京都精華大学、株式会社キャンピングカーランド、株式会社レクビィによる連携事業「キャンピングカー制作プロジェクト」に参加した4名の学生と、完成した新型キャンピングカー「アコロ」(筆者撮影)

近年、ますます人気が高まっているキャンピングカー。なかでも、トヨタの商用バン「ハイエース」をベースに、ベッドやキッチンなど、装備を必要最低限とし、外観をほぼノーマルのままにしたモデルは、広い居住空間を持ちつつも、運転が楽なことで幅広いユーザーから支持を受けている。

そんなハイエース・ベースのキャンピングカーを、京都精華大学(京都府京都市)の学生がデザインなどを担当。それをもとに製造された新型モデル「アコロ」が、「ジャパンキャンピングカーショー2024(2024年2月2〜5日、千葉県・幕張メッセ)」で披露された。


ジャパンキャンピングカーショー2024に展示された新型キャンピングカー「アコロ」(筆者撮影)

キャンピングカーの製造・販売を手がけるキャンピングカーランド(愛知県日進市)、キャンピングカービルダーのレクビィ(愛知県瀬戸市)、そして京都精華大学の連携事業「キャンピングカー制作プロジェクト」で生まれたのがアコロというモデルだ。約20名の大学生がさまざまなアイデアを出し合い、それを具現化。限定7台で販売も行うというこのモデルが、いったいどんな仕様に仕上がっているのか、会場で取材してみた。

プロジェクトの背景

京都精華大学は、1968年に創立された比較的新しい大学で、現在は国際文化学部、メディア表現学部、芸術学部、デザイン学部、マンガ学部の5学部を擁する。主にデザインや建築、ゲーム、アニメ、映像、教育などの業界へ進む人材を育成していることが特徴だ。

そんな同大学では、在籍する全学部の学生が履修可能な共通教育科目「社会実践力育成プログラム」を行っている。これは、約50種類の地域や企業などとの連携プログラムを用意し、学生が社会実践力を身につけることを目的とするもの。今回製造された新型キャンピングカーのアコロは、その一環となる「キャンピングカーの新しいデザイン提案」という授業から生まれた。


京都精華大学で行われた授業の様子(写真:京都精華大学)

同校で初の試みとなる当授業には、前述のとおり、キャンピングカーランドとレクビィが参画した。発端は、2社が京都精華大学へキャンピングカー制作プロジェクトという連携事業を提案したことだ。これは、学生たちへデザイン案などを出してもらい、それをもとに、創業40年を誇る老舗ビルダーのレクビィがモデルを製造。販売のプロであるキャンピングカーランド各店舗(埼玉、名古屋、岐阜、京都)で発売するというものだ。

企業も学生の発想に注目する

キャンピングカーランドとレクビィの主な目的は、Z世代の若い学生たちへキャンピングカーを普及させること。また、従来とは異なる新しい発想のモデル開発などを目指したという。一方、制作系の学部が主となる京都精華大学としても、学生たちにデザイン開発や商品のマーケティング、販売方法など、キャンピングカー業界ならではの貴重な体験をさせられるということで、3者のコラボレーションが決まった。


学生によるプレゼンテーションの様子(写真:京都精華大学)

2023年6月〜7月、5回にわたって開講された授業には、デザイン学部プロダクトデザイン学科の2年生を中心に、デジタルクリエイションコース、メディア表現学部など複数の学部から約20名が参加。キャンピングカーに関する基礎知識を学んだあと、1人ずつ企画案のプレゼンテーションを行い、それらをもとに、グループごとに選出案を制作した。

その後、7月末には、連携事業に参画するキャンピングカーランドやレクビィの担当者に向けて、デザイン案などの最終プレゼンを実施。その提案をもとに製造されたのが、今回ショーに展示したアコロだ。

新作キャンピングカー「アコロ」の概要


アコロの外観(写真:京都精華大学)

