<インタビュー>首位ヴィッセル神戸をけん引するアカデミーの星!MF佐々木大樹が語るリーグ初優勝への思い
J1も残り3試合となった。現在首位のヴィッセル神戸は横浜F・マリノスと激しい優勝争いを繰り広げている。勝ち点差はわずかに2ポイント。残り試合は浦和レッズ、名古屋グランパス、ガンバ大阪と、名門クラブとの連戦が続く。このデッドヒートに闘志を燃やす生え抜きがいる。
今季の躍進はアカデミー出身のMF佐々木大樹の活躍なしでは語れない。ときにはサイドアタッカーとして攻撃の口火を切り、ときにはインサイドハーフとして中盤で激しい球際の争いに打ち勝ってチャンスを演出する。様々なポジションを難なくこなしてリーグ戦30試合7得点2アシストと、チームになくてはならない存在になっている。
今回Qolyは注目の生え抜きにインタビューを敢行。クラブ史上初のリーグタイトル、日本代表、サポーターへの思いを佐々木が語った。
アカデミー時代、ブラジル時代を振り返って
――島根県出身の佐々木選手が、ヴィッセル神戸U-18に入団した経緯と決め手を教えてください。
経緯はセレクションを中学2年のころに縁があって受けさせてもらいました。そのときに受かっていたか分からないですけど、そこから練習参加が増えて、中学3年のころにオファーをいただきました。
早い段階だったので「ヴィッセルしかないな」と、僕が入る前に(2013年)プレミア(リーグWEST)を優勝していたので、1択でしたね。
――実際に所属して、神戸のアカデミーで実感したすごさはどこでしょうか。
トップチーム、セカンドチーム、Aチーム、Bチームでもそうなんですけど、「常にいい環境でサッカーをさせてもらっている」こと。コーチがずっとカテゴリーが下がっても見てくれているので、そこはずっと自分の意識や気持ちを曲げずにやれることができたかな。(自分が成長できたのは)その環境があったからだと思います。
――佐々木選手が活躍することで、神戸アカデミーの子どもたちが佐々木選手を目標にすると思います。彼らにとってどのような存在でありたいですか。
「あの選手になりたい」ということは理想です。僕を見てそのカテゴリー、その時期だけではなく、ずっとプロを目指してほしいなと。僕自身のプレーや、僕自身(を見ること)で希望や夢を与えることが理想ですね。
――トップチーム昇格後、2018年7月から2019年8月までブラジルのパルメイラスに期限付き移籍しました。そこでの1年を振り返っていかがでしたか。
あのときは正直自分の中でも、ちょっと勘違いして移籍したかなというのがある。それを気付かせてもらえるような移籍かなというのはありましたね。あっちへ行っても出られなかったですし。
――「勘違い」とは具体的に言うとどういうことなのでしょうか。
自分の実力と思っているレベルに追い付いてないのに、自分の中では「やれる、やれる」という過信ですね。そういう時期でした。
――ブラジルと日本は文化、環境がかなり違いますけど、苦労した経験はありましたか。
苦労は正直してないんですけど、自分のメンタルが「俺はできているから」というメンタルで行ったので、ハングリー精神もなかったです。
途中ぐらいに気付いていたとは思いますけど、時間的に遅かったですね。最初にいろんなチャンスが、いろんな縁があってもらえたんですけど、そういうメンタルもあってちょっとチャンスを無駄にしたなという感覚はありますね。
だから難しさということは正直なかったです。サッカーをやれば言葉も関係なくプレーできると思うので。
――印象的なブラジルでのエピソードや思い出はありますか。
携帯を2回落としたのに、2回とも返ってきたことが「イメージとちょっとちゃうな」と思っています。スリされかけたことがあったので、「携帯落としたら終わりやろ」と思っていた中で2回も忘れたのにもかかわらず戻ってきたことが、自分の中では印象的なエピソードかもしれないです。
――ブラジルで成長した部分を教えてください。
自分の立ち位置、客観的に見る目、謙虚な姿勢だと思います。
究極の理想と大迫勇也の存在
今季は負傷者がチーム内に出ても、佐々木が穴を埋める形で複数ポジションをこなすシーンもあった。本職顔負けのスキル、優れた戦術理解能力、フィジカルと技術を生かしたボールキープ、そして決定機を見逃さない得点力など並外れた活躍をしてきた。器用にさまざまなタスクをこなす佐々木には究極のプレー像がある。そして同僚FW大迫勇也の存在も大きかった。
――今季サイドアタッカー、インサイドハーフとさまざまなポジションでプレーして、リーグ戦30試合7得点2アシストとキャリアハイの活躍を見せています。振り返って今季の手応えや成長を教えてください。
手応えはチームも首位を走っていますからないことはないんですけど、自分の中でもっとチャンスシーンはありましたし、この数字をもっと大きく伸ばせたと思う。手応えはあったかもしれないですけど、満足はしていないです。
