サッカー日本代表で注目される選手と戦い方…旗手怜央の偽サイドバック、鎌田大地はボランチか
サッカー日本代表 6月シリーズプレビュー対談 中編
前編「代表とJリーグのつながりがないのは危険」>>
後編「ビルドアップやゴールの取り方など現状の課題」>>
サッカー日本代表のエルサルバドル戦(6月15日)、ペルー戦(6月20日)の見どころをライターの西部謙司氏と中山淳氏の対談でお届けする。ここでは注目の選手と戦い方について。DFラインは、中盤の構成は、どうなるだろうか。
鎌田大地は今回どのポジションでプレーするだろうか
――今回招集されたなかで、期待の選手をそれぞれ挙げてください。
西部 旗手怜央。偽サイドバックとしてですね。もう1人挙げるんだったら、上田綺世です。
――上田は得点力ということですか?
西部 そうですね。三笘薫と伊東純也のプレーを得点に変えられる人ということです。古橋亨梧でもいいと思いますけど。
――前回の3月シリーズの偽サイドバックは、あまり機能していなかった感じがしますが。
西部 もちろんそうですね。付け焼き刃だからしょうがないところはありますが、偽サイドバックというのは、サイドバックにボランチの仕事をさせるということだから、ミッドフィルダーとサイドバックの両方の資質を持っていなきゃいけない。
前回はそういう選手を選んでいなくて、今回も選んでいないんですが、メンバーを見ると「旗手がいるじゃん」と。あとできそうなのは守田英正ですけど、そこで使うかどうかわからないし、そこまでビルドアップを言うほど重視はしてないだろうという気はします。
ただ、重視はしてないとはいえ、やらないと今の代表のやり方だと回らない部分がある。そうすると旗手がサイドバックという形がポイントになると思います。
ビルドアップのやり方は偽サイドバックだけではないですが、三笘と伊東に両翼を張らせて、そこでドリブルさせたいと思ったら、彼らを中に入れてはいけない。そうするとサイドバックを中に入れなきゃいけない。必然的に偽サイドバックになる。
中山 新しい選手じゃなくて言えば、鎌田大地ですかね。前回中盤の低いところでプレーして、カタールW杯のあとからのチーム作りで「ボールを握る」みたいな目標を掲げていると。まあ、カタールW杯の前も予選の段階はボールを握るサッカーをやっていたんすけどね。
だけどまたそこになぜか戻っちゃって、そういうことを言い始めているのであれば、中盤で守備的な選手をたくさん置くのではなく、ゲームを作る選手を置いてどういう変化をするのか。
ボールを握る主体性があるサッカーの礎にするのであれば、鎌田が前回はあまり機能しなかったので、ここでもう1回同じポジションでやって、今度は輝くように期待したいというのが一つ。
そしてもう一つ期待をするならば、久保建英ですね。やはり今後の日本サッカーの人気を担わなきゃいけない存在で、今年はレアル・ソシエダに行って得点をそれなりの数字で残してきてるので。でも、代表だとなかなか結果がまだ出ていないと。前回の3月も体調が悪かったですしね。
ファンが一番期待しているのって、今回は三笘と久保の2人だと思うんですよ。だからこの2人がちゃんと活躍することが、代表人気の数字的なものを維持するためにも必要ですし、これから先を考えた上でも、久保には期待したいところがありますね。
あと、今回のディフェンダーの人数を見てみると、3枚でやろうとしてる気がしないですか?
【ディフェンスラインは3枚?4枚?】西部 3バックないし5バックは、今の段階でやる必要はないと思います。というのは、それをやると、三笘と伊東という両サイドの武器をウイングバックに下げるということになってしまうので、あまり生産的ではないだろうと。
中山 そうすると、2試合ともディフェンダー4枚でやったら、同じようなメンバーになっちゃう感じですよね?