アコロのベース車両は、トヨタ・ハイエースのロングバン・ワイドボディ・ミドルルーフで、ボディサイズは全長4840mm×全幅1880mm×全高2100mm。外装は、ほぼノーマルと同寸だ。

学生たちが考案した車両のコンセプトは、「遊び心」をキーワードに、老若男女問わずキャンピングカーを楽しめる車両。とくに従来キャンピングカーのメインユーザーではない女性も意識したという外観には、青やオレンジで構成されたポップなグラフィックを採用している。


ポップなカラーリングが印象的なインテリア(写真:京都精華大学)

また、明るい雰囲気を意識したという内装にも、外装とマッチさせたカラフルなグラフィックを投入。これらの模様は、実際に学生たちのアイデアによるもので、会場のブース担当をした学生いわく、「(ゲームの)テトリスをオマージュした」のだという。さらに、車名のアコロも「遊び心をもじったもの」で、ロゴも含めて学生らが発想し、デザインも手がけた。


ベースになっているのはレクビィのホビクルオーバーランダーW(筆者撮影)

各装備は、レクビィが販売を手がける「ホビクルオーバーランダーW」をベースとしている。ベースモデルの主な特徴は、3人掛けの2列目シートを、走行中は前向き、停車時にダイネットとして使う場合は後ろ向きにできるタイプに変更していること。また、また、フラットにして付属のベッドマットと組み合わせれば、室内全体をフラットな就寝スペースにでき、最大3名がゆったりと横になれる。なお、ベッドサイズは2100mm×1300mm(一部1500mm)だ。


ホビクルオーバーランダーWのインテリア(筆者撮影)

さらに、レクビィが実用新案を持つオリジナルの「フロントダイネットマット」も装着(オプション)。これは、運転席と助手席の背もたれを倒して装着するソファ。前向きにした2列目シートとの間に着脱式のテーブルを設置すれば、対面式のダイネットにすることができる。ほかにも、室内の右側後方にはコンパクトなキッチンも搭載。付属するスルータイプのシャワーヘッドは、リアゲートを開ければ車外での水利用も可能だ。

アコロでは、そうしたベース車両の基本装備を継承しつつ、シート生地をオリジナルに変更し、前出のグラフィックを施している。また、映像が映し出せるプロジェクターとスクリーンも採用。学生たちによれば「映画館のようにしたい」といったアイデアを採り入れたものだ。また、付属のベッドマットやテーブルは、車外にセットすることで、晴れた日に大自然をより堪能できる工夫も施している。

学生のアイデアと制作に携わった感想

アコロの価格(税込み)は、サイドオーニングや外装のオリジナルデカールなどのオプションが付いた展示車の場合で、732万1600円。前述のとおり、キャンピングカーランドが限定7台で販売を手がけている。


アコロのインテリア(筆者撮影)

なお、会場にいた学生4名に、今回のプロジェクト参加について感想を聞いてみたところ、異口同音に「とても面白かった」という。きっと、今までにない多くの体験をしたからだろう。とくにデザインが決まる前にアイデアを出し合った際には、さまざまな意見が飛び出して、楽しかったようだ。たとえば、「コタツ」。たしかに、コタツ仕様のキャンピングカーというのは、あまり採用例はないだろうから興味深い。この案は、残念ながら不採用となったが、そうした既存の概念にとらわれない斬新なアイデアがいくつも出されたという。


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今回のプロジェクトは、2024年以降も続くかどうかは未定。また、この授業で、キャンピングカー業界へ進む人材が生まれるかどうかもわからないが、それよりも、重要なのは「自由な発想を持つ大切さ」を学んだことではないだろうか。どんな業界に進もうと、固定観念にとらわれず、その時々の状況に応じたアイデアを生み出し、道を開拓していくことは必要だと思う。学生たちが、今回の経験を、これからの人生にどう活かし、どのように成長していくのかが興味深い。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)