河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)インタビュー

 もともと秀でていたアシスト能力に加え、最近では自らゴールを奪いにいく得点面でも大きく成長。体の強さと俊敏さを生かし、しつこく相手に噛みつくようなディフェンスも光っている。

 2022年夏に日本代表デビューを果たした河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)は、今やトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)率いる「アカツキジャパン」にとって欠かせない選手となった。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 まもなく開幕するFIBAバスケットボールワールドカップ2023のメンバーに選出されることは濃厚と見られる。日の丸を背負って世界と戦うことを目指し、昨年は大学を中退して完全にプロ転向を果たした。Bリーグの2022−23シーズンでMVPを獲得するなど、現在、日本で最も注目される選手のひとりであることに疑いの余地はない。

 A代表では初めての世界大会に臨む172cmの小柄な司令塔は、世界の強敵を相手にどこまで対等にやれるのか。そして厳しい戦いが待ち受ける日本を、どれだけ牽引できるのか。ワールドカップのキーマンになるであろう22歳に今の思いを聞いた──。

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河村勇輝がワールドカップへの思いを語った

── 今回のワールドカップの最終メンバーに選ばれると、河村選手にとって初の世界大会となります。それはバスケットボールキャリアにおいて、どういう意味を持つことになりますか?

「世界で通用する選手になるっていうのは、ひとつ目標としてずっと自分のなかで掲げてきたので、それに挑戦できる大会となります。自分がこれまでやってきたことのひとつの集大成として、今の自分の力がどれだけ世界で通用するのか、それを証明できる大会になるかと思います」

── 4年前のワールドカップや2021年の東京オリンピックは見ていましたか?

「もちろんです。ワールドカップの時は高校3年生だったのですが、日本とアメリカの試合を寮の食堂にみんなで集まって見ていました。

 やっぱり世界のレベルって本当に高いんだな......って。『自分がコートに立ったらこういうことしているな』とか、そういうのも考えられないくらい、いちファンとして見ていた感覚が強かったです。

 日本を応援していましたし、もしかしたら(互角に)やれるんじゃないかっていう期待もありました。ですが、やはり試合を見ていると、アメリカなどの世界のすごさをあらためて感じました」

── 昨夏に招集されて以降、河村選手は継続して代表でプレーしています。トム・ホーバスHCのバスケットボールは特殊なスタイルとも言われますが、河村選手はどう表現しますか?

「型にハメないというか、フリーランスで、ひとりひとりの判断を高めていく感じのバスケだと考えています。型にハメてみんながロボットみたいに動くというより、それぞれがその場、その場で判断しながら動くので、ハマった時は自分たちも気持ちがいいです。型にハメてこないからこそ、相手側もすごく守りづらいんじゃないかなと思います」

── ホーバスHCはそれを「NBAのスタイルだ」とよく話しています。実際にBリーグでやっているものとは少し違う感じでしょうか?

「そうですね。ピック・アンド・ロールはBリーグでも一緒なのですが、型というのがあまりなくて。フォーメーションもあることはあるのですが、すごくたくさんあるわけではないです。

(プレーが止まったところからの再開時の)エントリーの仕方もたくさんありますけど、ゴールへ向かう動きはその場、その場で、みんなで判断して動くみたいな感じです。トムさんは(彼がよく言及するNBAの)ゴールデンステート・ウォリアーズのことをよく話しています。(ウォリアーズのバスケは)見ていてもけっこう面白いんじゃないかなと思います」

── これもホーバスHCがよく言っていることですが、彼は選手たちにそれぞれの「役割」を与えていると。河村選手の日本代表での役割はどういうものでしょうか?

「トムさんのバスケは、速い展開からポゼッションを多くしてシュートの試投数も増やしていくことと、アグレッシブなディフェンスが求められます。速い展開を生み出すには、PGである僕がボールをプッシュしたり、コントロールをしないといけないと思っています。

 あとは、3Pを多く打つ戦術なので、自分がしっかりとペイントアタックをしてフリーで3Pを打てるようにすること。アグレッシブなディフェンスも、先頭に立ってやりたいなと思っています」

── 一方でディフェンス面では、相手からスティールをすれば一瞬のうちに攻撃へと転じてアウトナンバー(攻撃側が守備側よりも人数が多い速攻の状態)が生まれやすい。そこも河村選手に期待されるところではないでしょうか。

「そうですね。やはりサイズのハンデがあるので、ハーフコートバスケになればなるほど相手はミスマッチをついてきますから、そうさせないようにできるだけ体を張らねばなりません。フルコートでマッチアップして相手にストレスをかけていくのが僕の役割かと思っています」

── 河村選手は日本代表に招集されて、さらに急速に成長しました。それをワールドカップの舞台でどのように生かしていきたいですか?

