■出生数は減り続けているのに、将来推計人口が増えたナゾ

先ごろ、国立社会保障・人口問題研究所(以下、「社人研」という)による2023年の将来推計人口結果が発表されました。50年後の2070年には、日本の総人口が約8700万人になるなどと報道の中心は日本の人口減少についてが主で、その論調も、人口減少の危機を煽(あお)るものが多く見られました。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ASKA

ですが、実は、前回6年前となる2017年の推計時点での数字とほぼ大差はありません。それどころか、前回推計された2070年の総人口(約8320万人)より、今回のほうが若干増えました(いずれも中位推計による)。

これは決してこれから出生数が伸びるからではありません。むしろ、出生数推計は前回からさらに下方修正されています。それは間違ってはおらず、人口動態推計の特に出生数の予測はもっとも精度が高いものになります。なぜなら、出産対象年齢の人口に応じて出生数は確定するからです。

出生数推計は減っているのに、将来推計人口は前回予測よりも増えている。これは一体何を意味するのでしょうか。

■「少子化対策は無理」という本音が透けて見える

日本においては、1990年代後半に第3次ベビーブームが起きなかった時点で、現在の出産対象年齢の女性の絶対人口そのものが減っています。私はこれを「少母化」といっており、政府がどれだけ少子化対策などを講じたとしても今後出生数は増えません。

これは確定された現実で、岸田文雄首相のいう「少子化トレンドを好転させる」なんてことは物理的に不可能なことです(〈政府の対策は「ひとりで5人産め」というようなもの…人口減少の本質は少子化ではなく「少母化」である〉参照)。それも、2020年代の今になってはじめてわかったことではなく、25年前にはすでに予見されていた未来であり、少なくとも官僚や政治家という立場にある人たちが知らないはずがないのです。

では、出生数が増えないのは確実であるにもかかわらず、社人研の総人口推計が6年前より若干増えているのはどういう計算によるものでしょう?

これは、外国人人口の増加を見込んでいるからです。つまり、出生や死亡に伴う人口の自然減はいかんともしがたいが、外国からの移民などによる社会増は制度や政策次第でなんとかなりそうだと踏んだ結果なのでしょう。

つまり、政府は人口の維持を外国人の移民に頼るという方向に完全に舵を切ったことになります。それは同時に、日本人の少子化対策は表面上「喫緊の課題」「最重要課題」などといいながら、本音では無理であると観念したからなのでしょう。

■出生数は激減し、死亡者数は激増している

さて、昨今は「異次元の少子化対策」という今年の流行語大賞になりそうな言葉に反応して、出生率や総人口のことばかりが話題になっていますが、それと同等に今後の日本において重要な指標についてはあまり注目されません。

今月冒頭に、厚労省から2022年の人口動態調査の年間概数値が発表されています(概数なので確定値ではありません)。そこでも出生数が77万台に落ち込んだことばかり注目されましたが、実はもっと深刻な数字があります。

2022年の年間死亡者数が156万8961人と150万人を突破したのです。

これは、統計の残らない太平洋戦争中の1944〜1946年を別とすれば、明治維新以降の統計の中で最高記録となります。今までの最高記録はスペイン風邪の流行などによって149万人が死亡した1918年でした。実に、100年以上ぶりに死亡者数の記録が塗り替えられたわけですが、ほとんどのニュースで取り上げられていません。

勘違いしないでいただきたいのは、2022年に死亡者が増えたのはコロナによるものではありません。死亡原因で増えているのは老衰です。

■「少死50年時代」から「多死50年時代」へ

世界一の長寿国家の日本とはいえ、人間は不老不死ではありません。必ずどこかで死を迎えます。むしろ、日本は1950年代から2000年にかけての50年間、世界でもまれに見る「少死国家」でした。日本の高齢化率が他国をごぼう抜きにして世界一になったのもこの期間中です。高齢者が、死なずに長生きしたからこそ、この超高齢国家となったわけです。

しかし、そうした長寿も永遠ではありません。今後、年間死亡者数が150万〜160万人以上続く時代が50年以上続きます。「少死50年時代」から「多死50年時代」になるのです。

ちなみに、社人研の前回2017年4月での死亡中位推計では、死亡者が年間150万人を超えるのは2024年となっていましたが、実際はそれよりも2年早く到達したことになります。2022年は、「日本の多死時代元年」となります。

以下の、明治時代から令和にかけての出生数と死亡数の長期推移のグラフをご覧いただければ一目瞭然ですが、2000年代中盤までは出生数が死亡数を上回る状況が長らく続き、これが明治以降の日本の人口増加を実現させてきました。

