日大三・針金侑良に甲子園で覚醒の予感 大型スラッガーは6月の香川遠征後に激変
甲子園で覚醒する選手がいる。
たとえば、2017年の中村奨成(広陵/現・広島)、2018年の吉田輝星(金足農業/現・日本ハム)がそうだ。3年生の夏に初めて甲子園の舞台に立ち、観客の声援を力に変えた。ともに決勝戦で涙を飲んだものの、中村はバットと強肩で、吉田はその剛腕でスターへの階段をのぼっていった。
甲子園初戦の社戦で2安打の活躍を見せた日大三・針金侑良
日大三(西東京)の6番を打つ針金侑良(はりがね・ゆら)は、身長192センチ、体重89キロの左打ちの大型外野手だ。今回大会で注目される3人のスラッガー、花巻東(岩手)の佐々木麟太郎(184センチ、113キロ)、広陵(広島)の真鍋慧(189センチ、92キロ)、九州国際大付(福岡)の佐倉侠志朗(184センチ、110キロ)にも引けをとらない体格を誇る。
しかし、今年の春季大会まではベンチを温めることも多かった。
針金は言う。
「春季大会はあまり打てなくてベンチにいることが多かった。6月に香川に行って、英明と高松商業と試合をしました。その時、三木有造監督に『おまえの体なら自信を持ってバットを振っていけばボールは飛んでいく。だから、自分のスイングをしていけ』と言われて。その香川遠征でホームラン、いい当たりのセンター前ヒットが打てて、自分の形ができたのかなと思いました」
長打力がありながら、なかなかレギュラーポジションをつかめなかったのは自分の考え方に原因があったと自己分析する。
「もともと、結果が出ない時にはマイナスな方向にいっちゃうタイプなので、そのあたりは変えないといけないと思っていました。以前なら『今日は打てなかった』で終わっていたんですけど、今は『どうして打てたんだろうか』と自分で考えて、次の試合に臨めるようになりました。だから、結果が出ているのかな」
技術的にも変化があった。
「体の強さ、パワーには自信がありましたが、バッティングの課題はコンタクトでした。バットにボールを当てる確率を上げたいとずっと考えていました。うまくミートできずにフライを上げたり、引っかけたりしていたんですけど、5、6月頃から、ピッチャーに緩いワンバウンドを投げてもらい、それを打つ練習をしました。最後までしっかりとボールを見ないと打てません。その練習を続けることでしっかりと間(ま)がとれて、自分のスイングができるようになりました」
インターネットでヒントを探しているうちに、この練習方法にたどりついたという。
最後の夏、西東京大会で針金のバットが火を噴いた。6試合で打率.500、9打点。準決勝、決勝でホームランを放ち、日大三の2年連続甲子園出場の立役者となった。
「西東京大会から一戦一戦、大事に、確実にと思いながら戦ってきました。結果的に甲子園に来ることができてよかったです。去年の夏、スタンドから応援しながら、『今のままじゃいけないな』と考えていたことを思い出します」
【初の甲子園で2安打の活躍】針金は初めてプレーする甲子園で、西東京大会で見せたとおりのパワフルなバッティングを披露した。社(兵庫)との1回戦、1打席目にレフト前ヒット、3打席目には左中間を破るツーベースを放った。
「西東京大会決勝を戦った神宮球場も観客が多かったんですけど、甲子園はまた違う雰囲気です。そこで2本ヒットを打ててうれしい。無理に引っ張っても打球は飛ばないので、ボールに逆らわず、アウトコースはレフト方向に打ち返すように心がけています。ツーベースは変化球だったんですが、引っ張らなかったので左中間に飛んでいってくれました」
幼い頃から「三高の試合を見てきた」という針金の印象に残っているのは、2018年の先輩たちの姿だ。3回戦で龍谷大平安(京都)、準々決勝で下関国際(山口)も破ったが、準決勝で吉田輝星がエースの金足農業(秋田)に敗れた。
「子どもの頃からずっと、三高の試合を見ていました。そのユニフォームを着て、聖地と言われる場所でヒットを打ててよかった」
1回戦で2安打完封をしたエースの安田虎汰郎をバットで盛り立てるつもりだ。
「安田が成長したところは変化球の精度ですね。変化球は絶対に低めに決まります。練習で対戦することがあるんですけど、あのチェンジアップを連投されたら打てません」
次戦の相手は、富山商業(富山)との延長12回の激戦をサヨナラでモノにした鳥栖工業(佐賀)だ。1年生ながら、144キロのストレートを投げる好投手・松延響がいる。
「優勝とか、どこまで勝ち上がるかとかは考えていません。一戦一戦を全力で戦って、目の前の相手を倒していきたい。僕がアピールしたいのは、自分の魅力である長打力。右中間、左中間に強い打球を打って、チームが勝てる打撃をしていきたいですね」
大型スラッガー覚醒の予感がする。