「小野伸二を思い出す」 オランダ人に「どハマりした」パリ五輪世代・斉藤光毅は「手に負えない左ウインガー」
2017年6月、インターナショナルドリームカップのU-16日本代表vs U-16オランダ代表(結果は1-3)のキックオフ前、FW斉藤光毅主将とDFシュランディ・サンボ主将がコイントスを行ない、それから握手を交わした。FW栗原イブラヒム・ジュニア(現・SC相模原)と2トップを組んだ斉藤と、CBを努めたサンボは試合中、何度もボールを競り合った。
ゴールを決めてサポーターと喜ぶ斉藤光毅
「えっ、仙台? ドリームカップじゃん!」と気づいた斉藤に、サンボは「歳が同じだから、俺とお前は絶対一緒にプレーしている」と写真を見せた。
「その写真に俺が写っていました。自分は(ギニア戦で)ハットトリックを決めて、その大会の最優秀選手に選ばれたんですけれど、そのことを彼は覚えていませんでした(笑)」
サンボ本人にドリームカップのことを尋ねてみると、人懐っこい笑顔で「僕は日本のことが大好き」と言ってからスマホを取り出し「これはスタジアム、これは仙台の繁華街、これは......なんだろう(笑)」と、たくさんの写真を見せてくれた。よほど日本の印象がよかったのだろう、このオフは日本に旅行するそうだ。
今年のチャンピオンズリーグ決勝直前のこと。私はスパルタのDFバルト・フリンズ主将にインテルの右SBデンゼル・ダンフリースについて尋ねていた。ふたりはかつて、スパルタのチームメイトだったのだ。ひとしきり話を終えると、フリンズは「シーズン後、日本に2週間ほど行くよ」と言い、関東、関西、信州、中国、九州各地の訪問予定地をよどみなく教えてくれた。
スパルタから漂う親日の雰囲気──それは「浩平さんの影響があると思います。スパルタの選手はけっこう、日本語で話しかけてくるんです」と斉藤は言う。2015年からスパルタに在籍する相良浩平は、現在「フィジカル・パフォーマンスコーチ」の肩書で選手のコンディショニング向上・維持に努めている。
【ファン・ホーイドンク大絶賛】今季のスパルタには、14ゴール12アシストを記録したFWヴィトー・ファン・クローイと、ビッグセーブを連発したGKニック・オライという絶対的な中心選手がいた。一方で斉藤は、ワールドカップ中断前は1ゴール3アシストに過ぎなかったものの、今年に入ってからスタッツを伸ばし、最終的に7ゴール5アシストというキャリアハイの数字を叩き出した。
だが、ファンにとって今季の斉藤は、2アシストを記録したデビューマッチから愛すべき選手──つまり『記録より記憶』の選手だ。
エメン戦でゴラッソを決めるとラジオの実況は「誰にも見ることのできない隙間が、斉藤には見えている。そこをドリブルで打開してゴールを決めるプレーはマジック!」と叫び、トゥウェンテ戦を報じた通信社は「手に負えない左ウインガー、斉藤光毅」と書いた。
テクニカルでスピードがあり、観客席に近いサイドライン際で敵を翻弄してファンを沸かし、ピッチの中央にポジションを移すと巧みにラインの間でボールを受けて相手を脅かす──。そんな斉藤のプロフィールは、攻撃サッカー好き・サイドアタッカー好きのオランダ人にどハマりする。それは、かつてのスーパースターの称賛の声からもうかがい知れる。
オランダ・NOS局のサッカートーク番組『ストゥディオ・フットボール』は、今季の最終回で「オランダリーグの真珠」というテーマを討論した。ここでの「真珠」とは「若手のホープ・未来のスター」などの意味を含む。
2001-02シーズン、フェイエノールトをUEFAカップ戴冠に導いたエースFWピエール・ファン・ホーイドンクは「今季最高の若手は斉藤光毅だ。彼のプレーを見ていると、かつてのチームメイト、小野伸二を思い出す」と言った。
「(焦ったように)言いすぎ、言いすぎ。全然、言いすぎです。まだ、そんな結果を残していないし。自分は強い相手から点を取ってないんですよ」(ファン・ホーイドンクの称賛の言葉を聞いた斉藤のコメント)
【監督の言葉で吹っきれた】斉藤はいつも、楽しそうにプレーしている。足がつってしまうという課題を抱えていながら、つらいはずの時間帯でも周りが幸せな気分になるような表情でプレスをかける。これには、敵もうんざりするだろう。
スパルタのオフィシャルフォトグラファー(この人も日本出張時の思い出を語ってくれた)は「見て、見て。これ全部、光毅の写真なの」と言いながら大量の斉藤の写真を見せにきた。近くにいた職員も交え、私たちは「写真のなかの光毅はいつも笑っている」と言って盛り上がった。
