谷口彰悟「自分にはもう、あとがない」日本代表招集に抱いた危機感「森保監督に3月に代表に呼ばれなかった理由も聞けた」
【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第5回>
◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第4回>>カタール移籍は人生初の「わがまま」ベースは今も川崎フロンターレ
カタールワールドカップを終えて、森保一監督の続投でスタートを切った新生・日本代表。ただ、今年3月のウルグアイ戦とコロンビア戦のメンバーに「谷口彰悟」の名前はなかった。
しかし、6月のエルサルバドル戦とペルー戦のメンバーには、再び谷口は選出された。ワールドカップ後に川崎フロンターレからアル・ラーヤンSCに移籍し、今年で32歳というベテランの域に達する谷口は、どのような気持ちでこの2試合に臨んだのか。
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エルサルバドル戦で代表初ゴールを決めた谷口彰悟
6月シリーズを戦う日本代表に選ばれた時、最初に抱いた感情は驚きだった。
同時に、再び日本代表のユニフォームに身を包めるうれしさと、この2試合で自分は見極められることになる──という危機感に背筋を伸ばした。
驚いた理由は、カタールワールドカップを経て、日本代表が新たにスタートした3月の活動に、自分が選ばれなかったからだ。
森保一監督が指揮を継続しつつ、新たなコーチ陣が加わり再始動した日本代表に、いわゆるベテランと言われる選手たちの名前はなかった。カタールから日本の記事に目を通すと、「世代交代」や「若返り」といったキーワードが並んでいた。
自分自身も、すでに30歳を過ぎ、次のワールドカップが開催される時には34歳になっている。客観視すれば、僕自身もベテランという枠組に入っていると考えるのが妥当なのだろうと、選ばれなかった事実を分析した。
サッカーをするのに年齢がすべてではないとはいえ、年を重ねた選手と同じポジションに勢いのある若手選手がいれば、年齢が若い選手を選択するのはプロの世界では道理だと、自分自身も理解している。だから、新たに始動する日本代表に自分の名前がなかった時には、その道理を受け入れるしかないという思いも心の片隅にはあった。
一方で、自分自身が年齢を言い訳にして、日本代表に選ばれなかった事実を受け入れてしまうと、自分自身の成長も向上も、そこで止まってしまうと思っていた。
カタールワールドカップを経験して、自分でも実感できるほど、日本代表への思いは増していた。それほどに、わずか4試合とは思えない価値が、あの舞台と、あの空間にはあった。短期間で自分自身が大きく成長し、得がたい経験ができたと感じていた。
また、日本のエンブレムを背負って世界の舞台で戦うことの重みや誇りも含め、日本代表は「できるかぎり、長く居続けたい」と思わせてくれる場所だった。
3月には、そうした現実が頭をよぎり、悔しさもあっただけに、6月の活動で再び日本代表に選ばれたことは、驚くとともに素直にうれしかった。そして、自分が重ねてきた年齢、自分が置かれている環境、日本代表が進もうとしている未来を踏まえれば、この2試合で、自分は見極められることになるという考えが頭のなかで駆け巡った。
「自分にとっては勝負の2試合になる」
日本代表に定位置はない──とは、よく言われていることだけど、常に崖っぷちに立たされてきた自分は、再びそれくらいのプレッシャーをかけて、6月の活動に挑んだ。
少しでも中途半端なプレーを見せれば、次の機会が与えられることはないだろう。まだまだ自分ができること、また、自分はこういう力をチームにもたらすことができるんだという存在感を示さなければと。
谷口彰悟がいたほうが、チームはうまく回る、またはチームは締まる、さらにはプレーが安定している──そういったことを日本代表のチームメイトにも、周囲にも印象づけなければ、自分の価値はなくなると考えていた。だから、再び「自分にはもう、あとがない」というプレッシャーをかけながら日々を過ごした。
そして、今回の日本代表での活動期間中には、森保監督と一対一で話をする時間があった。
カタールワールドカップが終わってから、直接、話をする機会はなかっただけに、カタールワールドカップでの戦いを今、振り返ってどう感じているのか、どう考えているのかについて意見を交換した。
そこでは、日本人である自分たちの特徴を活かした守備のやり方、戦い方についても、自分の考えを聞いてくれ、また、監督としての考えも聞かせてもらった。
そんな有意義な時間では、3月の活動で自分を選ばなかった理由を話してくれるとともに、自分のプレーに期待しているという言葉を投げかけてもらい、目の前がクリアになった状態で練習や試合に臨めた。
また、6月の活動で選ばれた日本代表のなかで、自分は最年長だった。年齢でサッカーをやるわけではないとつづったように、最年長だからといって自分の態度を変えることはなかった。
そのため、まずは自分のプレーや自分のパフォーマンスに集中しようと心がけた。実際、チーム全体がうまく機能していくように働きかけることや、チーム全体を見て行動することは、最年長になったからとかではなく、今までも考え、実行してきたことだったから。
だから、あえて誰かと密にコミュニケーションを図るというのではなく、これまで同様、なるべく多くの選手たちと接する機会を作ろうと意識した。
実際、日本代表に選ばれている選手たちはみんな、自発的に話をする。そのため、自分から率先して話をするというよりも、いつも以上に周りを見て、1人ひとりがどういった取り組みをして、どういった準備をしているのかを見るようにした。それによってチームの雰囲気やチームの空気が変わる、もしくは作られていくことをより実感できるように思ったからだ。
6月15日に行なわれたエルサルバドル戦では、センターバックとしてスタメンで起用してもらった。個人的には、久々に日本代表のユニフォームを着て試合ができること、また3万7403人ものファン・サポーターの前でプレーができることに高揚感を抱きながら、ピッチに入場したのを覚えている。
そして──開始早々の1分、セットプレーから日本代表初ゴールを決められたことには、自分自身も驚いた。
得点シーンを振り返ると、FKの場面ではもちろん、ゴールを奪うつもりで相手ゴール前に入っていった。すると実際に、タケ(久保建英)からすばらしいボールがゴール前にきて、しっかりとヘディングで合わせることができた。
ゴールが決まったことがわかった時は、正直、こう思った。
「うわー、入ったー」
時間帯が試合開始早々だったこと、日本代表での初ゴールだったこと。初めて経験する状況だっただけに、どこか自分がゴールを決めたというよりも、他人事のようなリアクションと感情だったように思う。
僕自身が日本代表に招集されるようになってから、セットプレーで得点を取る機会自体が決して多くはなかっただけに、自分自身がセットプレーからゴールを決めることは、存在価値を示す意味でも、こだわっていたポイントのひとつだった。
日本代表といえば、かつては田中マルクス闘莉王さん、中澤佑二さん、そして(吉田)麻也さんらが、強さや高さを活かしてセットプレーからゴールを奪ってきた。自分はセンターバックとしては、闘莉王さんや中澤さんとはプレースタイルも異なり、身長的な高さもないけど、相手のマークを外してタイミングを合わせられる動きは、武器だと思っている。
エルサルバドル戦での日本代表初ゴールに満足することなく、セットプレーでは常に勝負し、自分自身もさらに得点を重ねていきたい。
エルサルバドル代表は侮ることのできない相手だったが、僕自身は相手以上に、自分がこの一戦でどれだけ存在価値を示すことができるか、また、日本代表にとって自分がどれだけ武器になれるかを、念頭に置いてピッチに立っていた。
◆第6回につづく>>
【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。