フランス航空宇宙軍の「ラファール」戦闘機が初来日し、航空自衛隊と共同訓練を行います。もちろん狙いは、中国への牽制。今回の訓練は急に決まったことではなく、日本と関係値を深めるなかで実現しました。

初づくしな仏「ラファール」来日

 2023年7月26日(水)より、フランス航空宇宙軍(空軍)と航空自衛隊の共同訓練が始まります。フランスからダッソー「ラファール」戦闘機2機とA330MRTT空中給油・輸送機1機、A400M輸送機1機、人員約120名が、宮崎県に所在する航空自衛隊新田原基地に飛来する予定です。


ペガース2023でインド太平洋方面へ展開中のフランス航空宇宙軍「ラファール」戦闘機(画像:フランス航空宇宙軍)。

 今回のフランス航空宇宙軍の訪日は、フランス軍のインド太平洋方面への大規模展開「ペガース2023」(PEGASE 2023)における3つの主要な展開フェーズのうちのひとつとして行われます。同軍は7月24日から8月3日までインドネシアと韓国、日本を訪問し、カタールとジブチを経由して帰国する予定です。

 日本では29日(土)まで新田原基地に滞在。同基地およびその周辺空域と関東周辺空域で、航空自衛隊第5航空団のF-15戦闘機、第8航空団のF-2戦闘機、第1輸送航空隊KC-767空中給油・輸送機、第2輸送航空隊のC-2輸送機、中部と西部の両航空警戒管制団などと、各種戦術訓練を行う予定となっています。

 ダッソー「ラファール」は、アジアではセールスプロモーションを兼ねてマレーシアとインドネシアを訪問して、両国で開催された展示会に参加した事はあるものの、日本、さらに言えば東アジアを訪問して共同訓練を行うのは、今回が初。新田原基地で航空自衛隊かアメリカ軍以外の軍隊と共同訓練を行うのも、今回が初です。

 他方、ヨーロッパの空軍では、2016年10月にイギリス空軍、2022年9月にドイツ空軍が、それぞれユーロファイター(イギリス空軍の呼称はタイフーンFGR.4)戦闘機を訪日させて、航空自衛隊と共同訓練を行っています。ヨーロッパにおけるインド太平洋方面への関与の強化がうかがえるところです。

まだまだ虎の子? 「ラファール」とは?

「ラファール」はユーロファイターと同じ1980年代に、フランス、イギリス、西ドイツ(当時)が構想していた新戦闘機の共同開発計画「EFA(ヨーロッパ戦闘機)」から脱退したフランスが独自に開発した戦闘機です。

 ユーロファイターはF-15などと同様、能力向上改修にあたって大規模な機体の改修が必要となりますが、ラファールは大部分の能力向上にハードウェアの改修を必要とせず、ソフトウェアのアップデートだけで対応できるなど、一部の機能はユーロファイターよりも先進的です。

 また、ユーロファイターには核兵器の運用能力はありませんが、「ラファール」は核弾頭を搭載可能な空中発射型巡航ミサイル「ASMP」の運用能力を備えています。

 フランスはドイツ、スペインの両国との間で、「ラファール」とユーロファイターを後継する有人戦闘機「FCAS/SCAF」の開発計画を進めています。しかしフランスとドイツの思惑の違いなどから、開発計画は難航しつつあります。


フランスが開発を進めている「ラファールF4」(画像:ダッソー・アビエーション)。

 このためフランス軍事省は2018年から「ラファール」の最新仕様「F4」の開発を開始。F4仕様機の新規発注も計画しており、「ラファール」は当面長期に渡って、フランスにとって虎の子と言うべき兵器であり続けるものと思われます。

日仏の防衛協力は新ステージへ

 今回、日本のメディアでは、フランスが突然、虎の子「ラファール」を送り込んできたかのように報じられています。しかし実のところ「ラファール」の来日は、今から約3か月前の4月21日にフリゲート「プレリアル」へ座乗して横須賀に寄港した、フランス軍の太平洋管区統合司令官ジョフロワ・ダンディニエ海軍少将によって予告されていました。

 ポリネシアなどに海外領土を持つフランスは、力による海洋支配を試みている中国の姿勢に神経を尖らせており、軍事力を利用して中国を牽制しています。

 ダンディニエ海軍少将が座乗した「プレリアル」も横須賀寄港に先立ち、4月9日から10日にかけて、中国の人民解放軍が軍事演習を行っていた台湾海峡を航行。外務省の報道官も「(フランスは)台湾海峡の現状維持を支持」しており、「インド太平洋は開かれた地域であるべきだ」と述べています。

 フランスは単独でインド太平洋地域でのプレゼンスを発揮する一方で、地域の有力国家である日本と、防衛協力関係の強化にも務めています。


2022年11月にインドネシアのジャカルタで開催された防衛装備展示会「インドゥ・ディフェンス2022」に参加したフランス航空宇宙軍の「ラファール」(竹内 修撮影)。

 フランス海軍と海上自衛隊は2021年から共同訓練「オグリ・ヴェルニー」を開始しており、同国陸軍も2021年5月に多国間訓練「ARC21」へ参加して、日本国内で陸上自衛隊らと共同訓練を行っています。

 今回「ラファール」と航空宇宙軍が来日して、航空自衛隊と共同訓練を行う事で、日仏両国の防衛協力は、また一つ上のステップに進んだと言って差し支えないと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。