福岡では繁華街天神をアジアの交流拠点の中心地とするべく、天神交差点から半径約500m(約80ha)のエリアで2015年から再開発プロジェクト(通称:天神ビックバン)が進行してきました。2023年9月現在、すでに竣工し、稼働している建物も何棟かあり、プロジェクトの全体像もだんだんと見えてきたところです。そんな現地の今の様子を、リサーチしてきました。

地下鉄「天神」駅と天神地下街の様子(筆者撮影)

天神ビッグバンとは?

天神ビックバンとは、福岡の繁華街天神がかかえる警固断層などのリスクがあるなか、更新期を迎えたビルを耐震性が高く、先進的なビルに建て替えることで、多くの市民やそこで働く人々、そして観光に訪れる人々の安心・安全を確保しつつ、さらに都心部の機能を高めることでアジアの交流拠点にふさわしい魅力的な空間づくりを進めるプロジェクトです。

規制緩和によって100m級の高層ビルも建設可能に
福岡市は福岡空港との距離から、航空法により建物の高さが67mに制限されていました。それが、2014年に国家戦略特区に認定されたことで、天神交差点から半径約500mのエリアは建物の高さが100~115mにまで規制緩和されました。その結果、現在約60棟の建設申請があり、その中には100m近い高層ビルの建設も進行しています。

また、福岡市では天神ビックバンをより盛り上げるべく、2016年に市として独自に天神BBB(ビッグバンボーナス)を創設しました。これは周囲のビルとの連続性や緑化の推進など一定の基準を満たした事業に対して、さらなる建物の規制緩和をするほか、認定ビルとして市が積極的にPRしたり、テナントを優先的に紹介したりとさまざまな優遇措置を受けられるもので、これによりますます天神に魅力的な施設が増えることが予想されています。
「ブロック」や「エリア」などの言い方で区切られた、いくつかのゾーンに分かれて開発が進む今回の計画について、代表的な部分をご紹介していきます。

天神ビックバン(天神交差点から半径約500m)全体像(福岡市役所提供)

新たな都市計画道路と一体化する(仮称)天一北14街区ビル
まず、全体像の中の北側「天神一丁目北ブロック」です。こちらでは、2025年竣工予定の(仮称)天一北14街区ビルが建設中です。約3,050㎡の敷地に地下2階・地上18階・塔屋2階建てで、赤煉瓦文化館や天神地下街に連想される重厚かつ風格のあるたたずまいを継承するデザインが採用されています。

同ビルでは明治通りから昭和通りにかけて整備される都市計画道路天神通線と一体的な歩行者空間が形成される予定です。中央公園やアクロス福岡など緑豊かな環境と連続する常緑並木道、地上から地下にかけての壁面緑化などただそこを歩くだけでも気持ちのいい空間になりそうです。

「天神一丁目北ブロック」地区整備計画のイメージ(福岡市役所提供)

天神一丁目北エリアで新たなランドマークが誕生する予感

続いて、「天神一丁目北ブロック」よりも南側の「天神一丁目北エリア」です。こちらのエリアにはかつて天神の時代を牽引したファッションビルIMS(イムズ)がありました。その一方で、水鏡天満宮や赤煉瓦文化館など歴史・文化資源が豊富なエリアでもあります。

ファッションビルIMS(イムズ)が生まれ変わる(仮称)天神1-7計画
天神地区のにぎわいスポット福岡市役所前のふれあい広場に隣接し、かつ天神エリアを南北に通る渡辺通りに面しているIMS跡地に、地下4階・地上20階・塔屋1階建ての複合ビルが建設されます。こちらは、2026年竣工予定の(仮称)天神1-7計画です。

都市と自然が調和した都市空間を目指し、外装に九州産材のパネルと植栽を有機的に配置したデザインが特徴です。渡辺通りに面した低層部はV字柱と吹き抜け空間が設計され、シンボリックなデザインで天神の新たなランドマークとなることが期待されています。

V字柱と吹き抜け空間が印象的な(仮称)天神1-7計画(三菱地所株式会社提供)

天神一丁目南ブロックは再開発がもっとも進行するエリア

「天神一丁目南ブロック」は天神ビックバンによる再開発がもっとも進められているエリアです。すでに竣工し、役割を果たしている建物、今年度中に竣工予定の建物、今まさに建設が開始した建物もあり、プロジェクトの雰囲気を一番味わうことができます。

「天神一丁目南ブロック」地区整備計画のイメージ(福岡市役所提供)

天神ビックバンでもっとも早くに竣工した天神ビジネスセンター
天神ビジネスセンターは天神ビックバンで開発が進められる高層ビルの中でもっとも早い2021年10月に竣工しました。地下2階・地上19階・高さ89m・総貸床10,000坪を超える天神最大級のオフィスビルです。

地下2階から地上2階の一部は商用施設で、地下2階には福岡の名物料理の新業態も含めた12の店舗が入居する天神イナチカがオープンしています。また、地下鉄「天神」駅と直結する交通利便性の高さでも注目されるビルです。

すでに天神で存在感を発揮している天神ビジネスセンター(筆者撮影)

天神コアビルを含めた一角がまとめて建て替わる福ビル街区
天神ビックバンでもとくに広範囲にわたって再開発が進められているのが、2024年竣工予定の福ビル街区建替プロジェクト。天神コアと天神ビブレ、そして福岡ビルがまとめて一棟のビルに建て替えられる壮大な計画です。

