いとなった一戦は、レアル・マドリード対マンチェスター・シティだった。ブックメーカー各社の下馬評によれば3番人気対1番人気。事実上の決勝戦と言いたくなる、準々決勝のなかでもいちばんの好カードである。3−3という結果はまさに決勝戦では拝めそうもないスコアだった。
3番人気のチームが、ホーム戦とはいえ本命のチームに対して引き分けた試合。称えるべきはレアル・マドリードの善戦だろう。
レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールとロドリゴphoto by Nakashima Daisuke
この両チームがCLの決勝トーナメントで対戦するのはこれが3シーズン連続。レアル・マドリードが合計スコア6−5で制した一昨季に対し、昨季はマンチェスター・シティが合計スコア5−1で大勝していた。想起することになったのは、一昨季の戦いになる。
2年前は左ウイング、ヴィニシウス・ジュニオールと1トップ、カリム・ベンゼマのコンビネーションプレーが冴え渡った一戦だ。ベンゼマは1トップとはいえ、左に流れてプレーする機会が多く、レアル・マドリードの左サイドはその結果、最大のストロングポイントになっていた。マンチェスター・シティはレアル・マドリードの左からの攻めに手を焼き、敗戦に追い込まれた。
逆に昨季の大勝劇は、レアル・マドリードの左からの攻撃を封じたことにあった。ヴィニシウス、ベンゼマのコンビを怖がらず、逆にそれを無視するように前に出た。マイボールに転じるや、最後尾のジョン・ストーンズを1列高い位置に上げ、右サイドバックのカイル・ウォーカー、右のインサイドハーフのケヴィン・デ・ブライネ、さらに右ウイングのベルナルド・シウバの4人で高い位置に拠点を作ろうとした。
第2戦(第1戦は1−1)でマンチェスター・シティが奪った先制ゴールは、その4人が絡んだパスワークの産物だった。ヴィニシウスは相手の強気な作戦に帰陣を余儀なくされ、その平均的なポジションを低い位置に押しとどめられることになった。ジョゼップ・グアルディオラ監督の"目には目を"と言わんばかりの作戦が、ドンピシャリと奏功した一戦だった。
【変貌するブラジル人アタッカーたち】
ベンゼマがサウジアラビアに去った今季、カルロ・アンチェロッティ監督はどう対応したか。ベンゼマに変わる世界的なセンターフォワードを獲得したわけではない。1トップに置いたのはヴィニシウスで、左ウイングにはロドリゴを据えた。通常、右でプレーするブラジル代表選手を、左に据える配置転換を図ることで対応した。
これが思いのほかハマった。ヴィニシウスは1トップといっても左に流れてプレーすることが好きな選手で、まさに昨季まで所属したベンゼマ然とプレーした。マンチェスター・シティは昨季のような対応を見せなかったので、レアル・マドリードの左サイドは再びストロングポイントと化したのだった。
想起したのは、1トップにティエリ・アンリ、その下にデニス・ベルカンプを据えて戦ったアーセナルの最強時代(2000年代前半)だ。左に流れることが好きなアンリはヴィニシウスで、ベルカンプはジュード・ベリンガムだった。ちなみにロドリゴはフレドリック・リュングベリ。清水エスパルスで1シーズンほどプレーしたこともあるスウェーデン代表選手だ。
ウイングが2枚いるも同然の左からの攻めに、マンチェスター・シティは手を焼くことになった。2戦目に向けてどう対策を立てるか。グアルディオラの対応策は見物である。
ヴィニシウス、ロドリゴはともにブラジル人選手である。かつてCLを湧かせたネイマール、ロナウジーニョ、ロビーニョらは、ポジションをカバーする意識に欠けていた。よく言えば奔放にプレーするタイプだった。ネイマールにヴィニシウスやロドリゴの役がこなせるとは思えない。
現在のアーセナルで、ウイング兼ストライカーとしてプレーするガブリエウ・ジェズスも、言うならば非ネイマール的な選手に変貌を遂げつつある。バイエルンに2−1とリードされていた後半21分に投入され、レアンドロ・トロサールの同点ゴールをアシストしたプレーなどは、旧来のブラジル人選手らしからぬ頭脳的なプレーだった。
ネイマールではもはや欧州一は狙えない。PSGが彼を手放したのも当然のように見える。
PSG対バルセロナ、アトレティコ対ドルトムントも互角】
レアル・マドリード対マンチェスター・シティは、そんな時代の流れを感じずにはいられない一戦でもあった。
つけ加えるなら、ネイマールが去ったPSGで看板を張るキリアン・エムバペもヴィニシウス型だ。ウイング兼ストライカータイプは新しい時代の主流になるのか。
2−2に終わったバイエルン対アーセナルも、レアル・マドリード対マンチェスター・シティ同様、互角の試合だった。こちらは4番人気対2番人気の一戦である。そしてそれぞれの勝者は、続く準決勝で顔を合わせる。こちらも接戦必至であることが予想される。好勝負必至。見逃せない戦いが続くことになる。
一方、5番人気から8番人気の4チームで構成されるもう一方の「山」も、接戦が予想される。PSG対バルセロナ(5番人気対6番人気)、アトレティコ対ドルトムント(7番人気対8番人気)は、スコアこそそれぞれ2−3、2−1と1点差がついたが、内容はいずれも互角だった。珍しい話である。
目立ったのは、5バックで戦うアトレティコ以外の7チームすべてに存在するウイングの選手たちだ。どのチームのウイングが1番キレているか。これまでに触れた選手以外にも、ウスマン・デンベレ(PSG)、ガブリエル・マルティネッリ、ブカヨ・サカ(アーセナル)、レロイ・サネ、セルジュ・ニャブリ(バイエルン)、ラミン・ヤマル、ラフィーニャ(バルセロナ)、カリム・アデイェミ、ジェイドン・サンチョ、ジェイミー・バイノー・ギッテンス(ドルトムント)と、強力なドリブラーがひしめいている。
日本を代表する左右のウイング、三笘薫、久保建英と比べてどうなのか。もし、ふたりがこのCL準々決勝の舞台でプレーしたら、どの程度やれそうか。そんなこともイメージしながら、以降の戦いに目を凝らしたい。