東海道・山陽新幹線の運行を集中管理する「総合指令所」が、年に1日だけ大阪の「第2総合指令所」へバトンタッチします。普段とは違う指令体制ですが、現場では慣れた様子で新幹線の運行指令が行われていました。

新幹線の総合指令を「年に1回だけ」大阪で行うワケ

 東海道・山陽新幹線の運行をリアルタイムで集中管理しているのが、東京にある「総合指令所」。ここが万が一災害などで機能しなくなった場合に備え、大阪市内に予備の「第2総合指令所」が設置されています。

 この「第2総合指令所」が1年に1回だけ、実際の列車制御を担当することがあります。いざという時にスムーズに動けるよう、指令員たちが感覚を忘れないためです。自然災害の少ない12月上旬が毎年選ばれ、今年で24回目。この現場が2023年12月9日(土)、報道陣にひっそりと公開されました。


東海道・山陽新幹線(画像:写真AC)。

 第2総合指令所の場所は「新大阪駅付近」ということ以外、完全に社外秘。中にある指令室は東京のものと「瓜二つ」に作ってあり、平時も電源が入ったままで、いつでも速やかに指令の権限を移せるようにしてあります。

 大阪に「予備の指令所」が誕生したきっかけは、1995(平成7)年に発生した阪神淡路大震災。それをうけ、重要な交通インフラを早期に復旧させるため機能の分散を図って、1999(平成11)年に開設されたものです。

「緊急配備要員」ともいうべき大阪の司令員は、普段は名古屋・大阪・岡山の職場で働いています。みな東京の総合指令所で司令員としての経験を積んだベテランで、有事の際はすぐ大阪へ駆けつけて、東京の本部隊が集結するのを待たずに力を発揮できるようにしています。年1回の実際の指令だけでなく、年数回はここに集まって、模擬の訓練などを行っているそうです。

 さて、今回の「大阪からの列車制御」には、総勢115名が指令室に集結。JR東海から78名、JR西日本から32名、さらにJR九州から5名です。

生きている現場 常に「何かが起こる」

 実際に新幹線を指令している様子を目にできたのは、わずか30分程度。しかし、その30分でも「淡々と新幹線を監視して無事終わる」ことは全くなく、常に指令と現場とのあいだで、迅速で臨機応変の判断がおこなわれ続けていました。

 取材開始時には、すでに一部区間で運転時の注意点が現場とで共有されていました。その後数分経ったとき、「新大阪駅で△番列車が発車直後、非常ブザーが取り扱われて緊急停車した模様です」の一報が入ります。一気にざわつく指令所。ダイヤ通りに運行することができなくなり、周囲の列車にも影響が波及します。この瞬間から各列車をどうすればいいのか。秒単位の判断が求められることになります。


第2総合指令所での指令員たちの様子(乗りものニュース編集部撮影)。

 そもそも何の情報があって、何の情報が必要なのか。その情報を元にどう判断すればいいのか。1人ではとっさに対応できないことでも、チームが互いに補い合って、判断の手助けをしていきます。

 運転再開までに大事なのは現場の安全確保。「誰がブザーを押したの?」「何が起きてブザーを押すことになったの?」「列車はどの位置で停まってるの?」という複数の声が上がり、現場と通話中の受話器を持った指令員が、「わかった」とばかりに手を上げます。

 ここで現場の状況把握を担当するのが、駅や各列車の乗務員と連携を取る「輸送旅客指令」です。指令室の中でも指令の種類で島が分かれていて、島と島で声が飛び交います。それと並行して、「□番列車は〇駅停車中」「×番列車は…」と、周囲の状況が刻一刻と共有されます。

 現場の様子は手元の画面だけでなく、正面に広がる巨大な「総合表示板」にも表示されます。列車がどこにいるのか、線路の分岐器がどちら側にスイッチしているのかなどが一目でわかります。

 総合表示板の前では、指令員が紙にマジックで、問題の起きた列車の番号と状況などを書き込み、表示板へ貼り付けます。状況が分かり次第、マジックの書き込みが増えていきます。

「運転を再開します」車内アナウンスの裏に現場の奮闘

「現場の安全確認はすべて完了しました。〇時〇分、運転再開です!」当該列車が動き出すと、ひとまず突発対応は一段落。情報交換は引き続き密に行われていますが、ひとまず安堵の雰囲気が漂っていました。

 この案件では新幹線に短時間ながら運転見合わせが発生したため、各方面への情報伝達が必要となります。車内放送ではおそらく「ただいま、新大阪駅で非常ブザーが押され、列車が緊急停止しました。そのためしばらく運転を見合わせていましたが、この列車も数分遅れで新大阪駅に到着予定です」などというアナウンスが乗客に伝わることでしょう。

 こういったアナウンスを私たちが聞くまでに、輸送列車指令が判断し、輸送旅客指令が駅と各列車に情報伝達する作業があったのです。それが行われている現場が、まさにここ総合指令所なのです。同時に、隣の席の「情報指令」は、公式サイトやSNSで「非常ブザーが押された影響で、遅れが発生しています」などの告知をおこなっています。

 1年に1回の「大阪指令」ですが、突発的なトラブルにも動じることなく、指令員たちは平常運行に向けて、無駄のない動きで連携を取り合っていました。きょう1日は終電の運転終了まで大阪で指令が続けられます。その後、明日の始発までに、指令所の権限は大阪からまた東京へ切り替えられていきます。