全日本大学選手権で存在感を示した好投手3人 ポテンシャルは一級品、ドラフトで上位指名も…
青山学院大の優勝で幕を閉じた第72回全日本大学野球選手権大会。ドラフト候補が数多く登場した今大会で、独特の存在感を見せた3人の投手を紹介していこう。
最速153キロを誇る星槎道都大の滝田一希
滝田一希(星槎道都大学4年/183センチ・76キロ/左投左打/寿都高)
「あまり人の目を見られないので、ずっと下を向いてます」
そう語る滝田一希の視線は、やはり下を向いていた。
初めて出場した全国大会、初めて上がった東京ドームのマウンド、そして試合後には鈴なりの報道陣。「人見知り」を自任する滝田にとって戸惑う条件は揃っていた。
滝田は北海道南西部の寿都(すっつ)郡から出現したサウスポーだ。高校1年秋と2年秋は部員不足のため、連合チームで公式戦に出場。そんな高校のエースが、4年後にドラフト候補になるのだから面白い。今や最高球速は153キロに達している。
左腕とグラブハンドを同調させるような独特なテークバックに、岩瀬仁紀(元中日)を想起させるダイナミックな腕の振り。エネルギッシュな投球フォームだが、滝田の体にマッチしているのだろう。滝田は「肩ヒジを痛めたことは一度もありません」と証言する。
優勝候補の一角である大阪商業大学が相手でも、滝田は爪痕を残した。立ち上がりからストレートが狙われているとみるや、110キロ台のチェンジアップで緩急を生み出し翻弄。4回まで無失点とゲームメイクした。滝田は試合後に収穫として「ストレートで少し押せた」ことを挙げている。
だが、1対0とリードして迎えた5回表に落とし穴が待っていた。一死から四球で出塁を許すと、2者連続で三塁寄りの送りバントを自ら捕りにいき内野安打にしてしまう。これには星槎道都大の二宮至監督も「サードに任せればいいのに」とため息をついた。
一死満塁から犠牲フライで同点に追いつかれたあと、再度四球を与えて二死満塁。ここで右打席に来秋のドラフト上位候補である渡部聖弥を迎えた。
この日、渡部に2打数2安打と打ち込まれていた滝田だが、渾身の投球でファーストゴロに打ちとる。ところが、滝田の一塁へのベースカバーが遅い。俊足の渡部が先に一塁ベースを駆け抜け、星槎道都大は逆転を許す。次打者に押し出し四球を与えたところで、滝田はマウンドを降りた。
1対8の7回コールド負け。結果的にフィールディングの拙さから大敗を喫したものの、打ち込まれての敗戦ではなかった。二宮監督に「滝田くんは力を出してくれましたか。それとも、こんなもんじゃないという思いですか?」と聞くと、いたずらっ子のように笑った二宮監督からこんな答えが返ってきた。
「こんなもんですよ。でも、まあいいボールは投げていました。あとはもう少し変化球でストライクをとれるようになるといいですよね」
ポテンシャルを考えると、ドラフト上位指名を受けても何ら不思議ではない。北の怪腕・滝田一希はまだまだ発展途上なのだ。
仙台大に敗れたが自己最速となる153キロをマークした東日本国際大の大山凌
大山凌(東日本国際大学4年/180センチ・80キロ/右投右打/白鷗大足利高)
「プロに行きたいと考えているので、今日はアピールするチャンスだったんですけど......まだまだ実力不足でした」
試合後、意気消沈した様子でそう語ったのは、東日本国際大のエース右腕・大山凌だった。仙台大学を相手に5回まで無失点と粘投したものの、6回に3失点を喫して降板。それでも、神宮球場で自己最速を2キロ更新する153キロをマークし、インパクトを残した。
バランスのいいスリークオーターから、ストレート、カーブ、スライダー、カットボール、ツーシーム、スプリット、チェンジアップと多彩な球種による総合力で抑えるタイプ。
