Vol.132-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはMetaが発売を開始したVRデバイス「Quest 3」。MRの本質を掘り下げていく。

 

Meta

Quest 3

実売価格7万4800円〜

↑Quest 2よりも処理速度が大幅に向上したが、それ以上に進化したのがデュアルRGBカメラと奥行きセンサー(デプスプロジェクター)による高度な Mixed Reality(MR)表現。高度な操作が可能なコントローラーも付属する

 

Meta Quest 3のMixed Reality(MR)機能は、多くの人にとって驚きのものだろう。周囲の状況が自然にわかるので、動画やWebを見ながら部屋の中を歩いたり、ちょっとした家事をしたり……といった使い方ができる。

 

ただ周囲が見えればそれでいいか、というとそうもいかない。安全に、快適にVR機器を使うには、MRがあったほうが望ましい。目を覆ってしまう機器なので、周囲の状況が一切わからないのは危険だし、飲み物を飲んだりするときに毎回ヘッドセットを外すのも面倒だ。

 

また、MRを使った「現実空間の中で遊ぶゲーム」は楽しいだろう。だが、ゲームは没入する部分の多いものなので、すべてのゲームがMR対応にはならないし、MRに向かないものも多い。

 

一方で、Meta Quest 3を仕事に使うとしよう。VRを使ったシミュレーションや講習のような特殊な用途ではなく、もう少し一般的な作業だ。

 

空間に大きく複数のディスプレイを表示して作業をしたり、誰かと仮想空間の中でミーティングをしたりという使い方は、もう十分に可能となっている。ただそのような使い方をするなら、何時間も着け続ける可能性が出てくる。その場合、周囲の状況がわかったり、キーボードやマウスが見えたり、着けっぱなしでスマホの通知を確認したりできないと不便に感じるはずだ。

 

すなわち、MRの本質は「周囲の状況を確認できること」なのだ。体験自体の新鮮さ・おもしろさも非常に重要だが、それ自体はそのうち当たり前のものになる。

 

すなわちMRとは、ゲームをしているときだけヘッドセットをつけるのではなく、いろいろな作業をするときや映像を見るときなど、「日常のなかでできるだけ着けっぱなしになる時間が長くなる」ようにするための必須機能と考えていいのだ。逆に言えば、これまでのVR用ヘッドセットは、そういう必須機能が欠けた状態で使われていたので利用頻度が上がりづらかった……いうこともできるだろう。

 

一方で、Meta Quest 3には多少「Metaの迷い」も見える。

 

Meta Quest 3が標準で採用しているバンドは、安価ではあるが頭を絞め付ける構造になっている。そのため長時間の利用にはあまり向かない。長時間着け続けるなら、Meta Quest Proのように「頭を締め付けず、顔にもパッドを当てずに負担を感じさせない」構造が望ましい。

 

だが、頭や顔に負担をかけない構造は、スポーツ的に激しく動くゲームと相性が悪いうえに、ハードウェアコストも高くなりがちだ。Meta Quest 3は本質的にゲーム機であり、同時にMRを使った未来のPC的なデバイスでもある。

 

Metaはそこでどうしても、Meta Quest 3を、いまのビジネスである「ゲーム」の方に向けざるを得なかった。価格を抑え、ゲームが快適に遊べることが、まず商品として重要であるからだ。

 

そのため、Meta Quest 3を長時間使う場合は、社外品を含めた別のバンドを使うのがオススメになっている。Meta自身がもっと使い勝手のいいバンドを用意してくれてもいいのでは……とも思う。

 

なお、発売時点でのMeta Quest 3のMR機能はまだ完全ではない。毎月アップデートし、2024年以降により本格的な機能が公開されることになっている。それはどういうもので、どう変わるのか? その辺は次回のWeb版で解説する。

 

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