このフォトグラファーにとってお気に入りの写真は、試合が終わってからゴール裏のサポーターと記念撮影するシーンだ。そこには、ファンのために自らセルフィー棒を握る斉藤の姿があった。
マウリス・スタイン監督も、斉藤のことを常に気にかけている。試合後のインタビューに応えていると、私に「光毅は今からここに来るからな」と声をかけてくれることが頻繁にあった。
そんなスタイン監督から、斉藤は金言を授かっている。ワールドカップ中断期の個人面談で、斉藤は「もっと結果(ゴール・アシスト)を残さないといけないと思います」と自身の課題をあげた。すると、スタイン監督は「そんなに気負うな」と言って続けた。
「結果ばかりを追ってしまうと、逆に結果がついてこない。まずはチームのために自分のストロングポイントを出し、やるべきことをやってくれれば、私は評価する。そうすれば、自ずと結果はついてくる」
この言葉で、斉藤の心はラクになったという。それがシーズン後半戦のゴール・アシストにつながった。
右ウイングのファン・クローイ、ストライカーのトビアス・ラウリツェン、そして左ウイングの斉藤──シーズン後半戦、3トップの並びが完全に定まった。そのなかでフリーロールを任されていたのはファン・クローイだ。「自分もそういう役を果たしたい」と思っていた斉藤は、シーズン終盤になると自由に動く裁量をもらい、攻撃の引き出しを増やしていった。
「自分が思うように動いても、何も言われないようになってきました。試合前には(指示を)いろいろ言われますが、試合が始まってしまうと攻撃陣はなんだかんだ言ってかなり自由。そこは自分にとっていいですね」
【いずれ日本代表に定着する】ある日、スタイン監督は私に「お前からも光毅に、来季もスパルタに残るよう伝えてくれ」と言った。それは、かなり本気の混じった冗談だった。
当時、オランダのメディアには「スパルタは斉藤のレンタル延長についてシティグループ(マンチェスター・シティを頂点とする世界規模のサッカー事業グループ。ロンメルも所属)と交渉を開始した」と報じられていたからだ。結局、6月5日にスパルタから「斉藤光毅は来季もクラブに残る」と発表された。
「自分にとって、すごくいい環境です。スタッフも選手もサポーターの人たちも、みんながよくしてくれる。来年も活躍して(次のクラブに)ステップアップし、『スパルタが出した』と言われることが恩返しになるので、しっかり頑張っていきたい」
かつて斉藤は、スパルタのことを「いい人が多いクラブ。みんながフランクに話してくれる」と言っていたことがある。現役時代、美しいドリブルをすることで定評のあったヌルディン・ブカリ(元モロッコ代表MF)コーチとは、ドリブルの話で盛り上がっていた。
「(ブカリコーチは)面白い人。変なドリブルをしたり、俺のドリブルをマネしたり、股抜きしたりしています」
そのブカリコーチに、斉藤のことを訊いてみた。
「ドリブルはもちろんのこと、洞察力があって、ポジショニングも巧み。なにより、相手を脅かすプレーができる。フィジカルも強くなり、うまく背中を使ってキープしたり、相手のボールを奪ったりする。彼には大外のドリブル、中に入るドリブルの話などをします。光毅はいずれ日本代表に定着するでしょう。課題は決定力。もっとスタッツを伸ばすことができる」
背中を使ったキープやデュエルは、斉藤も得意なプレーだという。
「育成の頃からCFだったので、背中を使ったプレーは自然と身につきました」
シーズン終盤には、試合中に足をつることもなくなった。カンファレンスリーグ出場をかけたプレーオフでは4試合も続いたものの、延長戦も含めて385分間(1試合平均96分間)戦い抜いた。
【フィジカルコーチのアドバイス】フィジカル部門のチーム責任者である相良コーチは、今季の斉藤をこう評する。
「移籍当初は90分間、全然持たないところから始まりました。でも今は、連戦でも出続けることができる体になった。そこは本当に成長したと思う。コーチ陣は『体つきが変わった。子どもみたいな感じだったが、大人の男としてプレーできる選手になった』と言っています。
彼にとって、すごくいいシーズンでした。しかし、体力が持つようになって、最後まで走れるようにはなったけど、試合の終盤で決定的な仕事をするところまで至っていない。そういうところで力を発揮できるようになれば、もっとよくなります」
先発だとパフォーマンスが下がってしまった今季序盤戦のプレーについて、シーズンを終えた今でも斉藤は悔しさとして残っている。「来季は開幕からしっかり活躍したいです」と何度も繰り返し、斉藤は新シーズンの誓いを立てていた。