2023年に購入したベストアイテム、今回紹介するのは写真家の鹿野貴司さんセレクトのデジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」です。フルサイズミラーレス全盛の時代にあってAPS-Cフォーマットのデジタル一眼レフ、しかもモノクロセンサー搭載でモノクロ写真しか撮れない、という“ニッチ”を極めた1台。そんなマニアックなカメラをあえて購入した理由は?

選んだ製品:PENTAX K-3 Mark III Monochrome

価格:333,000円(メーカー直販サイト)

選んだ理由:失った自分を取り戻すため

満足度(5段階):★★★

○アナログ的な要素を残す最新デジタルカメラ

2022年末から2023年にかけては、魅力的なカメラ・レンズが次々に登場。僕も仕事用のレンズをごっそり入れ替えたりもしたのですが、トピックとして挙げるならば、リコーイメージングから2023年4月に発売された「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」(以下、本機)でしょうか。

Kマウント版は生産完了になってしまったシグマ「18-35mm F1.8 DC HSM|Art」も中古で購入。俺は今写真を撮っている!という気にさせてくれる組み合わせです

仕事はほぼミラーレス機でこなしていますが、“私事”はコンパクトカメラだったり一眼レフだったり、はたまたフィルムカメラだったり、何かひと手間かかるカメラを愛用しています。ミラーレス機が便利なのはいうまでもありませんが、有り体にいえばカメラがアシストしてくれるのでつまらんのです。

そんなユーザーに救いの手を差し伸べようとしているのかいないのか、ペンタックスは“うちは一眼レフ一本でいきます”宣言をしている世界で唯一無二のメーカーです。というか、一眼レフを今も研究開発しているメーカーは他にないと思います。

一眼レフの光学ファインダーは、実際の撮影結果との差異もあったりしますが、液晶ファインダーと違って目に優しいという利点があります。一日中外を歩きながら撮影するようなときは、これで夕方ごろのパフォーマンスに大きな影響が出ます。また、ファインダー像と撮影結果の差は、デジタルでもかろうじて残るアナログ的要素ではないかと思います。思ったように写らないこともあれば、思った以上に写るということもあるわけです。とりわけペンタックスはコントラストがやや強めで、忠実さよりも写真としての見映えを意識した絵づくりをします。そういうところも、撮る楽しさを演出しているように思います。

黒や影がキーになる場面で、本機は真価を発揮するように思います。この写真は撮って出しですが、レタッチするとさらにポテンシャルを引き出すことができます

そんなわけで、私事ではフルサイズ一眼レフ「K-1 Mark II」とAPS-Cフォーマットの一眼レフ「K-3 Mark III」を愛用してきたのですが、さらにファインダー像と撮影結果の差がありすぎる派生モデルが登場しました。前置きが長くなりましたが、名前の通りモノクロ専用機の本機です。ペンタックスのファンイベントで、「こんなモデルが欲しい」という人気投票を行った際、2位だった企画が「モノクロ専用機」でした。かくいう僕もそこに一票を投じたので、少々責任や義務も感じて1台購入した次第ですが、生産が追いつかないほど売れているようでひと安心です。

本機は一眼レフなので、当然ながらファインダーはカラー。しかし、センサーはストイックに光の明暗のみしか記録しません。その結果、画素数こそベースモデルと同じ約2573万画素ですが、まったく別モノのように(といってもベースモデルも解像感が非常に高いのですが)細部までキレキレに解像します。階調の豊かさも感動モノで、撮って出しでは「なんか眠たいなぁ」と思うかもしれませんが、RAW現像やレタッチをしていくと驚くほどリッチになります。

曇天をバックに電柱と電線という、モノクロだから成立するような写真。プリントすると階調の豊かさはさらに際立ちます

実は、発表直後は購入する考えはなく、ペンタックス公式サイトの連載をやっている都合でデモ機をお借りしていました。その借用期間中、東京都写真美術館で行われていた「深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ」を見たことが購入するきっかけでした。広い展示室を埋め尽くす作品はすべてモノクロ。しかし、カラー写真よりもずっと饒舌なのです。かくして、返却するデモ機と入れ替わるかたちで私物がやってきたのです。

僕は、高校生で本格的に写真を始めてから、15年ほどはモノクロフィルムで作品を撮っていました。しかし、デジタルに移行するとカラーで撮ることが当たり前に。モノクロの自家現像が難しくなったこともあり、フィルムも自然とカラーネガを使うようになりました。色を得たことで俺は何かを失ったのではないか、いや俺自身を失ったのではないか。今こそそれを取り戻すチャンスではないか、そう思って購入したのですが…まだ少しも取り戻せていない気がします。満足度が5段階の3なのも、己の至らなさゆえの評価で、カメラとしての出来は星5つに値すると思います。そんな本機をいわば修行のために購入したので、50歳を迎える今年こそ失った何かを取り戻そうと思う所存です。

鹿野貴司 しかのたかし 1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。 この著者の記事一覧はこちら