富士通レッドウェーブ
町田瑠唯×林咲希スペシャル対談(前編)

 富士通レッドウェーブは長年、Wリーグのトップチームのひとつとして数えられてきた強豪チームだ。今シーズンは林咲希という「屈指のシューター」が加わり、さらに選手層が厚くなった。林の加入によってチームの新たな武器となったのが、「パスの名手」町田瑠唯とのバックコート陣のコンビネーションだ。

 林は加入1年目ながら、2021年の東京五輪・日本代表として一緒に戦った町田と波長が合っている。それがチーム内にポジティブな空気をもたらしているようだ。2023-24のレギュラーシーズンを17年ぶりに全体1位(23勝3敗)で終えたことでも、それは示されている。

 年齢はふたつ違い。非常に仲のよさを感じさせるふたりに、お互いのことや富士通のこと、そしてパリ五輪に臨む日本代表について対談してもらった。

◆町田瑠唯×林咲希「スマイル対談フォト&真剣プレー集」>>

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とっても仲のよい町田瑠唯と林咲希 photo by Koreeda Ukyo

── 対談前の雑談から、ふたりの仲のよさが伝わってきました。年齢が違うのに、これだけ仲がいいことに少し驚きました。

林 (町田選手のほうを向いて)なんか、すみません(笑)。でも、似ているところはあるのかなと思っています。

町田 考え方や性格など、共通点が多いと思いますね。バスケの話もしますけど、くだらない話もするし、興味を持っていることも似ているから、それを共有することがけっこう多いように思います。

── 興味がある、というのは?

町田 身体のこと、とか、何が大事か、とか。

林 身体のケアの話などですね。でも、それに関係なく何か面白い話があったら、ふたりでめっちゃ、爆笑しています(笑)。

町田 たぶん、お互いの笑いのツボが似ているので、気を遣わずに話ができるんだと思います。

── それは最初に会った時からですか?

林 代表で初めて一緒になった時から、「考えていることが合っているな」というのは感じていました。(ボールを)欲しい時にもらえたり、瑠唯さんからも「あそこに動いてくれて助かった」と言ってもらったりしていたので、そういう面でバスケも合うんだなと思います。

 逆に「今のはダメだったな」と思った時も、「よくなかったですよね」と瑠唯さんに聞いたら「そうだね」と。そういうところの意見がけっこう似ているから、すごく話しやすいんです。

 でも、やっぱり先輩だなって思うところもあって、キリッとしなきゃいけない時にはキリッとしてくれる。私は末っ子なので、甘えちゃうところが出ちゃうんですけど、瑠唯さんは先輩っぽく......。


試合中に意見を交わし合う町田瑠唯と林咲希 photo by Kaz Nagatsuka

町田 先輩っぽくってなんだよ(笑)。

林 「先輩の感じ」をすごく出してくれているから、私も「ちゃんとやんないと」と思ったりしますね。

── 町田選手は「先輩っぽく」しているつもりは?

町田 いや、ないですよ。

林 ないんだ(笑)。

町田 先輩っぽくはしてないですけど、でもたぶん、空気感的に「これは今、締めなきゃいけないな」とか「今、ちょっと緩くなっているな」とか、このままだと駄目だというタイミングはわかります。そういうときは「自分がしっかりしないと」という気持ちになるので、先輩っぽい感じが出ているのかもしれないですね。

【みんなフランク。敬語もあんまり使わない】

── バスケ以外で、ふたりが一緒に行動することはあるんですか?

林 バスケ以外のことで......何かあるっけ?

町田 共通点は......なんだろうね。

── ホームページを見ると、ふたりとも「焼肉好き」って書いてありました。

林・町田 ああ(笑) 。

林 よくご飯に誘いますね。

── 林さんが誘うのですか?

町田 いや、お互いです。

林 でも、なんか瑠唯さんは休みたいんだろうなっていうときがあるから、そういう時は誘わない(笑)。

町田 気を遣ってるんだ(笑)。

林 私も「休みたい」って思うときはあるからさ。今日、外に出たくないな〜みたいな。

町田 いや、ふだんも基本、外に出てないし。だから誘ってくれたらうれしい。誘ってよ。

── そういえば、ふたりはタメ口で話すんですね。

町田 タメ口ですね。

── チーム全体でもそういう雰囲気なんですか?

町田 けっこうみんなフランクな関係なので、敬語もあんまり使わないですね。

── 林選手は今シーズンから富士通に加入しました。町田選手がいたことも移籍を決断した理由のひとつですか?

林 そうですね。富士通のバスケットが3ポイントシュートをどんどん打つチームで、まずそこに惹かれました。そしてそのなかでパスワークを中心にやっているのが瑠唯さんで、代表の時も一緒にやらせていただいて、合うところが多かった。

 ENEOSで6年間やったあとに「新しいところに行く」と決めて、自分がやりたいバスケットを思う存分やりたいなって思った時に、富士通が一番合うかなと。そう選択したひとつに、瑠唯さんの存在もありましたね。


町田瑠唯が林咲希をチームに誘った言葉とは? photo by Koreeda Ukyo

── 富士通への移籍が正式なものとなる前、町田選手に相談したのですか?

林 悩んでいた時期は、ちょっと相談はしました。

── 町田さんとしては、林さんを口説いた?

町田 口説くって(笑)。いや、でも、その時期にご飯に行ったりしましたが、もちろん私は富士通に来てほしかったので「決めるのはキキ(林のコートネーム)だけど......」っていうニュアンスで気持ちは伝えました。

── 実際に林選手が富士通に入団することになって、町田選手の心境は?

