北米でのプレシーズンマッチで最終調整をした久保建英(レアル・ソシエダ)

 8月6日(日本時間)、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、北中米ツアーの最終戦となるベティス戦を行ない、1−0で勝利を収めている。

 久保建英(22歳)は、4−3−3の右サイドアタッカーで先発した。徐々に周りとリズムを合わせると、25分にモハメド・アリ・チョとのワンツーで抜け出し、決定機を作る。31分には相手と対峙したままでクロスを通し、32分のカウンターからシュート性のクロスは際どい軌道だったが、相手の必死のブロックにあった。面白いようにボールを集めると、切り込もうとしたところで、完全に遅れたタックルを浴びた。

 後半も、格の違いすら見せている。

 久保は厳しいマークを受けるが、ボールを奪われない。一進一退の攻防の中、68分だった。ブライス・メンデスの右CKをショートで受けると、少しだけボールを中へ動かし、注意を引きつける。下がったバックラインの前を横切るパスを入れると、フリーになった左サイドバック、アイエン・ムニョスがゴール正面から左足ダイレクトのミドルを叩き込んだ。

「日本人がアメリカの観客も魅了した」

 スペインの大手スポーツ紙『マルカ』がそう見出しを打つほどの活躍だった。

 もっとも、久保の能力は底知れない。現在は、戦い方をアジャストさせているところだ。エースであるダビド・シルバが膝前十字靭帯断裂で引退を余儀なくされ、久保と2トップを組む機会が多かったアレクサンダー・セルロートも退団した。選手の組み合わせを含め、序盤戦を戦いながら最適解を出すことになるだろう。ベティス戦では新加入の右サイドバック、マリ代表アマリ・トラオレの特徴をつかみながら、爆発的突破を引き出していた。

 2023−24シーズン、久保の適性ポジションはどこか?

 プレシーズンマッチ初戦となったスポルティング・リスボン戦、久保は4−3−3の右アタッカーだった。途中出場のレバークーゼン戦も同じ。一方、アトレティコ・マドリード戦は4−3−3のインサイドハーフだった。

【アトレティコ戦はインサイドハーフで起用】

 おそらく現状では右アタッカーがファーストオプションなのだろう。実際、スポルティング戦もベティス戦も、チームベストプレーの出来だった。カットインからの攻撃の迫力や多様性は捨てがたい。

 ただし、トップ下に近いインサイドハーフもひとつのオプションになってくるはずだ。実際、守備を固めたアトレティコを相手に、久保はうまく中盤でボールを引き出していた。39分には2人、3人と敵を外し、ボールを運ぶと、そこからのクロス、ボレー、突破からあわやハンドでPKという波状攻撃の起点になった。57分にも、自陣で背中を狙った相手を食いつかせてからのターンで、一気にカウンターで持ち込み、リターンが来ていたら決定機、という場面を作った。

 ベストポジションは、他の選手との組み合わせ次第でたどり着く形になる。

 ダビド・シルバが健在だったら、4−4−2中盤ダイヤモンド型のトップの一角がベストポジションだった。しかし、それは望めない。ダビド・シルバに代わるトップ下探しは苦労するだろう。クラブはマンチェスター・ユナイテッドのオランダ代表ドニー・ファン・デ・ベークに触手を伸ばし、ファンタジスタ獲得を諦めていないようだが。

 個人的には、久保をダビド・シルバの後継者に推したい。

 4−4−2の中盤ダイヤモンドで久保がトップ下という形は、十分に魅力的である。そもそも他の選手がラ・レアルのプレーにフィットするか、疑問である。創造性、機動力、コンビネーション力で最もダビド・シルバに近いのは、同じ左利きで昨シーズンは薫陶も受けた久保だろう。昨シーズン、ダビド・シルバ不在時にリーダーシップを発揮したのも、日本人アタッカーだったはずだ。

 たとえばトップ下の久保が、2トップのスペイン代表ミケル・オヤルサバル、ナイジェリア代表ウマル・サディク、もしくは新たにライプツィヒから獲得したポルトガル代表FWアンドレ・シルバを操る。中盤は昨年と同じく、スペイン代表ミケル・メリーノ、メンデス、マルティン・スビメンディ。他にフランス代表チョを筆頭に、アンデル・バレネチェア、ロベルト・ナバーロは有力なオプションだ。

 ただ、アンドレ・シルバはケガで開幕が間に合わず、他に新戦力補強にも動いているだけに、8月中のチーム状態は"フレックス"と言える。

 そんななか、久保がどのフォーメーションでも、どのポジションでもこなせるのは安心材料だろう。プレッシング、トランジション、カウンター、ポジション的優位性の意識、カバーリングなど、その戦術レベルは一気に成長した。適応力は今やセールスポイント。もともとセンスはあったが、「ボールありき」のサッカースタイルに身を浸し、ストレスなく実力を出せるようになった。

 久保はどのポジション、役割もやってのけるが、ゴール近くで複数の選手と絡むのが一番、相手に怖さを与えるだろう。最適解を出さないと、チャンピオンズリーグでグループリーグを勝ち抜き、上位へ駒を進めるのは難しい。ラ・レアルの今シーズンは、久保で左右される、といっても過言ではない。

 8月12日のラ・リーガ開幕戦。ラ・レアルは本拠地でのジローナ戦で長いシーズンの火ぶたを切る。