2023年10月以降、東欧だけでなく中東イスラエルでも戦火が上がるようになりました。ただ、地上戦闘の激しさとは別に航空攻撃については、イスラエル側の活発さと裏腹にロシア・ウクライナは低調です。この違いは何なのでしょうか。

東欧と中東、全く異なる空軍戦力の活発さ

 2023年10月7日、パレスチナのガザ地区を支配する組織「ハマス」がイスラエルに対して奇襲攻撃を仕掛けました。これまでも、ハマスはロケット弾などを使ってイスラエルに攻撃を加えていたものの、これまでと違うのは、ハマスの地上部隊がガザ地区外のイスラエル領内へ進出し、イスラエル軍のみならず民間人をも標的とした点にあります。そういったことを鑑みると、極めて大規模な攻勢だったといえるでしょう。

 イスラエルは、奇しくも50年前の1973年10月7日、奇襲攻撃によって始まった第4次中東戦争以来となる戦時体制を宣言、即座に報復を決断します。報復攻撃は主にイスラエル空軍によって行われ、ガザ地区に対して猛烈な航空攻撃が始まりました。この空からの攻撃によって、ハマスの指導者や武器庫、これらをつなぐトンネルなどが次々と破壊されています。

 この航空攻撃は、ウクライナとロシアの戦争が続くなかで、両国の空軍がほとんど動いていない(動けない)状態であるのと比べると、あまりにも対照的なアクティブさだといえるかもしれません。


イスラエル空軍のF-15I戦闘攻撃機。アメリカ製のF-15E「ストライクイーグル」のイスラエル仕様(画像:イスラエル空軍)。

 なぜ、ウクライナとロシアの航空戦力があまり活動していないかというと、それは各々、相手の防空網が強すぎて、戦闘機や爆撃機を飛ばすことができないからです。

 ロシアはS-300やS-400などの強力な防空ミサイルシステムを配備しており、迎撃を恐れてウクライナ空軍はその射程内に入ることができません。ただ、ウクライナもS-300は運用しているほか、アメリカやドイツなどを始めとしたNATO(北大西洋条約機構)諸国から「パトリオット」も供与されているため、逆にロシア空軍も安易に侵入すれば撃墜されることは理解しています。

 ゆえに、両国の空軍とも防空レーダーの死角となる超低空飛行や、地対空ミサイルの射程圏外から攻撃可能な空中発射型巡航ミサイルによる散発的な攻撃にとどまっており、大規模な航空攻撃はほとんど行っていないのです。

片や「スマートな21世紀型」 一方は「従来の20世紀型」

 しかし、イスラエル空軍はそういう問題に悩まされていないようです。ハマスにも「空軍」と呼称する組織は存在するようですが、近代的な防空システムや防空網といえるような装備はなく、またイスラエルの発表によると、ハマスの空軍司令官ら幹部たちは既に航空攻撃によって死亡したとのこと。このような状況から、イスラエル空軍の活動はほぼ無制限に近い状態であり、F-16やF-15などの戦闘機を使ってガザ地区の上空を自由に飛び回り、任意の目標を攻撃しています。


胴体下部に極超音速空対地ミサイル「キンジャール」を吊り下げたロシア空軍のMiG-31戦闘機(画像:ロシア国防省)。

 また、イスラエルの公式発表は「スマートで21世紀的なイスラエル空軍」を強くアピールしていることも大きな特徴です。

 たとえば、誘導爆弾を使用したピンポイント攻撃の映像が多く公開されている点などは、受けた被害に対して過剰すぎるとも非難される反撃作戦において、実態はさておき、市民への攻撃を控えているというイスラエル側の「正当性」や「クリーンさ」をアピールするプロパガンダだといえます。

 一方、ロシアに目を転じると、同軍はいうなれば「20世紀的な空軍」であり、あいかわらず無誘導爆弾を満載し絨毯(じゅうたん)爆撃を行う映像を平気で公開するなど、両者を比べると大きな違いがあります。

 なお、イスラエル空軍は建物のみならず、さらにピンポイントに特定の個人を狙った航空攻撃さえ可能です。たとえばイスラエルの諜報機関が集めた情報をもとに、即座に評価・意思決定が行われ、次いでどのような攻撃手段が最適であるか選定されます。

ロシア空軍の活動が低調な真の意味は?

 仮に航空攻撃がベストと判断された場合でも、新たに作戦を立案する必要はなく、すでに上空待機するF-15やF-16戦闘機に対してネットワークを通じ攻撃目標をアップデートし、パイロットはコンピューター上の指示に従い指定された地点へ誘導爆弾を投下するだけで、情報収集から数分以内に任意の目標を破壊できるといわれています。

 ちなみに攻撃手段は戦闘機に限りません。艦艇や野戦砲など様々な部隊が同一のネットワークへ加入しており、そのなかで最適な手段が選択されます。ただし誘導兵器を使用しない場合の精度は市街地のブロック単位が限度となり精密攻撃とはなりません。


ウクライナに配備された「パトリオット」地対空ミサイル(画像:ウクライナ空軍)。

 イスラエル空軍とロシア空軍は相手の防空網のレベル、そして戦域の広さが全く異なるため、そのまま比較することはできませんが、ロシア空軍ではこのような作戦が不可能です。ロシア空軍は2010年頃から一気に機種更新を行ったため、多くの戦闘機は非常に高性能ですが、こういう本当に必要とされる能力を持たないことが欠点であるといえるでしょう。

 もしロシア空軍にイスラエル空軍と同等の作戦能力があったなら、ウクライナはもっと苦しい状況だったに違いありません。ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから間もなく2年になろうとしています。地上戦の苦戦をよそにロシア空軍は戦力を温存していますが、一部情報によるとこの低調な動きの裏で空軍の近代化を図ろうとしているのでは、との観測もあるようです。