4気筒のCB750フォアを横目に
大人は英国流バーチカルツインのこだわり

1970年、ヤマハは初の4ストロークエンジンを搭載した650ccのXS-1をデビューさせた。
ほぼ1年間にホンダが量産車で初の4気筒、CB750フォアで世界中の注目を浴びた後だけに、センセーショナルな登場とはならなかったが、そもそもヤマハは大型バイクをマジョリティとして考えてなかったのだ。

この初の4ストに選んだエンジン形式はバーチカル(直立)ツイン。
世界の大型スポーツはトライアンフを頂点とした英国勢がリードしていて、ヤマハはここへの参入を目論んでいた。

大型バイクは性能が優れているのはもちろんだが、大人が嗜むスポーツバイクとして、優雅さなど余裕あるライフスタイルを漂わせていなければならない。
そんなフィロソフィを初の大型バイク、初の4ストエンジンへ込めたのだった。

75×54mmの653ccバーチカルツインは、SOHCの360°クランク。
そのため振動を抑えるラバーマウントされていたが、メインスタンドを立てたまま空吹かしをすると、バイブレーションで車体が震えながら前進していった。

しかも始動はセルモーターを搭載しないキック方式のみ。
英国流儀に倣いスポーツバイクはスパルタン、という凛とした空気感を漂わせていた。

いまでも通用する個性と美しさのスリムなオリジナリティ

そして徹底してこだわったのがそのデザイン。
大型バイクといえど、2ストロークで華麗なスーパースポーツとして世界へクオリティの評価を得てきたヤマハとしては、英国車を凌駕するエレガントさ、美しさを必然と掲げていたのだ。

その極めつけが燃料タンク。上から見ると単気筒エンジンではないかと見紛う細さ。
トライアンフでヒット作のボンネビルなど、前方が膨らんだティアドロップ型が流行りではあったのを、あくまでオリジナリティを強調する意固地さに包まれていた。

とはいえ、その見る者を驚かせる燃料タンクを含め、エンジン外観からすべてのパーツに至るまで、大人が嗜む大型スポーツを意識したつくりは、いま見ても全く旧さを感じさせない華麗さと美しさに溢れている。
こんなデザインのバイク、いまデビューしたら大人気は間違いない。

初のアメリカンで花開いたロングラン・エンジン

ただ世界は続くカワサキZ1、スズキのGS750/1000で、4気筒がメインストリームとなり、英国勢は撤退を余儀なくなれるまで衰退。
同じ路線を目指していたヤマハのバーチカルツインは、その存在をアピールするに至らないままが過ぎていった。

XS-1は翌年にそうはいっても便利なセルモーターを備えたXS650となり、後にやや前傾したやはりビッグツインのTX750にデザインを統一したTX650へと継続していたが、後にこのエンジンは大化けしたのだ。

それが1978年に登場したXS650Special。いわゆるチョッパー・スタイルを量産車としてメーカーが発売した最初のバイクだ。
このゆったりとリラックスして乗るスタイルが大流行、日本のライバルメーカーたちもこぞって和製アメリカンを投入してきたが、オリジナリティとしての強みでヤマハの独り勝ちだった。

こうして1985年以降まで、この初のバーチカルツインは生産が続けられ、同社を代表するロングラン・エンジンとなったのだ。
いま国産メーカーは、ネオクラシック路線など懐古趣味を採り入れたNewモデルをラインナップしているが、自国の歴史にそのまま復活させても良さそうな素材が数多く存在している。
そんな1台、ヤマハ650ツインを眺めているとそう思わずにいられない。

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