記事のポイント

2023年、eスポーツ業界は期待に応えられない業界全体の成長、投資リターンの不足、主要な広告主との関係の脆弱化などが原因で、多くの企業が苦境に立たされた。

オーバーウォッチ・リーグの終了、CLGやFaZe Clanなどのチームの閉鎖や他企業への吸収など、eスポーツ界の主要リーグやチームが大きな変動を経験。

業界の厳しい状況を背景に、eスポーツ企業間のM&Aが活発化。一部企業はこの状況を利用し、新しい提携や事業拡張を図っている。


eスポーツ業界は今、2024年を前にして、大きな岐路に立たされている。

競技ゲーミング業界の多くの企業にとって、2023年は控え目に言っても厳しい1年だった。投資に対する期待外れのリターンを目の当たりにし、一部のブランドはeスポーツへの出資を減らし、カジュアルなゲーミング分野における存在感の強化に力を入れており、それを受けて、eスポーツチームが収益戦略の基盤として長らく頼りにしてきた広告主との関係が脆弱化した。

2023年は実際、かつて業界を中核として支えたeスポーツリーグおよびチーム勢がよろめき、あるいは完全に転倒した年だった。たとえば、オーバーウォッチ・リーグ（The Overwatch League）は正式に終了した。カウンターロジックゲーミング（CLG）やFaZe Clanといったeスポーツチームは店を畳むか、あるいは他の企業に吸収された。そしてリーグ・オブ・レジェンド・チャンピオンシップ・シリーズ（League of Legends Championship Series）はすったもんだをくり返した挙げ句、10から8へと参加チーム数を減らした。

この12カ月間にeスポーツ業界が直面した巨大な困難の数々――そして、業界の利害関係者らがそれらにどう対処しようとしているのか――を、以下にざっと紹介する。

長い冬



2023年、「eスポーツの冬」はいわば、今日のバズワードだった。「クリプトの冬」をもじったこのフレーズは、eスポーツ界に流入する現金量の全般的減少と、解雇や合併といった、それに潜在的に伴う好ましからざる諸々を包括する表現となった。

「eスポーツの冬」とは要するに、数年前に生まれた数々の期待に業界全体がまったく応えられていない状態のことだ。当時、競技ゲーミング企業勢は投資家らに対し、eスポーツは従来型スポーツと同レベルの収益機会をもたらすと、請け合った。だが結局、従来型スポーツ企業勢の中核的収益戦略の多くは、放映権契約やライブイベントのチケット販売を含め、eスポーツには手が届かない、あるいはいまだ構築できていないものであることが明らかになった。

「資金は以前よりも入って来づらくなったと思う。eスポーツ界にかつてあった、資金が自由に行き来する世界はもうない」と、ゲーミング／eスポーツ企業ミスフィッツ（Misfits）のCEOベン・スプーント氏は話す。「そして企業勢にはもはや、鏡の中の自分をしっかりと見つめ、ビジネス針路を是正する以外に手はない――さもなければ、皆絶滅するだろう」。

M＆Aの時



業界が直面している数々の困難を踏まえ、一部のeスポーツチームは早くも資産を縮小し、自らを魅力的な買収候補にした。eスポーツ企業の多くは苦境に喘いでいるが、インベントリの拡充や新タイトルへの拡張を目論むところにとっては、有用な買収の標的になりうるからだ。

この1年、ヴァージョン1（Version1）などの中小eスポーツ企業は生き残りを賭け、買収相手を公に探していた（12月5日に、G2イースポーツ［G2 Esports］との合併を正式にまとめた）。G2イースポーツのアルバン・デチェロットCEOは、2024年はそうしたM＆Aがさらに増えるだろう、と予測する――が、同業他社の獲得に必要な規模と軍資金を有するeスポーツ企業はほとんど残っていない、とも警告する。

「統合が起きるだろうし、最終的に、5〜10の有力企業が世界のeスポーツ界を支配することになるだろう――たとえば、各地域や各ゲームに5〜10のチームという状態に」とデチェロット氏。「ただ、そこに入れないところ、つまり中間層はすべて、おそらくはもがき苦しみ、そして消えるだろう」。