だが、この日は決め球の精度に苦慮した。「仙台大は大振りせず、ミートしてくるチーム」と警戒して慎重に攻めていたが、かえって「考えすぎてしまった」と悪い方向に作用した。決め球であるスプリットは「決まったり、決まらなかったり」と不安定だった。
被安打は3だったものの、与四死球は7。大山はこんな悔いを口にする。
「あれだけ四死球を出していたら結局ヒットと変わらないので。もっといいピッチングをしたかったです」
昨秋に痛めた右ヒジは完治しており、体調面に不安はない。スケールというよりは技術面でアピールするタイプだけに、秋に向けて求められるのは結果だ。念願のドラフト指名のため、大山がどんなラストスパートをかけるか目が離せない。
決勝戦で敗れはしたが、総合力の高さを見せつけた明治大・村田賢一
村田賢一(明治大学4年/181センチ・90キロ/右投右打/春日部共栄高)
「あっちのほうに行ったほうがいいですよ」
数人の記者に囲まれた村田賢一(明治大)は冗談めかしてそう告げた。視線の先にはこの日、ホームランを放って10人以上の記者に囲まれるドラフト上位候補の上田希由翔(きゅうと)の姿があった。
村田はこの日、強敵・日本体育大学を相手に6回0封とエースらしい投球で勝利に導いていた。それでも、村田が報道陣に上田への取材を勧めたのは、自分が脚光を浴びにくい存在だと自覚しているからなのかもしれない。
身長181センチ、体重90キロの厚みのある体は、いかにも馬力がありそうに見える。だが、村田のことをパワー型の投手と認識する大学野球ファンはひとりもいないだろう。
スライダー、カットボール、カーブ、フォーク、ツーシーム、シンカーなど多彩な変化球をコントロールし、バットの芯を巧みに外す。ストレートは常時140キロ台前半に留まり、球威で抑え込むタイプではない。そのマウンド姿はまるで、社会人野球のベテラン投手のような貫禄を帯びている。
村田は大学4年春までに東京六大学リーグで通算12勝1敗、防御率1.54と安定した成績を残した。3年春から続く連勝記録は10まで伸びている。
それでも、ドラフト候補として見た時、村田は今年の大学生でもっとも評価が難しい投手かもしれない。4年生になってストレートにスピードが出てきたとはいえ、まだ目立つレベルではない。アマチュアレベルでは抑えられても、プロレベルになると球威不足から打ちごろの投手と化してしまう例は珍しくないのだ。
今年は大学生投手に有力なドラフト候補が揃っている。そんななか、村田は自分自身をどのように評価するのか聞いてみた。
「みなさんボールが速くて、パワーで押せるピッチャーが多いと思います。自分はスピードを出したい気持ちはありますが、出るタイプではないので。ただ、コントロールや技に関しては絶対に負けない気持ちです。今のところ、それはうまくいってるのかなと思います」
日本体育大戦でも、村田の持ち味はいかんなく発揮された。球審のストライクゾーンが狭いと感じると、「いつもよりゾーンの出し入れを丁寧にしよう」と順応。左の強打者が多い打線に対して外角のツーシームやシンカーを使い分け、巧みに打たせてとった。
派手な投球スタイルではない分、結果で語るしかない。「大学日本一」の勲章を手にできれば、自身の存在価値を証明できるのではないか? そう尋ねると、村田はこう答えた。
「昨年から勝ち続けてきましたけど、これを継続していかないと意味がないので。気を抜かずにやっていきたいです」
その4日後、青山学院大との決勝戦で先発登板した村田は、立ち上がりからつかまる。3回1/3を4失点と打ち込まれてノックアウトされ、チームも0対4で敗れた。大会MVPに輝いたのは、決勝戦で完封勝利を収めた青山学院大の常廣羽也斗。絵に描いたような本格派右腕のドラフト候補である。村田にとっては屈辱的な敗戦だったに違いない。
とはいえ、シーズンは秋もある。この敗戦をバネに村田がどのような進化を見せるのか。己の価値を証明する戦いは続いていく。