「鉄道ダメならバス」誰が運転するんだ!「バスがダメならタクシー」の幻想 乗務員不足もう限界
バスの乗務員不足による路線の廃止・減便などが顕在化していますが、タクシーはもっと深刻です。そうしたなかで、ローカル鉄道の廃止代替や、バスの代替が議論されています。国や自治体と現場の認識のズレも浮彫りになっています。
大規模イベントも災害も対応が難しく…「鉄道代替」だって?
先に、バスドライバーの不足が深刻化し、実際のバスの運行にも支障が出ていることをお伝えしました。
このままでは必要なバス運行の維持にも支障が出かねません。減便はもちろん事業者としてもしたくてするわけではなく、やむなく行う対策ですが、すでに限界とも言えるほど乗務員不足は逼迫しています。
鉄道、バス、タクシーのイメージ(乗りものニュース編集部/写真AC)。
路線バスを運行する事業者にとっては、国の許可を受けて運行する路線バスは確保しなければならず、そこには必要な乗務員を張り付けなければなりません。その結果、路線バス以外の事業に人材を回せなくて、収益を逃しているケースが少なからずあります。例えば、貸切バスの仕事が来ても、車両は空いているのに断ったり、他社に仕事を依頼したりといったケース、あるいはこれからのお盆を中心とした夏休み期間、高速バスの需要は旺盛で、台数を出せば確実に収入になるのに、続行便(2号車以降)を出せずに予約を断るケースも見られます。
そのような確実な需要や、地域で新たな計画や要請が存在しても、新しい事業はどこかを減らさないとできない状況にあるのです。大規模イベントの際の臨時輸送や災害時などの突発的な要請(避難輸送や鉄道代行など)に対しても輸送力提供が厳しくなっています。
ここ1〜2年、ローカル鉄道の将来像に関する議論が活発化しています。すでにいくつか鉄道を廃止してバスに転換することが決まった線区もあります。そうした議論の中で「鉄道がなくてもバスがあるから大丈夫」という認識を持たれている行政関係者などが少なからずいるようです。
しかし今のバス乗務員の状況からすると、これまでの運行を続けながら新たに鉄道代替バスの運行を追加できる事業者はそうそう出てこないと思われます。鉄道は距離も比較的長く、それを代替するには仮に現行の鉄道程度の便数で運行するとしても、相当数の乗務員を確保しなければなりません。また、ローカルと言っても鉄道が担う通学輸送をバスでさばくには、短時間に何台ものバスを出さなければならず、その分、乗務員が必要になります。
おそらく今後の鉄道代替は、区間ごとに小刻みに複数の事業者が分担する、あるいは1社が受けても一部を地域の事業者に委託するなどの方法をとらざるを得ないと考えられます。
「バスがダメならデマンドタクシー」が空論である理由
最近は現在受託しているコミュニティバスなどから撤退したいといった事業者から自治体への要請すら各地で出ています。すでに自社路線の確保が厳しい中で、赤字補填が基本のため収支の面ではプラスマイナスゼロにしかならないコミュニティバスに人を配置する余裕がなくなってきているのです。
国の地域公共交通活性化・再生法(地域交通法)の動きなどもあり、全国でこれまでコミュニティバスが担ってきた地域交通よりも、さらに小規模できめ細かなニーズを拾うような公共交通が求められており、その典型ともいえるデマンド交通の計画が一種のブームのように広がっています。利用者の予約に応じて運行する交通機関ですが、ここでも今度は「バスがダメならデマンドにすればよい」と安易に考えている関係者が多いのが気になるところです。
デマンド交通の運行に携わるのは多くはタクシー事業者です。実はバスだけでなく、タクシーはもっと厳しい状況にあります。山口市で行った調査でも、2023年4月現在、タクシー14社が所定のサービスを継続させるためには、79人も不足しています。さらに高齢化もバスより深刻で、ドライバーの平均年齢が60歳以上の事業者が多く、70歳代が主力という事業者も少なくありません。
大都市中心部のターミナル駅はタクシーも集まるが、郊外の駅は夜のタクシー台数も少なくなっている。写真はイメージ(写真AC)。
この結果、最近は認可上の営業区域とは関係なく、タクシーが常駐していない地域や迎えに行けない地域が増加したほか、営業時間にも制約が生じ、夜間は営業をしない事業者が増えています。大都市圏でも夜間の駅待ちが激減し、郊外の駅では5〜6年前までは22〜23時ごろに乗り場の他待機場にも10数台が並んでいたものでしたが、今は乗り場に1〜2台いても待機場は空っぽで、あとは実車で出たタクシーが戻ってくるのを待つしかないほど切迫した状況になっています。
大都市圏と地方のタクシー事業者の社長が図らずも同じことを言っていました。
「ドライバーがみんな高齢になってしまって、夜になると見えないと言うんですよ。見えないと言われたら乗せられないじゃないですか。だから実質、深夜営業はできないと同じなんです」
デマンド交通に多い「朝9時以降スタート」の意味
行政主導のコミュニティバスやデマンド交通は、一定の収入が常時確保できる「おいしい」一面はありつつも、本来の乗合バスや一般乗用の仕事を削ってまでできるものではありません。
デマンド交通は運行事業者との調整により朝9時以降のスタートというところが結構あります。これは、朝は一般のタクシー需要がそれなりにあるので、限られた乗務員を別の仕事には回せないということなのです。
地方では小中学校のスクールバスなどもタクシー事業者(あるいはバス事業者)に委託していますから、スクールバスの時間はデマンド交通やコミュニティバスに乗務員が回せないといった事情もあります。ですから「バスがダメならデマンドタクシー」などと言っても、タクシーの方も対応できない場合が多いのです。
人手が足りなくて必要な地域の足が確保できないとすれば、それはすでに一民間事業者の問題ではなく、地域全体の課題である――という認識のもと、山口市では4年前からバス・タクシー事業者と共同で「運転士体験会&就業説明会」を、筆者が副委員長を務める市の公共交通委員会主催で実施しています。
山口市「運転士体験会&就業説明会」2022年開催分のチラシ(画像:山口市)。
これで抜本的な効果がある(急速に採用が増える)というものではないにしろ、市民にも危機的な状況を知ってもらい、みんなの力で運転者を確保し公共交通を育てようというムードづくりのためには必要な動きと捉えています。少しずつ、Uターンして地元で働きたいといった動機の参加者も増えているようです。北海道など他の地域でも類似の動きが出ています。
自動運転やその先の無人運転で運転者が必要なくなるにはまだ10年以上を要すると考えられ、喫緊の運転者不足には間に合わない中、人の生活を支え、地域で働けるバス・タクシードライバーの誇りを広く伝える必要性を感じます。