西部 ディフェンダーで選んでいる選手は6人。面白いのは、左サイドバックを選んでいないんです。
中山 森下龍矢はウイングバックですよね。
西部 おそらく右は菅原由勢なんですよ。前回の試合でも使っているから。それで左が誰かとなったら、この中だったら伊藤洋輝になると。森下は右も左もできるから、どちらかのバックアップにもなるんですが、逆に言うとどっちかのバックアップがいないと。
じゃあ、誰がやるの? となった時に、偽サイドバックをやるのであれば旗手だろうということですね。
中山 なるほど。まあ、旗手を左サイドバックとして考えればですね。
西部 3バックにすると、逆に伊東と三笘をどこで使うのかとなりますよね?
中山 そうですね。ウイングバックにするのかな。まあ、確かに今までの感じからすると、ここでいきなり3バックをやるというのは森保さんではないですからね。ただ、この人数を見て「あれ?」って思ったんですよね。
西部 これは6人+1人ないしは2人で考えているんじゃないですか。左が旗手、右が守田......。
中山 3月に偽サイドバックはやりましたが、今回のエルサルバドルやペルーは、別に相手が前から来るわけでもないと思うし、もう自分たちがある程度ボールを支配できるとしたら、2バックのままでサイドバックを高く上げるとか、そのレベルでいいんじゃないかという気はするんですけどね。
西部 要は今、ボールを保持したいという流れが出てきているけど、日本がW杯本大会に出て勝ち上がれば、日本がボールを保持してサッカーをするのは得策じゃないですよ。カタールW杯で見てもわかるように、相手が保持した場合に力を発揮したわけだから。
日本がボールを保持するってことは考えていなくて、今考えなればいけないのは、保持しなくちゃいけない時、あるいは握らされた時に、何もできないのが問題なわけで。中山さんが言われたとおり、握らされたら、ボールは持てるし相手は引いてしまっている。別に偽サイドバックじゃなくてもいいという状況が出てくるとは思います(笑)。
【森保監督はボールを保持するつもりはない?】中山 カタールW杯をどう総括したかというところで、そこがスタート地点になっているので、同じ流れになっているのかなと。
西部 よく言えば、森保さんは一貫性があると思います。W杯は基本的に接戦だと。実力に差があったとしても、スコアの上ではそんなに差がつかない試合が多い。だから接戦に持ち込めば勝てるチャンスがある。
接戦に持ち込むためにどうするかというと、まずしっかり守れと。「いい守備からいい攻撃」。もうそれは一貫していて、塩試合と言われようが何と言われようが、前半攻めていても守っていても膠着していれば満足している監督ですから。
中山 基本は守備の人ですからね。
西部 大局観としては非常に合ってるんですよ。だから前回3月の時に選んだメンバーも、ボールを保持したいにしてはこのメンバーなのか(?)と思いましたけど、森保さん自身はそこまでボールを保持するつもりは、僕はないんだと思います。
中山 じゃあ、口だけ言ってるみたいな(笑)。
西部 だから、保持するつもりはないけれども、保持させられた時にどうするかということなんじゃないかなと。要するにコスタリカ戦のようになってしまった時にいいプレーができなかったのは反省点。ただ、ドイツやスペインを相手にボール保持しようという気は多分ないと思います。
中山 次のW杯に向けてもってことですよね? そこがサッカー協会が森保さんに続投を頼んだ時に、今度は主体性のあるサッカーでゲームを作れとなって。
西部 ボールがあれば、主体性があるというものではない(笑)。
中山 そうなんですけど、スタートがそういうふうになっちゃって、森保さんも今度は守備で勝ち点を取るのではなく攻撃でとか、ボールを自分たちが握ってということを言うわけじゃないですか。
西部 ボールを握った時に、もうちょっといいプレーをしたいのは本当だと思います。握らされる時でもいいし、あるいは1点リードされたら攻めなければいけないわけですから。
ただ、例えばボールポゼッション70%で試合をしようなんて、多分森保さんは考えていないと思う。むしろ30%でいいから、そのクオリティを上げろということだと。