「一番変わったところはスコアリング(得点)のところです。そこをしっかりとファーストオプションにしながらやっていきたいです。

 ただ、代表チームには渡邊雄太さん(SF/フェニックス・サンズ)、馬場雄大さん(SG/前テキサス・レジェンズ)、富永啓生選手(SG/ネブラスカ大)と、僕よりスコアリング能力に長けている選手がいます。なので、彼らを最大限に生かす動きが必要になるんじゃないかと」

── 八村塁(SF/ロサンゼルス・レイカーズ)選手が代表を辞退したことで、選ばれる選手ひとりひとりがより力を発揮しなければなりません。

「本当にそうだと思います。それくらい、塁さんの力はひとりではカバーできない。それは誰が見てもわかりますので、その穴を12人が少しずつ埋めていかないといけない。そのステップアップはしっかりしてきたいなと思います」

── ワールドカップの予選ラウンド、日本はドイツ、フィンランド、オーストラリアといった強豪と当たります。相手の印象はいかがですか?

「オーストラリアはアジアカップやワールドカップ・アジア地区予選で戦ったことがあるので、どういうチームなのかはある程度わかります。ただ、ワールドカップのメンバーにはNBA選手が入ってくると聞いているので、戦術的なところはおそくら変わらないと思いますが、ひとりひとりのレベルが上がるとなると、やっぱり相当強いんじゃないかと思います。

 以前に対戦した時、オーストラリアはディフェンスでオールスイッチ(攻撃側がピック・アンド・ロールをしてきた時、それぞれマークしている選手を変えて守る方法)をしてきました。そういうところの対策はずっとやってきているので、うまく準備したいなと思います。

 一方、ドイツとフィンランドはそれぞれひとり、しっかりとしたNBA選手が核にいる感じです(ドイツはPGデニス・シュルーダー、フィンランドはPFラウリ・マルカネン)。その選手をしっかりとマークして守りきることができれば、自分たちの流れになってくるんじゃないかなと思っています」

──「死の組」と呼ばれるグループで戦うことについて、どのように感じていますか?

「すごく、やりがいがあると思います。自分たちが100%、120%の力を発揮しないといけないのは目に見えてわかっていることなので、逆に全員がすごく高いモチベーションを持っています。

 死の組の強豪国に勝っていかないといけないのは、楽しみでもあります。いい意味でプレッシャーがないというか、逆に相手のほうがプレッシャーがかかるんじゃないかと思います」

── ワールドカップでは世界を驚かせたいという思いも?

「もちろん、ありますね。『日本のバスケがこんなに強くなったのか、注意しないといけないな』という印象を与えたい思いはあります。また、個人としても今後、海外でやっていきたい気持ちがあるので、そのアピールの場として思いきりやりたいなと思っています。

 ただ、だからといってアピールしたいがためにエゴを出して、自分の役割じゃないことをするのとは、まったく話が違います。求められる役割を100%発揮することができれば、おのずと世界へアピールすることになるので、それを信じて、今やるべきことをやりたいなと思っています」

<了>


【profile】
河村勇輝(かわむら・ゆうき)
2001年5月2日生まれ、山口県柳井市出身。福岡第一高校時代はウィンターカップ2連覇など4度の全国タイトルを獲得。高校3年時に特別指定選手として三遠ネオフェニックスに加入し、2020年1月にはB1史上最年少(18歳8カ月23日、)出場記録を更新する。2020年4月、東海大学に進学。同年12月に横浜ビー・コルセアーズの特別指定選手としてプレーし、2022年3月に大学を中退してプロ契約を締結する。2022-23シーズンはBリーグMVP、ベストファイブ、新人賞などを受賞。日本代表は2022年7月の台湾戦でデビュー。ポジション=ポイントガード。身長172cm、体重72kg。