――私の主観です。佐々木選手のプレーを見ていて、同僚の得意なプレーを自身のプレーに反映する能力が非常に高いと思います。例えばセレッソ大阪戦のゴールは、京都戦で決めたパトリッキ選手のゴールと似ていますし、大迫選手のボールキープや手の使い方が似ている印象があります。味方選手のストロングポイントなどの研究や、自分のものにしようと工夫されているのでしょうか。
そうですね。自分のできる範囲内で盗もうというのは、日々練習から取り組んでいます。特にいま意識していることは、サコくん(大迫)という日本代表の中でも中心でやっていた選手が目の前にいて、それを練習から毎回見させてもらっています。
「タダで練習を終えるようなことはしたくないな」と毎日思っている。毎日サコくんがやっている、自分のできることを「これかな、どれかな」ということを考えながらやっています。その中で、ちょっとできれば自分のモノにしていきます。もともと持っているストロングは出しますし、特にサコくんは練習の中で意識していますね。
――大迫選手からアドバイスはいただいていますか。
練習の中で結構アドバイスしてくれますね。親身になってアドバイスしてくれていることが本当にありがたいと思います。アドバイスしてもらうだけじゃダメだと思うので、自分の中で盗めるところは盗むほうが大きいかもしれないです。
――佐々木選手が描いている今後成長した先の完成イメージはありますか。
すごくぜい沢なことを言えば「強くて、高くて、速くて、うまい」何でもできる選手像。昔からそうありたいと思っています。今年も30試合に出ていますけど、そんなに強くて、高くて、うまいイメージとはほど遠いんですけど…。でも自分の持っているものを磨けば究極「強くて、速くて、うまい、高い」を実現できるかなと思っています。
(チームには)そのストロングを持っている選手たちがいるので、だからこそ毎日盗んでいます。「強くて、高くて、うまい、速い選手」になりたいという究極(の理想)を思っています。
――究極の理想があるからこそインサイドハーフ、サイドアタッカーでも難なくプレーできるというか、戦術理解能力高い部分につながっているのでしょうか。
もしかしたらつながっているかもしれないです。意識はしていないです(笑)。
――今季は元スペイン代表アンドレス・イニエスタ選手が夏に退団されて、9月にフアン・マタ選手が来られました。イニエスタ選手、マタ選手と世界的なレジェンドと一緒にプレーして学んだことや刺激を受けた経験はありますか。
ちょっとプレースタイルが違い過ぎるので、プレーに関しては正直「マネできひんやん」と思っていたので(苦笑)。
精神面や普段のプライベートの部分で、フアンもアンドレスもチームの雰囲気を保つ、チームの士気を乱さないところがすごい。いろんなところで経験して、活躍している選手なんだとピッチの上でも感じさせられました。
ミツのために戦う覚悟と指揮官への感謝
8月19日に開催されたJ1第24節柏レイソル戦でチームの中盤を支え続けたMF齊藤未月が、左ひざ関節脱臼、左ひざ複合靱帯損傷(前十字靭帯断裂、外側側副靭帯断裂、大腿二頭筋腱付着部断裂、膝窩筋腱損傷、内側側副靭帯損傷、後十字靭帯損傷)、内外側半月板損傷と全治約1年の大ケガを負った。それでもイレブンは齊藤の想いを背負って首位を守り続けた。
――齊藤選手が全治約1年の大ケガを負って、サッカー界全体が悲しみました。佐々木選手の中で戦う心構えなどで変化はありましたか。
「だから」ということではないんですけど、ミツがああいう状況になってしまった。僕らしかいまプレーできないので、「ミツのために」と思うようにはなりました。途中までずっとほとんど主力で、僕よりスタメンで出ていました。ミツのためにも優勝して一緒に喜びたいと思っています。
――チームの状況としては菊池流帆選手が負傷したりと、負傷離脱者が多いです。チームの雰囲気はいかがですか。
正直ケガは付き物なので、それはみんな受け入れています。(人が)変わってもやることは変わらないし、雰囲気自体はずっと試合に向かっている。試合に向かうメンタリティーをみんなちょっとずつ備えていますね。
――吉田孝行監督が縦に速いサッカーをチームに浸透させています。映像を見ていてもチームの雰囲気も、吉田監督が輪になるような形ですごくいいイメージがあります。佐々木選手から見て吉田監督はどのような存在ですか。
個人的にですけど、「開花させてくれた監督」の一人です。いいときはそうですけど、悪いときでも個別で呼んでくれて、いろんなミーティングをしてくれる。個人的に本当にありがたい監督ですし、感謝しかないですね。
――佐々木選手から見て吉田孝行監督のすごさを教えてください。
チームをまとめる力とみんなを奮い立たせる力がすごいと思いますね。僕も「やってやろう」という気持ちに今シーズン毎試合なっています。
チームの雰囲気やチームのまとまりを意識していると思うので、それがちゃんとチームに浸透していることが、本当に吉田孝行監督でしかできないことだと思っている。そこがすごいなと思います。
