アメリカで実施された過去の調査では、「素手でクマやライオンなどの猛獣に勝てる」と思っている人が一定の割合で存在することが判明するなど、少し映画の見過ぎのようにも思える謎の自信が浮き彫りになっています。新しく発表されたアンケートで判明した、アメリカの成人男性のほぼ半分が「いざとなったら自分が操縦士の代わりに飛行機を着陸させられる」と考えているとの調査結果に、航空学者らが「その可能性はほぼゼロ」と突っ込みを入れました。

How confident are you that you could safely land a passenger airplane in an emergency situation, relying only on the assistance of air traffic control? | Daily Question

https://today.yougov.com/topics/politics/survey-results/daily/2023/01/02/fd798/3

Almost half the men surveyed think they could land a passenger plane. Experts disagree

https://theconversation.com/almost-half-the-men-surveyed-think-they-could-land-a-passenger-plane-experts-disagree-218037

以下は、市場調査会社・YouGovが成人のアメリカ人2万63人を対象に「緊急事態の時に航空交通管制の支援だけを頼りに旅客機を安全に着陸させることができる自信はどれくらいありますか?」と質問したアンケートの結果です。一番上の「とても自信がある(13%)」とその下の「やや自信がある(19%)」を合わせると32%となり、アメリカ人のほぼ3分の1が自分の操縦テクニックに自信を持っていることがわかりました。



さらに、同じ質問を男女別に集計すると男性の46%が「自分なら飛行機を着陸させられそうだ」と考えているという結果になりました。



一方、専門家は素人が管制官の支援だけで旅客機を安全に着陸させられるという見解には懐疑的です。オーストラリア・グリフィス大学で航空学を教えているティム・ライリー氏ら5人の専門家によると、旅客機のパイロットは機内での時間の90%を自動操縦システムの監視に費やしているとのこと。

残りの10%は発生した問題への対処やタキシング、そして離着陸ですが、この着陸と離陸こそがおそらくパイロットにとって最も難しい仕事だとライリー氏らは指摘しています。

まず、離陸の際は翼が十分な揚力を得られるようになるまで機体を加速させますが、この時パイロットは離陸速度に達するまで航空機を滑走路の中心に保ちつつ、複数の計器や外部の信号に細心の注意を払って操縦しなければなりません。そして、離陸したら管制官と航路などを調整し、所定の経路を通り、降着装置を格納し、正確な速度と方向を維持しながら上昇していきます。



着陸はさらに複雑で、パイロットは適切な速度を保ちつつ降着装置と翼のフラップを同時に管理し、航空規則を順守し、管制官とコミュニケーションをとり、紙やデジタル媒体で作られたさまざまなチェックリストにチェックを入れなければなりません。

そうこうしているうちに滑走路が近づいてきたら、パイロットは高度を正確に判断し、出力を落としながら降下速度を調整します。そして、降着装置が路面に着いたらブレーキと逆噴射を使って滑走路が終わる前に機体を停止させます。パイロットは、これらの作業をわずか数分のうちにこなしているとのこと。

こうした操縦技能を身につけるため、パイロットはまず座学で空気力学や気象学、航空法、飛行規則、航空機関するシステム、機体性能やフライトプラン、航空機に関する人的要因などについて学びます。そして、基礎を身につけたら次はシミュレーターや実機を用いた訓練を重ね、小型機から大型機へと順番にステップアップしながらプロの旅客機パイロットとして習熟していきます。

以上の点から、ライリー氏らは「飛行機の基礎すら学んだことがない人が、航空交通管制の助けを借りて旅客機を正常に着陸させられる可能性はほぼゼロです」と結論づけました。