町田 うれしかったです。早く一緒にやりたいっていう気持ちが強かったので、「もう早く来て、すぐにやろうよ」という感じでした(笑)。

林 アハハハ(笑)。

【私はネガティブだけど、キキは常にポジティブ】

── 今シーズンから練習や試合を日々一緒にやるようになって、あらためてお互いのことで気がついた面はありましたか?

林 バスケの面だと、オフェンスもそうなんですけど、ディフェンスが神がかっていて(笑)。相手にズレをなかなか作らせないので、助けられています。「瑠唯さんのおかげで私たちはラクにディフェンスができているんだな」ということに気づきました。

 代表の瑠唯さんはオフェンスがメインだったところがありますが、実はディフェンスがすごいんだなと。けっこう瑠唯さんにディフェンスの話を聞くようになりました。オフェンスの時は「こうしたほうがいいよね」という感じで済むんですけど、ディフェンスは「どうしたらいいですか?」って質問することが多くて。瑠唯さんのディフェンスを見ることも多くなりましたね。

── 町田選手は、林選手のイメージが移籍後に変わったところはありますか?

町田 すごいシューターで、スペースの空いているところにいてくれるイメージは代表の時から変わっていないんですけど、富士通に入って感じたのは、3ポイントだけじゃなくてドライブもピックも使えるし、ジャンプシュートも得意。パスだって左も右もいけるので、すごくもったいなかったなと思いました。もっと自由にやらせてあげていいんだなと。


町田瑠唯と林咲希が見せるコンビネーションは最高 photo by Koreeda Ukyo

── 司令塔として、もっと林選手を生かしてあげたいと?

町田 そうですね。シューターとしてだけじゃなく、ボールを預けて攻めてもらったり、ツーマンゲームを作らせたり、そういうプレーをあえてやっていますね。

── 同僚になって、新たな顔が見えるようになった。

林 緊張しているときとか、「ちょっと調子が悪そうだな」というのは、けっこうわかるようになってきましたね。

── それは町田選手から出ているオーラのような感じで?

林 はい。ちょっとある(笑)。「今、不安に思っているんだろうな......」とか。一緒のチームになって毎日一緒にいることで、そういうところに気がつくようになりましたね。

町田 キキは「真面目」っていうイメージがあるかもしれないですけど、思っていたよりもふざけてくれます(笑)。うちのチームには『内尾聡菜』という本当にいつもふざける子がいるんですけど、その子と同じ空気感でふざけられるんですよ。

 代表の時にはあまりそういう面を出していないので知らなかったですが、富士通に来てバスケの練習以外でも一緒に生活するようになって、「こんなにふざけるんだ......みんなを笑かしたりするんだ」と思って。私は一緒にいて楽しいです。うふふふ(笑)。

── 楽しい人がチームにいるのは、バスケにもいい影響を与えてくれそうですね。

町田 はい。どちらかというと私はネガティブなところから入るタイプなんですけど、キキは常にポジティブなことを言ってくれるので、それはチームにすごくいい影響を与えてくれます。私もすごく助かっています。

── ふたりの『座右の銘』を拝見すると、町田さんは「努力の上に花が咲く」「人生は一度きり」、林さんは「苦手なことにチャレンジし、それを楽しむ」。それぞれ毛色が違っていて面白いなと思いました。

町田 私がそれを座右の銘にしたのかは、「どんな花を咲かせても、努力をしないとその上には花が咲かないよ」という文章をどこかで見て、すごくいいなと思って。高校時代からその言葉はずっとノートの表紙に書いていたんです。だけど、ちょっと文章が長いな......ということで、ギュッとまとめました。

 自分は身長が小さく、才能があるわけでもないので、やっぱり人一倍、努力しないとみんなに追いつけないってわかっていました。だからそのぶん、自信を持って人に何かを言えるくらい継続していくことが大事だよと思って、その言葉を大事にしています。

林 私は自分の感覚として、ふだんから「いい流れ」の時のほうがイヤなんですよね。「よくない時ほど伸びしろがある」と思ってやってきました。今まで苦しい経験もありましたけど、その経験が自分を強くしてきたし、その都度、努力もしてきたので。

 苦しいときやダメなときほどチャンスだと思ってやってきて、無意識のうちにそれができるようになってきました。でも、それに気づくのは成功してからじゃないと気づかないから、瑠唯さんの「継続して努力をする」というのに似ているかも。

 きついとき、不安なとき、ダメなときにどれだけあきらめず、自分のスタンスを変えずにできるか。そこからチャンスが見えてくるので、その言葉を座右の銘に選んだんだと思います。

(後編につづく)

◆町田瑠唯×林咲希・後編>>一緒に日本代表へ「焦りしかない」「アメリカとできるの、すごい楽しみ!」

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【profile】
町田瑠唯(まちだ・るい)
1993年3月8日生まれ、北海道旭川市出身。ポジション=ポイントガード。札幌山の手高3年時に高校3冠を達成。卒業後の2011年に富士通レッドウェーブに加入し、初年度にWリーグのルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞する。2021年の東京五輪は正PGとしてチームを牽引して準優勝に貢献。2022年2月にワシントン・ミスティクスと契約し、日本人4人目のWNBAプレーヤーとなる。コートネーム=ルイ。身長162cm。

林咲希(はやし・さき)
1995年3月16日生まれ、福岡県糸島市出身。ポジション=シューティングガード。精華女子高時代から白鷗大に進学し、インカレ4年時に大会MVPと得点王を受賞。2017年にJXサンフラワーズ(現ENEOS)に加入し、3ポイントシュートを武器にWリーグ屈指の得点力を発揮する。2021年の東京五輪には全6試合に出場。同年秋のアジアカップよりキャプテンを務める。2023年、富士通レッドウェーブに移籍。コートネーム=キキ。身長173cm。