マイクロソフト（Microsoft）によるアクティビジョン・ブリザード（Activision Blizzard）の買収は、知ってのとおりだ。何カ月にもわたる規制当局の審査を受けた末、同買収は10月に完了した。オーバーウォッチ・リーグが幕を下ろしたにもかかわらず、アクティビジョン・ブリザードは依然、世界最大規模のeスポーツリーグおよびタイトルを営む事業者であり、マイクロソフトが同社に深く入り込むなか、その影響がeスポーツ業界全体に及ぶのは確実と思われる。

上げ潮はすべての船を持ち上げる



競技ゲーミング界に広告費を投入するブランドおよびマーケターが減少するなか、大きな上げ潮を起こすには、eスポーツ企業やeスポーツリーグ、ゲームメーカーを含め、eスポーツ界の全利害関係者がさらに緊密な協力体制の構築を余儀なくされている。

そんなeスポーツ企業による垣根を越えたコラボの一つが、最大規模のeスポーツリーグを運営するゲームメーカーに利益を総取りさせず、その一部をeスポーツチームも手にできるようにする方法の考案だ。たとえば、ライアットゲームズ（Riot Games）のリーグ「VALORANT（ヴァロラント）」は、参加チームに販促用コンテンツの制作などを通じてリーグへの貢献を求める代わりに、参加報酬をレベニューシェアのかたちで与えている。

ライアットゲームズは以前から、自社の全eスポーツにおけるさらなるレベニューシェア機会の創造という目標を公にしている――それは、eスポーツを規模と現金化の潜在力のいずれにおいても従来型スポーツに近づけることを目指す、同社の努力の一環でもある。実際、ライアットゲームズの北米リーグ「リーグ・オブ・レジェンド（League of Legends）」の利害関係者らは参加チームの減少をレベニューシェアの取り分を増やせる機会として歓迎していることが、業界の内情に精通するジェイコブ・ウルフ氏の報告で明らかになった。

「今は確かに苦境ではあるが、ライアットゲームズは依然、チーム勢が現況を乗り切るために手を貸そうと努めている。だからこそ、我々はSFR（スポーティング・ファイナンシャル・レギュレーション）の策定に向けて積極的に動いている。これは要するに、チームがプレーヤーに支払う給料を健全なレベルにし、やる気を促すためのものだ。そして場合によっては、リーグの統合やリーグへの参加チーム数の削減も考えている」と、ライアットゲームズのeスポーツ部門トップ、ジョン・ニーダム氏は話す。「我々のリーグのチームにはeスポーツの未来を信じてもらいたい、最高のレベルで競い合ってもらいたい、財政的に強靱になり、プレーヤーたちの良きホームになってもらいたい」。

不況の中で気を吐く者も



eスポーツ界は冬の最中にあるが、決して氷河期にあるわけではない。同業界の企業勢は一般に苦戦しているが、この騒乱に乗じて利を得るべく、巧みな手を打ったところもある。NRGイースポーツ（NRG Esports）による4月のCLG買収はその一例であり、同社は北米「リーグ・オブ・レジェンド」チャンピオンシップを初めて手に入れ、その結果、フォード（Ford）やキア（Kia）といったブランドとの新たな提携もものにした。

「2023年は非常に良い年だった」とNRGイースポーツのCEOアンディ・ミラー氏は話す。「最悪の1年になると思っていたが、そうではなかった」。

とはいえ、2023年、多くのeスポーツ企業がアイデンティティ・クライシスに直面している事実が浮き彫りにされたことに変わりはない。そんななか、一部のチームは現在の高額査定の源である競技ゲーミングへの賭け金を倍増している。たとえば11月、ワンハンドレッドシーヴス（100 Thieves）はeスポーツへの再フォーカスを目指し、ゲーム開発とエナジードリンクの両部門を独立させた。一方、ミスフィッツをはじめ他のチーム勢は、競技からさらに離れ、ブランドやマーケター勢をゲーミング界に導くことを目的としたエージェンシー的存在になりつつある。2024年に向けて、コインの裏と表のどちらに張るのか、より多くのeスポーツ企業が選択を迫られることになるだろう。

「今日に至るまで、eスポーツを信じる私の断固たる思いは変わらない――ただし、当時私が発した言葉のとおりになっているのも事実であり、投資のリターンを実際に手にできるまでのタイムラインは、我々がかつて思い描いていたものではなかった」とスプーント氏は話す。「当時は、そろそろ約束の地にたどり着く頃だと思っていたのだが、実際はまだ5年から10年先の話だろう」。

［原文：The cynic’s guide to esports in 2023］

Alexander Lee （翻訳：SI Japan、編集：分島翔平）