――サポーターから「背番号13番を付けてほしい」という声をSNSで見かけます。神戸で13番といえば小川慶治朗選手、大久保嘉人選手が付けた特別な番号です。個人的な思い入れはありますか。
僕もユースのころに付けていました。13番を付けるものだと思ってやっていたので、付けられる機会があれば付けたいです。僕自身も13番という番号はすごく偉大な番号だと感じています。
――新国立での鹿島アントラーズ戦後は、サポーターとチャントを一緒に歌う場面も見られました。神戸讃歌も熱唱することがありますけど、サポーターと歌う瞬間を大事にされていますか。
一緒に歌う瞬間というよりは、ファミリーだと僕は思っている。喜ぶときは一緒に喜びますし、悔しいと思えば悔しい気持ちになります。
同じ時間を過ごしていると思っているので、同じ熱量で歌いますし、同じ熱量で悔しいと思います。(サポーターを)意識しているというよりは、家族・ファミリーみたいなものです。「サポーターが歌えば僕も歌います」という感覚でやっています。
今年はアウェイでも多くのサポーターが駆け付けてくれているので、それが絶対力になっていると実感しています。
日本代表と欧州クラブへの展望
10月21日に開催されたJ1第30節鹿島アントラーズ戦では背番号22が2ゴールの活躍で強敵を3-1で破り、勝利の立役者となった。この試合には日本代表・森保一監督が視察に来ていた。今後佐々木が日本代表に招集されれば、神戸アカデミー出身者では史上初の快挙となる。同アカデミーの後輩であるDF小林友希、FW小田裕太郎が欧州クラブに移籍しており、同アカデミーOBの存在感が増しつつある。佐々木にキャリアの展望を聞いた。
――鹿島戦では日本代表の森保監督が視察に来ていました。選出されれば神戸アカデミー出身者では初の代表選手になります。代表への思いなどを聞かせてください。
僕がサッカーを始めてからずっと目指していた場所です。小学校のころから家族で「日本代表の青いユニフォームを着るぞ」という感じでやってきました。
目指すところだと、ずっと意識していますね。ただ本当に、ここ数年思うような(個人の)結果が出ていなかったので、まずはチームというところが結果につながると思います。
(代表を)目指してはいますけど、チームの結果がいまは全てだと思っています。その先にあるものをまず見るんじゃなくて、1試合、1試合の目の前の試合とチームの勝利を考えながらやっています。その先にある代表に選ばれればいいなと思っていますし、昔から意識しています。
――チームメイトの前川黛也選手が日本代表に選ばれたトピックは刺激になりましたか。
個人的になんですけど、(前川選手は)家族で仲良くさせてもらっています。黛也くんの代表選出は刺激でしかないです。
友達と話していても「マジですごい」という話をいろんな人にしています。何も感じなかったらサッカー選手じゃないと思っているので、めちゃくちゃ刺激を感じていますね。
――アカデミーの後輩の小林友希選手、小田裕太郎選手が欧州クラブに移籍しています。佐々木選手は将来的な欧州移籍の意欲はありますか。
もちろんあります。現時点では特に具体的なビジョンはないです。ただ今後はもっと成長して日本を代表する選手になれば、欧州でプレーしたいとみんなが思うことだと思いますし、僕個人も思っています。
リーグ初優勝に向けて
――現在神戸は首位ですけど、横浜FMと優勝争いを繰り広げています。初優勝への意気込みを教えてください。
残り3戦全勝しないといけないぐらいの意気込みで、マリノスもこの3試合やってくると思う。マリノスを気にするより、僕らもあと3試合で3勝すれば優勝です。もう死ぬ気でやりますし、神戸の歴史に名を刻めればと思います。
――いまの神戸が優勝を決めるにあたって、チームの誇りにしているプレーを教えてください。
自分達がやってる攻守においてのハードワークを90分間最後まで、一人もサボることなくやることができればしっかり勝てている。一人、一人がサボらずに90分間ハードワークを攻守においてすることをやれば優勝できると思います。
――できればホーム名古屋戦で優勝を決めたいですよね。
そうですね。でも他の会場を気にしていたらダメだと思うので、1戦、1戦です。理想はホームでドンチャン騒ぎをしたいですね。
――最後にサポーターに向けて、一言メッセージをお願いします。
残り3試合まですごく熱い応援をしてくれていたんですけど、もっともっと最後の3試合を全力で熱い応援をしてくれれば僕らは期待に応えます。是非ともあと3試合死ぬ気で応援していただければと思います。
昨季残留争いをしていた神戸だが、吉田監督が見事に立て直して今季優勝争いをするチームに変ぼうさせた。大迫、FW武藤嘉紀、MF山口蛍、DF酒井高徳ら元日本代表メンバーの活躍が目立つが、佐々木も彼らに負けない輝きをピッチで見せている。
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泣いても、笑っても残り3試合。悲願のリーグタイトル奪取に燃える背番号22が、期待に応える活躍を見せてユニフォームに新しい星を刻んでみせる。