■人口減少は少子化ではなく、高齢者の多死化で進む

しかし、2007年以降は連続で死亡数が出生数を上回りました。2022年は、死亡数が過去最高記録ならば、出生数も過去最低となり、ふたつの指標の差分である自然減がもっとも多くなった年です。

社人研の推計では2120年までしか出ていませんが、この傾向は2200年頃まで続くでしょう。多少の出生数が増加したところで、それを逆転することはできません。つまり、今後200年近く日本人の減少は止まらないということになります。人口減少とは少子化によって起きるのではなく、今後はこの多死化によって起きるものなのです。

人口転換メカニズムというものがあります。これは、「多産多死」の状態から、医療などの発達によって乳幼児の死亡が減ることで「多産少死」の時代になり、さらに、乳幼児が死なない事で多産する必要性を軽減し、「少産少死」の時代に移行します。

写真=iStock.com/olesiabilkei
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そして、「少産少死」の時代によって高齢化が起き、その後には、増加した高齢者群が順番に寿命を迎えることによる「少産多死」時代が必ず到来します。最初の「多産多死」時代は、主に乳幼児の死亡が多いのですが、最後の「少産多死」時代はほぼ9割以上が高齢者の死亡となります。

■日本各地の人口動態は世界の縮図

これは日本に限った話ではありません。国連の人口統計(World Population Prospects 2022)によれば、世界のほとんどすべての国と地域が同じ推移を辿ります。1950年時点では、アフリカ諸国などの途上国はまだ「多産多死」ステージにいましたが、2015年時点では、多くの国が出生率が下がるとともに死亡率も下がる「少産少死」に移行しています。

そして、2100年推計では、出生率は低いまま、死亡率だけがあがるという「少産多死」ステージになっていきます。日本はすでに世界に先駆けてそのステージに突入しているのです。

同じ傾向は、日本国内においても相対的に見られます。都道府県別での長期推移をみれば、戦後まもなくの1947年はまだ日本も乳幼児死亡率が高く、子どもの死亡が多い、いわば「多産多死」ステージにありました。第2次ベビーブーム直後の1975年が、日本ではもっとも死亡率が低かった時代です。死亡率は人口比ですから、この時期が対人口当たりの死亡がもっとも少なかったということです。

そして、2022年には全都道府県が揃(そろ)って出生率が下がり、死亡率があがるという「少産多死」へ移行しました(図表2:出生率・死亡率ともに単位は人口千対)。

■短期的に移民を導入しても人口減少は止まらない

注目すべきは、双方の分布の仕方の共通経年変化です。世界も日本も、「多産多死」「少産少死」期においては、国や地域によって死亡率も出生率もバラけていましたが、「少産多死」期(青色)においては、出生率のバラつきはほとんどなく、高齢比率の高い地域から順番に多死化が進行していくということです。

国別にみれば、日本などがいち早く「多死国家」となっていますが、やがて人口の多い中国もそうなるでしょう。国内の都道府県別に見れば、高齢化率の高い秋田や青森などの地方から「多死化」が始まります。

全世界がこの「少産多死」ステージに必ず到達するわけですから、短期的に移民を導入したとしても、結局将来的にはすべての国が人口減少になるわけです。

■今後は孤独死、介護、空き家問題が急増する

加えて、「多死化」は同時に「ソロ社会化」を生みます。2020年の国勢調査時点で、日本の単身世帯は約2100万世帯を超えて、全世帯のほぼ4割近くになっています。単身世帯というと若い独身男女が多いというイメージを持つかもしれませんが、実際は単身世帯のうちの32%、約670万世帯が65歳以上の高齢ソロ世帯です。2040年には、単身世帯の45%、約900万人が高齢ソロ世帯となる見込みです。

あわせて、高齢ソロ世帯予備群でもある「高齢の夫婦のみ世帯」も増えています。こちらも2020年で約670万世帯です。夫婦のどちらか一方がやがて死亡した段階で、これらがすべて高齢ソロ世帯と差し替わります。こうした高齢ソロ社会化は、孤独死や介護の問題、さらには空き家増加の問題をも内包しています。

述べてきた通り、今後50年間は、多死化とソロ社会化が訪れるのは間違いないわけで、それは小手先の少子化対策でお茶を濁しても何も解決されません。今後50年間の不可避な人口動態をふまえ、人口減少する前提、高齢者比率が高まる前提での抜本的な国の運営の在り方が議論されることを望みます。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)