UUUMが「過去最大の赤字」、創業10年で迎えた危機
上場来初の赤字に転落したUUUM。収益立て直しへ、人員削減や事業整理に着手する(撮影:尾形文繁)
創業から10年、国内最大のYouTuber事務所が危機にさらされている。
ヒカキンなどの人気YouTuberが所属するUUUMは7月14日、2023年5月期決算を発表した。売上高は230億円(前期比2.1%減)、営業損益は1.9億円の赤字(前期は9.7億円の黒字)と、2017年の上場以来初の営業赤字に転落した。最終損益も、投資有価証券の評価損を計上したことで10.5億円の大赤字に沈んだ。
所属YouTuberのショート動画以外の通常の動画で再生数が伸び悩み、アドセンス(YouTube広告)収入が落ち込んだほか、急拡大するインフルエンサーマーケティングへの乗り遅れやスマホゲームの開発期間が延びたことが減収減益の要因となった。
さらに売上原価にP2Cブランド(YouTuberらを起点としたブランド商品)の棚卸資産評価損を7億円弱計上しており、これも営業損益に響いた。コロナ禍で見通しが不透明な中、欠品を防ぐために強気の仕入れを行った影響という。
UUUMを襲った「ショートショック」
「YouTubeショートショック」――。今回の赤字決算をめぐり、ネット上などではそんな言葉が飛び交った。
UUUMは2023年に入って以降、4月と7月の2回にわたって業績予想を下方修正していた。その際、いずれも「YouTubeショートの再生回数増加に伴い、通常の動画の再生回数が想定を下回った」ことを要因の1つに上げた。
YouTubeショートとは、最大60秒の縦型動画のことで、日本では2021年からYouTube上でサービスが開始されている。Google合同会社でYouTubeクリエイターエコシステムパートナーシップ統括部長を務めるイネス・チャ氏によれば、「(ショートは)Z世代の若者を中心に多く利用され、通常の動画への誘導に使われている」という。
ショート動画人気の火付け役となったのは、中国のバイトダンスが運営するTikTok(ティックトック)だ。今ではYouTubeにおいても人気コンテンツとなり、再生数の多くをショートが占めるようになってきている。実際、UUUMでも直近の3月から5月にかけては、ショートの再生数が通常の動画の再生数を上回る水準にまで増加した。
ショートの急速な拡大を受けて、YouTubeは2023年2月からショートへの収益分配も開始した。これまで広告収益の対象となっていた通常の動画だけでなく、ショートからも収益を得られるようにしたのだ。
しかしUUUMにとって、ショートからの収益が入ったところで通常の動画の急速な落ち込みをカバーするには至らなかった。
とある業界関係者によれば「ショートから得られる広告収益は通常の動画と比べると微々たるもの。1億回の再生数に対して100万円程度(1再生あたり0.01円)なので、採算はとりづらい」と明かす。「通常の動画の1再生当たりの単価は0.3〜2円程度」(同関係者)であることから、ショートはかなり多くの人に見られない限りお金にならないようだ。
「ショートではアルゴリズムの関係で、チャンネル登録者数に関係なく動画が再生されるため、新規のYouTuberは認知されやすくても、人気YouTuberほど恩恵が小さい」。UUUM関係者はそう漏らす。人気YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては、不利な状況ともいえる。
広告収入依存からの脱却を目指したが…
UUUMを襲った「ショートショック」の大きさは、同社がいまだアドセンス依存のビジネスモデルから抜け出せていない現実を如実に示している。
UUUMは2021年末ころからアドセンス収入の伸び悩みに直面し、一部のトップクリエイター頼みの構造になっていたことから、アドセンス依存の脱却を掲げて専属クリエイターの数を大幅に減らしてきた。2021年5月末時点で313組だった専属クリエイターは、2023年5月末時点では181組にまで減少している。
その代わりに、新たな収益柱として育成を目指したのがP2Cブランドやグッズ販売だ。契約解消となった専属クリエイターについても、ブランド商品の展開がうまくいくか否かを基準に選別したとみる関係者が多い。
例えば、同社専属のYouTuberである竹脇まりな氏と共同で展開するブランド「MARINESS」では、プロテインが大ヒットとなり、業績にも寄与している。4月にはヒカキンによる初のブランド「HIKAKIN PREMIUM(ヒカキン プレミアム)」を始動させ、カップラーメンの「みそきん」は発売後すぐに売り切れとなるなど、大きな話題を呼んだ。
こうしたP2Cブランドなどの積極展開を進めるものの、2023年5月期の売上高ではアドセンスが約4割と、依然として大きな割合を占めている。拡大するインフルエンサーマーケティングへの対応の遅れや、P2Cでも前述の通り在庫コントロールの難しさから評価損を出すなど、思うように事業を伸ばせていないのが現状だ。
構造改革で15〜20%の人員を削減
UUUMは過去最大の赤字を計上したことを踏まえて、大規模な構造改革を実施すると発表した。
柱の1つが人員削減だ。今2024年5月期中に、契約社員も含めて全体の15〜20%程度の人員を削減するという。
UUUMの従業員数は、2023年5月末時点で677人(臨時雇用を含む)。専属クリエイターを大幅に減らした一方、業界内では「本部社員が多すぎる」との声も上がっていただけに、業績低迷が続く中ではやむを得ない決断だろう。
会社側は人員削減の対象者数や詳細なスキームを明らかにしていないが、取材に対し「生産性の高い事業への人員配置を行うことで、人的資源の最適化を進める」と回答している。
不採算事業の整理にも着手する。収益改善の難しい自社運営チャンネルや一部のP2Cブランド、さらにはライブ配信事業からも撤退する。ライブ配信事業は2022年に「LIVE Network by UUUM」というライブ配信者向けの事務所を設立するなど、事業を本格化させたばかり。「事業の撤退に合わせ、今後の運営については社内で検討する」(UUUM IR担当者)という。異例の早期撤退には同社の焦りもうかがえる。
今回の決算について、「過去最大の赤字は、過去最高益のために」と弁明したUUUM。数々のリストラ策によって一時的な収益改善効果は期待できるものの、過去最高益に向けた突破口はいまだ見えないままだ。
(郄岡 健太 : 東洋経済 記者)