集合住宅「災害時のトイレトラブル」を避ける対策
集合住宅や地域で協力したい対応のポイントをまとめました(写真:うぃき/PIXTA)
未曾有の被害をもたらした東日本大震災から12年経ちます。
トイレ環境の大切さを広めるべく奔走する「日本トイレ研究所」の代表理事・加藤篤さんが、“トイレ”の視点から防災のノウハウをやさしく解説した『トイレからはじめる防災ハンドブック』より一部の内容を抜粋、忘れたころにやってくる災害への備え、そして起こった後の対応のポイントについて、3回にわたって掲載します。
第3回では、集合住宅に暮らす方は押さえておきたいポイントをまとめます。
震災時のマンションの汚水問題
■集合住宅のトラブル回避に必須な上下階の連携
住戸から排水される汚水は、排水管を通って建物外に流れていくのですが、基本的にこの排水管は上下階でつながっています。戸建て住宅であれば、汚水を排水するのか、控えるのかを、家族で決めます。
汚水を流すことで排水管が詰まったり漏水したりしても、自ら判断したのであれば、納得がいくと思います。
悩ましいのは集合住宅です。震災や水害による影響で排水設備に損傷があるにもかかわらず、上階から汚水を流してしまうと、汚水マスからあふれたり、地中に漏水したり、下階の住戸に逆流する可能性があります。
過去の震災でも、地中の排水設備が閉塞していることに気づかずに汚水を流したため、1階の便器に汚水が逆流したという事例もありました。逆流の兆候は、便器内の封水から空気がボコボコと出る、封水(洗面台や流しなどの器具と排水管の接合部に溜めてある水)が跳ね出すなどです。
スイッチを入れて電気がつかなければ停電、蛇口をひねって水が出なければ断水というように、これらは容易に確認できますが、排水設備は何かが起きない限り損傷に気づかないという特性があります。
専門的な検査をすればわかりますが、災害時に検査することは現実的ではありません。
災害時など、排水設備の損傷が想定される場合は、居住者による簡易点検の方法を作成するとともに、トラブルの兆候をいち早く察知して、臨機応変に対応することが求められます。そのためには、排水管がつながっている各戸での連携が必要になります。
あなたの住む集合住宅の給水方式は?
■建物の給水タイプで災害時の対応は異なる
災害時、停電や給水装置、配水施設の損傷で断水が発生するケースは少なくありません。
しかし、建物によって断水までの時間に幅が出ることもあります。発災直後から断水になることもあれば、2〜3日後になって断水することもあります。また同じ地域でも、建物によっては断水しない場合もあります。
これらは、建物の給水方式の違いによることが考えられます。
給水方式は大まかに分類すると4方式です。「直結直圧方式」は、水道本管からの圧力で直接給水します。通常は3階までの建物に採用されます。この方式の場合、停電していても水が出ます。
一方、ほかの3つの方式では、いずれもポンプで圧力をかけて給水するため、停電と同時に断水します。
ただし、屋上にある高置水槽に一旦貯めてから自然流下で各戸に給水する「高置水槽方式」では、停電によりポンプが停止したとしても、高置水槽に貯まっている水が出ます。つまり、この方式を採用している建物では、高置水槽が破損しなければ、そのときに貯まっている水を自然流下で有効活用できます。
給水方式によって災害時の対応方法が異なるので、自宅の給水方式を把握しておくことが大事です。
参考: 公益社団法人空気調和・衛生工学会 集合住宅の在宅避難のためのトイレ使用方法
検討小委員会「集合住宅の『災害時のトイレ使用マニュアル』作成手引き」
■断水時は「高置水槽」の水を活用する
高置水槽方式は、建物の屋上に水槽を有する給水方式です。災害時、高置水槽が損傷していなければ、地域が断水していたとしても、水槽内に貯まっている水を利用できます。
ですが、もしも高置水槽の存在を理解していなければ、通常どおり水洗トイレなどを使用してしまい、貴重な水を失うことになります。
貴重な水はルールを設けて使う
東日本大震災のとき、高置水槽の水があることを認識していた病院勤務の看護師さんは、使用する水洗トイレの場所を限定しました。そして、3回使用したら1回流すというルールを設けて、水を大切に使用しました。
その甲斐あって、上水が復旧するまで高置水槽の水でつなぐことができました。このように高置水槽の限られた水を活用することは重要です。
平成30年7月の西日本豪雨のときも、病院で同様の取り組みがありました。この病院は、水洗トイレの使用を禁止し、ビニール袋の中におむつを入れて携帯トイレのようにして使用しました。高置水槽の水を医療関連に優先的に使用するための工夫です。
いずれにしても、高置水槽の水を有効活用した事例です。病院に限らず、建物に高置水槽がある場合は、平時の貯留容量と点検方法を確認し、活用のためのルールを決めておくことが必要です。
■受水槽の非常用給水栓と緊急遮断弁の扱い方
4つに分かれる建物の給水方式のうち、高置水槽方式と加圧給水方式には「受水槽(高置水槽を含む)」が備わっています。停電により断水した際でも、受水槽があれば、その中に一定の水が確保できていることになります。
自治体に事前に確認しておくこと
自治体によって対応方法は異なりますが、災害時に受水槽内の水道水を有効活用できるように、受水槽に「非常用給水栓」を設置する場合の取扱基準を設けている場合があるので、事前に確認しておきましょう。
非常用給水栓が設置してある場合、受水槽内にある水量を把握しておき、給水栓から取り出した水をどのような容器に入れ、どうやって運ぶのか、何に利用するのかを考えておくことが必要です。
また、受水槽には「緊急遮断弁」が設置されていることがあります。
緊急遮断弁とは、受水槽の出口側に設置し、地震の揺れを感知して弁を閉めることで、受水槽内の水が流出しないようにするための装置です。作動すると、配水管に支障がなくても断水と同じ状態になりますから、緊急遮断弁の解除方法も確認しておきましょう。
参考: 大阪広域水道企業団「緊急遮断弁」
(加藤 篤 : 日本トイレ研究所代表理事)