え、最後だったの!? 総火演では見納め89式装甲戦闘車のミサイル発射!現場では好評でも消えたワケ
2023年5月の総火演で見納めとなった装備のひとつに79式対舟艇対戦車誘導弾の射撃もあります。ただ、運用はまだしばらく続くとのこと。理由は89式装甲戦闘車に装備されているからのようですが、今後どうなるのでしょうか。
総火演最後となった重MATの実射
今年(2023年)5月27日に行われた「富士総合火力演習」。「総火演」の名称で広く知られるこのイベントで、今年が最後として注目を集めたのが、74式戦車の出演です。ただ、見納めだったのはこれだけではありませんでした。
実は、総火演における79式対舟艇対戦車誘導弾の射撃も今年が最後だったのです。
79式対舟艇対戦車誘導弾を発射する第11普通科連隊の89式装甲戦闘車。車内に予備弾を搭載できる(武若雅哉撮影)。
79式対舟艇対戦車誘導弾は、通称「重MAT」と呼ばれる国産の対戦車ミサイルです。川崎重工業において1964(昭和39)年から開発が進められ、1979(昭和54)年に制式化されると、全国の普通科部隊に広く配備されました。
弾体サイズや誘導方式など含め、アメリカ軍などを中心に世界各国で使われているTOW対戦車ミサイルと似ているところが多々あるものの、四方を海に囲まれている日本の防衛施策から、上陸用舟艇を始めとした中小船舶への攻撃も実施可能な点が異なり、その点で独自性が高いともいえるでしょう。
弾体は、対戦車用のものは「HEAT」と呼ばれる対戦車榴弾の弾頭を用いるのに対し、対舟艇用のものは「HEAS」と呼ばれる磁気信管を備えた榴弾を使用します。そのため、目標に応じて事前に弾頭を選択する必要があります。
ちなみに、三脚を用いた地上設置型の重MATは、先んじて運用を終えています。地上設置型重MAT最後の配備部隊であった第12対戦車中隊が、今年(2023年)3月15日をもって廃止されました。そのため、残る重MATは89式装甲戦闘車の車載型のみとなっており、同戦闘車を運用する富士教導団の普通科教導連隊と、第7師団隷下の第11普通科連隊の2個部隊だけとなります。
なお、筆者が聞いたところでは、陸自唯一の敵役部隊である評価支援隊で、地上設置型の重MATを車載化し、敵の自走対戦車ミサイル発射機に模して使っているそうですが、ここは教育訓練部隊であるため、今回は除外します。
では、なぜ重MATは旧式化し、退役することになったのでしょうか。
弾体の量産も終了済み?
実は重MAT自体は、扱いやすく優れた性能を持つ誘導弾として、隊員のあいだでは比較的好評だった模様です。弾頭の威力も大きかったことから、敵戦車に命中させられれば、大きなダメージを与えることができる装備として、一定の信頼を得ていました。
しかし、より長射程かつ多用途性に優れた高性能な対戦車ミサイルが登場したことで、それに更新される形で姿を消しました。それは、2011(平成23)年から部隊配備が始まった「中距離多目的誘導弾」です。
中距離多目的誘導弾は、射撃指揮に必要な車両を除くと、高機動車1両だけで完結し、なおかつ、発射後は誘導などせず、いわゆる撃ちっぱなしで良い(すぐに陣地変換に移れる)など、重MATの性能を大幅に凌ぐ高性能ぶりです。
しかも1秒間隔で最大6発を発射できることから、乗員の生存性向上だけでなく多目標への対処能力も有するなど、ある意味、ロシアによるウクライナ侵攻で一躍有名となった「ジャベリン」など目じゃない性能を持っていました。
実質的に79式対舟艇対戦車誘導弾の後継となった中距離多目的誘導弾(武若雅哉撮影)。
ただ、中距離多目的誘導弾は、重MATとは全く異なるミサイルのため、とうぜんながら重MATの発射機から射撃することはできません。このことは、重MATを搭載する89式装甲戦闘車に載せられないということを意味しています。
89式装甲戦闘車もそれ以外の部分で、古さが目立つようになってきているため、新型車両で更新できれば良いのですが、後継開発がどこまで進んでいるかは不明です。
これまでの自衛隊の動きを鑑みると、大金をかけて89式装甲戦闘車に中距離多目的誘導弾をフィッティングさせるようなことはせず、重MATの発射装置はそのままで退役まで使い倒すのが濃厚でしょう。
なお、すでに弾体の製造も終わっているといった噂もありますが、こちらについて真相は不明です。ただ、もしそれが本当なら、あとは各地の補給処などにある備蓄分で終わりということでしょう。だからこそ、重MATの射撃も今年で終わりとなったのかもしれません。
とはいえ、来年以降、重MATの射撃が見られないのは確かです。そのことが我が国の国防に影響を与えないよう、しっかりとした防衛力の強化・維持に務めてもらいたいと筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)は考えています。