日本代表の座を脅かすU−20世代の台頭はあるか FC東京・松木玖生と俵積田晃太への期待と課題
エルサルバドルを相手に6−0と大勝を収めた森保ジャパン。22歳の久保建英を筆頭に、三笘薫、上田綺世、堂安律、旗手怜央など東京五輪世代と言われる選手たちが先発し、著しい台頭を見せた。彼らはすでにヨーロッパで実績を上げており、ひとりひとりがピッチで戦況を動かし、その成熟度と野心は新時代到来を感じさせるほどだ。
しかし若い彼らですら、下からの突き上げを受けるのがプロサッカー界の習わしである。
5月、アルゼンチンで行なわれたU−20W杯で、日本はグループリーグで敗退している。結果だけで言えば、期待外れだった。しかし、そのピッチに立った選手には現地で得た経験があるはずだし、立てなかった選手にとっては雌伏の時だろう。
はたしてこの世代の選手たちは日本サッカーを底上げし、代表選手のライバルとなれるのか?
1対1で非凡な才能を見せる19歳のアタッカー俵積田晃太(FC東京)
6月18日、京都でルヴァンカップのグループリーグ最終節、京都サンガ対FC東京が行なわれた。試合は敵地に乗り込んだFC東京が1−3と勝利を飾り、プライムステージへ勝ち進んだ。
FC東京の中心的存在だったのが、U−20W杯でも「日本のエース」と言われた松木玖生だった。
松木はプロ2年目、すでに試合経験を重ね、ルーキー離れした力強いプレーを見せる。下半身が強く、サッカーをするために鍛え上げているのだろう。たとえばセットプレーのキックからも、練習の質と量が伝わってきた。
前半7分、左CKで左足の精度の高いボールをエンリケ・トレヴィザンに合わせると、相手を脅かして右CKとする。松木は再び左足で速く落ちる軌道のボールを森重真人の頭に合わせ、先制点をアシスト。ひとり小さくジャンプし、左拳を作った。
そして26分にも、松木はドリブルで縦に切り込み、エリア内へ折り返すと、これを仲川輝人が決めた。
「どちらもいいアシストでした。2点目は相手も揺さぶられて足が止まっていたので(ドリブルで入って)、いい形で(仲川)輝人さんが見えた。ただ、今日はシュートを打っていない。シュートを打てるボランチになりたいので......」
【一瞬で相手をかわすドリブル】
松木は少しも浮かれず、むしろ戒めるように語っている。その後も、長友佑都が失ったボールを回収して攻撃につなげたり、球際で局面を制したり、終始、戦闘姿勢をとっていた。その逞しさがセールスポイントと言える。彼はそれにより1年目からレギュラーを取っているわけで、その点は規格外だ。
しかし、ボランチは「周りを輝かせる」のが本分である。難しいプレーを簡単にし、次へ促す。味方にアドバンテージを与え、敵のアドバンテージを取り除く。これにはセンスと技術の総量が求められる。高いコントロール技術で迅速にパスをつけ、攻め手を切りながら味方をサポートし、予測、準備で上回っているか。怒涛の攻め上がりやインターセプト数はエクストラだろう。
たとえばリターンのボールを受けてからのスルーパスがズレて流れたシーンなどは、狙いすぎだった。また、背後(バックラインとボランチの間)に危険なパスを入れられる場面は3度、4度とあった。欧州のトップリーグだったら、致命傷になっていた。
繰り返すが、20歳の選手のプレーとしては破格なのだが、果たしてこのままで代表のボランチの座を脅かせるだろうか。
この試合で異彩を放っていたのが、後半途中から入ったFC東京の19歳のアタッカー、俵積田晃太である。U−20W杯メンバーからは外れたが、1対1になった時のポテンシャルは折り紙つきだ。「ネクスト三笘」「第二の三笘」「三笘の再来」......メディアが美辞麗句で飾るのはいきすぎだが、無理もない。
後半30分、左サイドで相手ディフェンスと対峙すると、ボールを動かしながら、一瞬で中に切り込んでマークを外す。そして動き出すFWやスペースを視界に捉えながら、完璧なコースとタイミングのスルーパスを送っている。このゲームで最もスペクタクルなシーンだったが、ブラジル人FWペロッチはこれを決められない。
アディショナルタイムにも、俵積田は1対1から颯爽と切り込んでいる。相手の逆を取る間合いは白眉で、難しいことを簡単にやってのけた。折り返したボールは味方に合わなかったが、トップスピードで高い技術を使えるのは特大の才能だろう。
その後も一度は相手にパスカットされたボールを奪い返し、体勢を崩しながら味方に落とすなど、攻撃は非凡さを感じさせた。
ただし、俵積田には成熟する時間が必要だろう。守備ひとつとっても、ボールを後ろから追うだけで、しばしば持ち場を明け渡していた。プレーの連続性も課題だ。
「入団当初の乾貴士は、どこにいるべきか、守備とは何かをわかっていなかった。それをホセ・ルイス・メンディリバル監督が辛抱強く落とし込み、大成させた。それだけの価値があるほど、その技術は貴重だったわけだが」
エイバル時代の乾が日本代表でも活躍するようになった理由を、現地メディアはそう説明していた。日本人アタッカーは技量に優れているが、世界トップで活躍するには守備やプレーの連続性が欠かせない。久保がスペインでブレイクスルーしたのも、そこをクリアできたことが大きいのだ。
そう考えれば、俵積田は飛躍への道筋が見えてくるだろう。
この日、メンバー外だったFC東京の熊田直紀も、スケールの大きさを感じさせるストライカーである。野生的、本能的で、元日本代表FW久保竜彦に近い。U−20W杯ではプロとしての試合経験の少なさを感じさせただけに、どのカテゴリーにせよ、ピッチに立つべきだ。
FC東京以外でも、山根陸(横浜F・マリノス)、中野伸哉(サガン鳥栖)の二人はセンスが傑出している。福井太智(バイエルン)のように、すでに海外でプレーしている例もある。また、1年後には急成長する選手も出てくるだろう。
彼らの若い輝きが森保ジャパンも照らすのだ。