地下4階・地上19階・高さ97mとなる高層ビルには18~19階にホテル、8~17階にオフィスが入ります。中でも、オフィスのエントランスやホテルのロビーとなる6~7階のスカイロビーは、開発エリアの中心地天神交差点を一望できる予定です。

広大な敷地がどう変貌するのか楽しみな福ビル街区

巨大な吹き抜けをはじめ憩いの空間を創出する天神BC2期計画
一方で、天神ビックバンに関わるプロジェクトでは後半となる2026年に竣工予定なのが天神BC2期計画です。同ビルは地下2階・地上18階・塔屋2階建てに事務所、店舗、駐車場などが入るほか、地下広場から7階層におよび吹き抜け空間が整備されます。

また、足下部分の壁面には花や緑があしらわれ、周囲の広場などにも積極的に樹木やベンチが配置されるなど憩いの空間が創出される予定です。さらに、因幡町通り地下通路と直結して地下鉄・西鉄それぞれの「天神」駅に素早くアクセスできるようにもなります。

天神二丁目南ブロックでは駅と隣接する立地を最大限活用

「天神二丁目南ブロック」は駅と隣接する立地を存分に活用した再開発が進められるエリアです。交通機関との接続性を高めたビルに加えて、街区全体で駅前の滞留が解消され、新たなにぎわいが生まれるような再編が計画されています。

「天神一丁目南ブロック」地区整備計画のイメージ(福岡市役所提供)

オープンエアーな空間をもつ住生FJビルやヒューリック福岡ビルの建て替えプロジェクトHLC福岡ビル
こちらのブロックでは2025年に住生FJビルが竣工予定です。同ビルは地下2階・地上24階・地下2階・塔屋2階建で事務所や店舗、駐車場などが入るほか、感染症対策として基準階から直接出入りできる地上広場やバルコニー、テラスなどのオープンエアーな空間が整備されます。
なお、各フロアの道路に面した側のバルコニーはテナントが自由に使える空間です。地下鉄「天神」駅とも接続する計画で、駅からビルの地上広場、そしてバルコニーへと人が流入することでうまれる新たなにぎわいに期待が高まります。

福岡を代表するオフィスビルのひとつヒューリック福岡ビルも、この度の天神ビックバンで建て替えられることとなりました。約1,450㎡の敷地に地下3階・地上19階・塔屋2階、高さ約92mという規模の高層ビルが建設されます。
竣工予定は2024年9月で、建物内にはホテルやオフィス、商業施設が入居します。また、地上と地下で各交通機関と結ばれ、立体広場も整備されます。

「住生FJビル」「HLC福岡ビル」のイメージ(福岡市役所「天神ビックバン全体像」より)

周囲の街区とともに交通環境を改善する駅前東西街区プロジェクト
駅前では街区の再編が進められています。歩行者と自動車が交差するためにこれまで滞留が発生していた駅前の交通環境を改善するべく、安心・安全に交通できる貫通通路や地下通路、上空通路などを整備するプロジェクトです。

東西街区が協力し、ひとつの大街区化されることで、新たな施設の参入や老朽化している建物の改修などが積極的に進むことが期待されます。さらに、駅を中心とした天神の立地を生かした文化・芸術を感じる複合施設も建設される予定です。

旧大名小学校跡地では福岡のスタートアップの中心地が誕生

この度の天神ビックバンの特異点となる予感がするのが、ここ「旧大名小学校跡地」のゾーンです。その名の通り、かつて大名小学校が存在したこのエリアは今、福岡のスタートアップの中心地になりつつあり、企業や人材の交流拠点として県内外から注目を集めています。

福岡を代表する企業が誕生するかもしれない旧大名小学校跡地(筆者撮影)

スタートアップの中心地として生まれ変わった旧大名小学校跡地
旧大名小学校は1929年に開校した県内最古の鉄筋コンクリート造りの建物で、2014年3月に閉校となったのち、2017年4月に福岡のスタートアップの中心地Fukuoka Growth Next(FGN)としてリニューアルされました。

まさに外観は当時の小学校のままですが、一歩中に足を踏み入れると、そこは起業したい人とそれを支援したい人が集まりコラボするなど、創業を支援することに特化した官民共働型スタートアップ支援施設です。

広々とした芝生広場で想像が膨らみそうな大名ガーデンシティ(筆者撮影)

旧大名小学校跡地の校舎正面に突如現れた大名ガーデンシティ
旧大名小学校跡地の校舎正面には2023年3月に竣工したばかりの大名ガーデンシティがあります。こちらは世界的ホテルブランドで九州発上陸のザ・リッツ・カールトンをはじめ、オフィスや商業施設が入居する高層ビルです。

建物内には公民館や人材育成施設もあり、FGNとともに企業や人材の交流拠点として活用されています。また、FGNとの間に造成された約3,000㎡の広大な広場は、青空のもと新たなアイデアを膨らませるのによさそうな空間です。

ここまで天神ビックバンの現在と今後の開発計画についてご紹介してきました。今回の再開発では各建物が独自の役割をもつだけでなく、それぞれが連携し、街全体で繁華街天神をアジアの交流拠点の中心地としようとする意思が感じられました。

主な建物はあと数年で竣工予定ということ考えると今後、天神の街並みは急速にアップデートされていき、これまで以上に快適で、魅力的な街に生まれ変わることでしょう。