阪神・佐藤輝明は「全然ダメ」なスイング 松永浩美が評価するのは、あの高卒4年目の左打者「進化していきそう」
松永浩美が気になる若手バッター
セ・リーグ編
かつて"史上最高のスイッチヒッター"と称され、長らく阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)の主力として活躍した松永浩美氏。現在は卓越したバッティング理論を活かし、九州を拠点としながら、子どもたちへの野球指導やYouTubeチャンネルなど活躍の場を広げている。そんな松永氏が気になっているという、セ・リーグの若手選手たちのバッティングを分析してもらった。
不調でスタメンを外れることもある阪神の佐藤輝明
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――今、セ・リーグで気になる若手バッターは?
松永浩美(以下:松永) 悪い意味で一番気になっているのは阪神の佐藤輝明です。まず、トップの位置を作るのが遅いので、ボール見る"間"がない。投手の手を離れたボールはコンマ何秒で手元にきますから、トップを作るのが遅いと間に合いません。
あと、(投手側の)右足を上げた時、股関節の部分にユニフォームのシワができていないことも気になります。右足を上げて股関節をグッと絞ると、軸足の左足に体重がしっかり乗って、ユニフォームの股関節の部分にしっかりとしたシワができるはずなんです。
今の佐藤は体を少し後方に傾かせているだけで、股関節を絞った時にできるシワがないんですよ。「よっこらせ」という感じで右足を上げていて股関節を絞っていないので、軸足に体重が乗っていない。体とバットの関係性が理解できていないことがわかりますし、最大の課題はそこだと思います。
――股関節を絞る、とは具体的にどういったことでしょうか?
松永 股関節を絞るということは、左の軸足にしっかりと体重が乗って、バットを振り出すための下半身の準備ができているということ。逆に言えば、佐藤は下半身の準備ができてないうちに、上半身だけで打ちにいっています。下半身が動くのと連動して上半身がついていく、という動きができていません。
――軸足の使い方が最大の課題?
松永 そうですね。佐藤の場合はバッティングフォームというより、軸足の使い方が全然ダメです。いい例として、同じ左バッターのソフトバンクの柳田悠岐を挙げますが、柳田は右足を上げた時に股関節をグッと絞っていて、なおかつ、右の腰と左の腰の高さが同じになっています。
一方の佐藤は、右足を上げた時に右の腰が少し上がってしまっているのですが、これは軸足の左足全体ではなく左足の"膝"に体重が乗っている証拠。つまり、上半身が浮いた感じになってしまっています。たぶん本人は、右足を上げてテイクバックをとる時に、体の中心が絞られている感覚がないと思いますよ。
体の中心に力が集まらずに散っていってしまっているため、腹筋にも背筋にも力が入らない。その状態で打とうとしても難しいから腕を振るしかないんでしょうし、グリップの位置も高くないといけないんでしょうね。下半身と上半身を連動させた打ち方に改善していかないと、今後も苦しむと思います。せっかくいいものを持っているだけに、見ていて歯がゆいです。
――すぐに改善できるものなのでしょうか?
松永 私は自分の野球塾でよく子どもたちに、「頭でイメージしていることと、首から下の体の動きは別ものだよ」と言うんです。佐藤はその典型的な例。もしかしたら、本人は軸足に体重を乗せているつもりなのかもしれませんが、傍から見ればまったくできていません。相当に意識して練習をしていかないと、改善するのは難しいでしょうね。
――同じ阪神のドラフト1位ルーキー・森下 翔太選手も、今季2度目の出場登録選手抹消(6月9日)となるなど苦しんでいますが、どう見ていますか?
松永 トップを作るのが早く、その位置も悪くないです。だからボールを長く見られるでしょうし、タイミングの取り方もいいですね。遠心力もうまく使えているほうだと思います。ただ、トップの位置から振り出す時に、脇が開いて腕が伸びてしまっているので、アウトコースは対応できても、インコースをさばくのはきつそうに見えます。
あと、バットは向かってくるボールの内側に入れることが理想ですが、今の打ち方だとボールの外側を打つ感じになっている。そうなると引っ張ることはできても、流すことはできません。打率.167と苦しんでいますが、打率を上げていくためには、いかにセンターから右方向に打っていけるかがポイントです。
――先ほど軸足の使い方のお話がありましたが、セ・リーグの若手バッターで軸足の使い方がうまい選手を挙げるとすれば?
松永 中日の岡林勇希などは、体重を軸足にうまく乗せています。ちょっとオープンスタンス気味で始動するので、タイミングをとるのは遅れるかもしれませんが、それがクリアできたら打てる感じがしますし、理にかなったスイングをしています。この先、いろいろな形で進化していきそうですね。
ただ、余分な動きがあるな......という部分もありますね。
――それはどういった点でしょうか?
松永 投手側の右足を上げた時に、"下半身の打つ準備"ができていない。右足を上げたままクッと腰を捻るような動作が入るのですが、その動作の時にやっと準備が完了する感じです。ソフトバンクの中村晃もそんな感じですね。その部分がスムーズになると、タイミングをとるための時間を長くとれますし、今よりも余裕が出てくるのかなと。
野球は重たいバットを振るスポーツなので、上半身の力だけでどうにかできるものではなく、下半身の形をしっかり作らないといけない。あと、バッティングフォームがシンプルになれば、フォームのことをあれこれ考えずに済みますし、頭のなかで他のことを考えることもできます。
岡林の場合は、クッと腰を捻るような動作がなんとなくひとつのリズムになっているのかもしれませんが、突き詰めていくのであれば極力シンプルにしていったほうがいいと思います。
(パ・リーグ編:「絶対に使っていくべき」と猛プッシュするパ・リーグの若手バッター2人 「腕と腰」の使い方を絶賛した>>)
【プロフィール】
松永浩美(まつなが・ひろみ)
1960年9月27日生まれ、福岡県出身。高校2年時に中退し、1978年に練習生として阪急に入団。1981年に1軍初出場を果たすと、俊足のスイッチヒッターとして活躍した。その後、FA制度の導入を提案し、阪神時代の1993年に自ら日本球界初のFA移籍第1号となってダイエーに移籍。1997年に退団するまで、現役生活で盗塁王1回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回などさまざまなタイトルを手にした。メジャーリーグへの挑戦を経て1998年に現役引退。引退後は、小中学生を中心とした野球塾を設立し、BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスでもコーチを務めた。2019年にはYouTubeチャンネルも開設するなど活躍の場を広げている。