中山 僕は、カタールW杯で一番総括しなきゃいけないのは、コスタリカ戦だと思ってます。結局、ドイツ戦で違う戦い方に移行してしまったから、急に戻しても多分できなかった部分もあると思うんですね。
西部 元から不得手ですからね。
中山 サッカー協会が総括した時に高い評価を与えたのは、ドイツやスペインに勝ったという部分。それで森保監督の続投がいいという判断になった。だけど、僕はあの時のコスタリカ戦をやっぱ一番見なきゃいけないと。それが日本の現状の力を表していたと思うので。
これが強いチームだったら、このゲームはこういうふうに守ろう。でも次の試合は自分たちのほうが攻撃的なサッカーで機能させようとかできるかもしれない。でも日本はまだそれができなかったというのは、選手たちも反省をしていた。
結局、コスタリカ戦は蓋をしちゃって、ドイツ戦、スペイン戦を評価して森保さんが続投。でも今攻撃的にボールを握ってやろうと発言してそういうふうに目指したとしても、西部さんが言ったように本大会になった時、そんなことやったら勝てないっていうほうにまた戻るっていう。だから、どこかでまたループに入るんじゃないかと予想をしちゃうんですよね。
【サイドバックは層が薄い】西部 僕は、森保さんは多分整理がついてると思いますよ。本大会はカタールW杯のように戦うだろうと。ただし、あまりにもボールを持たされた時の出来が悪いので、そこを何とかしたいと。それで名波浩コーチを入れて、攻撃のアイデアを出してくれとなったら、偽サイドバックが出てきたわけですよ。
それはそうですよね。三笘と伊東を中に入れたくなければ、サイドバックを中に入れないとポゼッションは安定しない。そこで相手を釣り出して縦にボール入れるということしか、多分打開の方法はないので。やっていることは極めて真っ当だと思うけど、できないんじゃしょうがないって話ですよね(笑)。
今回はかろうじて旗手を呼んでいるので、何とかそこで改善が見られるといいなと。
――今回のメンバーに入らなかった選手で、入れたらよかったのではという選手はいますか?
西部 伊藤涼太郎ですね。抜群ですよ、J1を見ていれば。トップ下を作るとすれば久保建英とか鎌田大地が務めると思いますが、そこの候補になるだろうなと。もう勝るとも劣らないクオリティを持っている。
ただ今回呼ばなかったのは、しょうがないかなという感じもしますね。今呼んでも試合に出るのは久保や鎌田が優先になるのは間違いないので。まあ、次あたりは多分呼ぶんじゃないですかね。
中山 サイドバックのところが薄いと思いますね。前回はバングーナガンデ佳史扶を呼びましたが、Jリーグのいろんなチームから、今の段階でいろいろ試さいといけないですね。今回その1人として森下龍矢が選ばれたのかもしれませんが、やはりサイドバックが一番心配なところですね。あとはセンターバック。ここをJリーグのなかから枠を広げて呼んでもよかったかなと。
西部 Jリーグから選ぶとしたら、サイドバックは誰がいますか?
中山 マリノスの永戸勝也とか。左サイドバックが薄いのであれば、呼べばいいのになと。
西部 代表チームを作る時に、おそらくラージグループというのを作りますよね。その数はおそらく60人ぐらいいるんですよ。そのなかには確実に入っているでしょう。今回はお休みじゃないけど、他の選手の順番ということじゃないですかね。
中山 他で左サイドバック、右でもいいですが、Jリーグで試すべき選手はいますかね? 実はあんまりいないんじゃないかと感じているんですよね。
西部 意外と薄いかもしれないですね。
ちょっとポジションが違いますけど。前回ボール保持のチャレンジをしたいとしきりに言っていましたが、チャレンジをするのにこの人選なのと一番思ったのは、ゴールキーパー。
ゴールキーパーは、自陣でボールを保持する時の最重要ポイントで、ここでボールを捌けなければ、どんなにビルドアップをしようとしても厳しくなる。
それから考えると、西川周作、朴一圭。2人とも足元はすばらしいものを持っていて、セービングでもJ1ではすごくいい数字を出してるはずですから。シュミット・ダニエルはかなり足元がいいゴールキーパーと言われて、実際悪くないんですが、前回は結構怪しいところがあった。だから、ボール保持をちゃんとやりたいと思うんだったら、新たなGKは呼んだほうがよかったんじゃないかなと思います。