ヨーロッパに広く分布するヨーロッパアカガエルは繁殖期になると池に数十匹が集まり、1匹のメスを巡って複数のオスが激しい争いを繰り広げます。これまで科学者らは、メスのヨーロッパアカガエルがオスによる交尾の要求を拒否することはないと考えていましたが、新たな研究でメスは「死んだふり」などの戦術を使って望まない交尾を避けることが判明しました。

Drop dead! Female mate avoidance in an explosively breeding frog | Royal Society Open Science

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.230742



Tired of aggressively amorous males? These female frogs play dead | Science | AAAS

https://www.science.org/content/article/tired-aggressively-amorous-males-these-female-frogs-play-dead

These female frogs fake their own deaths to get out of sex | Live Science

https://www.livescience.com/animals/frogs/these-female-frogs-fake-their-own-deaths-to-get-out-of-sex

Female frogs appear to fake death to avoid unwanted advances, study shows | Animal behaviour | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/2023/oct/11/female-frogs-fake-death-unwanted-advances-study

ヨーロッパアカガエルの交尾は1匹のメスを複数のオスが争う形で行われ、複数の個体が密集したmating ball(交尾玉)と呼ばれる状態を作り出します。そんな状態での激しい交尾はメスの体に負担がかかることも多く、時にはメスの上に多くの個体が覆いかぶさって溺死させてしまう場合もあるとのこと。ベルリン自然史博物館の研究者であるカロリン・ディートリッヒ氏は、「場合によってはメスが交尾玉の中で殺されてしまうこともあります」と述べています。

これまで、メスはオスによる激しい交尾から身を守る手段を持っておらず、ただオスの交尾に応じるだけだと考えられてきたそうです。しかし、ディートリッヒ氏らが「オスのヨーロッパアカガエルはメスの体格差に好みを示すのかどうか」を調べる実験を行ったところ、メスがオスの交尾を回避するかのような行動をしたことが判明しました。

研究チームは繁殖期のヨーロッパアカガエルの「体が大きいメス」「体が小さいメス」を用意して水槽に入れ、そこに繁殖期のオスを1時間入れてカエルたちの様子を撮影しています。研究チームは、「大きなメスの方がより多くの卵を産むことができるため、オスはより大きなメスを好むのではないか」と想定していましたが、オスがサイズを基準にして交尾するメスを選ぶ傾向は確認できませんでした。



しかし、ディートリッヒ氏らの研究チームが実験中の映像を確認したところ、メスのカエルが交尾を求めるオスを避けるために3つの戦術を用いていることがわかりました。

ヨーロッパアカガエルのメスが行った1つ目の戦術は、「オスにつかまれたらあお向けになって回転する」というものです。こうすることで覆いかぶさったオスが水中に沈んで溺れそうになるため、オスはメスの体を離すとのこと。実験ではオスにつかまれた54匹のメスのうち、83%があお向けになって回転したと報告されています。

2つ目の戦術は、「オスにマウントされると2種類の鳴き声を発する」というもので、オスにマウントされたメスの48%がこの戦術を使用しました。2つの鳴き声のうち低い鳴き声は、オスが他のオスを警戒する際の鳴き声を模倣したものとみられていますが、高い鳴き声は何の目的で発されているのか不明だとのこと。

そして3つ目の戦術が、オスにマウントされると約2分間にわたり手足を伸ばして横たわり、「死んだふり」をするというものです。オスにマウントされたメスの33%が死んだふりを行い、オスが興味をなくしてから再び泳ぎ始めました。

なお、「死んだふり」は1つ目の「あお向けになって回転する」という回避行動と同時に発生する傾向があったことや、体の小さいメスはこれらの戦術を使用する傾向が強いことも報告されました。全体として46%のメスがオスのマウントから脱出し、より体の小さいメスほどオスの交尾から逃れる可能性が高かったそうです。



今回みられた「死んだふり」は必ずしもメスが意図的に行っているものではなく、ストレス反応によるものの可能性もあると研究チームは指摘しています。その場合、より若く小さいメスは交尾の経験が少ないためオスのマウントによって生じるストレスが大きく、結果として高い頻度で死んだふりをしていると考えられます。ディートリッヒ氏は、「私たちにはメスが死んだふりをしているように見えますが、それが意識的な行動であることは証明できません。ストレスに対する自動的な反応かもしれません」と述べています。

なお、今回の実験はサンプルサイズが小さいことや環境が自然のものとは異なること、オスが1匹しかいなかった点などに制限があります。ディートリッヒ氏は、野生環境には隠れる場所が多いため、メスはより簡単にオスから逃げられる可能性もあると指摘しています。

しかし、今回の研究はヨーロッパアカガエルのメスがただオスに従うだけでなく、オスの交尾を拒否できるという新たな視点をもたらすものです。ディートリッヒ氏は、「たとえこの種を『一般的なカエル』と呼んでよく知っているつもりになっていても、私たちがまだ知らない、おそらく考えてすらいない側面もあるのだと思います」とコメントしました。