久保建英、三笘薫、上田綺世…… 福田正博が「スタメンを張る選手が増えた」と感じた今季欧州サッカーの日本人選手の活躍を分析
■欧州サッカーの各国リーグが終了。今シーズンは多くの日本人選手の奮闘が、ファンを楽しませた。福田正博氏に、そんな日本人選手のプレーぶりを総括してもらった。
久保建英はレアル・ソシエダで9ゴールを挙げ、飛躍のシーズンとなった
各国リーグの2022−23シーズンが幕を閉じた。今季は途中にカタールW杯での中断期間があって、代表クラスの選手たちにはコンディショニングなどで難しい面はあったと思う。それでも日本人選手の躍動が目立ったシーズンになった。
まず触れたいのが、久保建英だ。ラ・リーガに渡って4年目の今季、ようやく日本や世界からの注目度や期待値に違わぬプレーを見せてくれた。
レアル・ソシエダ加入当初はスタメンの座をつかむのは厳しいと見られていたなか、シーズン終盤を迎える頃には、相手チームからレアル・ソシエダでもっとも警戒すべき選手と見られるまでになった。
レアル・ソシエダが、自分たちがボールを持ってアクションを起こすサッカーをすることが、久保の持つ高い技術やスキル、判断の速さ、視野の広さといった能力にフィットしたのは間違いない。だが、苦労した過去3シーズンで得たものを生かしたことも見逃せない。
過去3シーズンはマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェでプレーしたが、そこで求められたものは、久保の持ち味とは対極にあるようなフィジカル強度や守備への貢献度だった。だがそこを嫌がらずに、チームで勝つために久保自身も高めようと努力をした。それが今シーズンに花開いた部分もあったし、チームからの信頼につながった。
だからこそ、ラ・リーガ35試合で9得点4アシストの成績を残せたのだろう。開幕前に久保はゴールやアシストなどで20得点という目標を掲げていたが、アシストのアシストといったゴールに絡んだ数字を含めれば目標は達成したと言えるだろう。なによりチーム2番目の9ゴールというのが、久保にとっては大きな自信になったのではないかと思う。
レアル・ソシエダは4位でリーグ戦をフィニッシュしたことで、来季はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を戦う。久保にとって初めてとなる世界最高峰の舞台で、どんな輝きを放つのか。いまから楽しみでならない。
【三笘の活躍はほかの日本人選手への注目も高めた】その久保と同じく、日本のみならず世界にインパクトを与えたのが三笘薫だった。カタールW杯を前後して活躍しだし、初挑戦のプレミアリーグでもセンセーションを引き起こした。33試合に出場して7ゴール5アシスト。ブライトンの来季UEFAヨーロッパリーグ出場権獲得に大きく貢献した。
さらに三笘の活躍によって、日本人選手でも世界最高峰のプレミアリーグで攻撃的なポジションで主役を張れることを示してくれたし、あの活躍でほかの日本人選手への注目度も高めてくれたのではないかと思う。
ビッグクラブへの移籍も期待したい一方、もう1シーズンはブライトンで攻撃の核として存在感を高めるのが現実的な気がする。
ステップアップとなる新天地を選ぶということは、チーム内の同ポジションの選手のレベルも高まる。そのなかで来季は各クラブが三笘への対策を練ってくる。それを踏まえると、何試合かやって三笘が今季のような活躍ができなかった時には出番が得られなくなる可能性がある。
そうなるくらいなら、もう1シーズンか冬の移籍期間まではブライトンでプレーし、対策を練られても凌駕できる力を身につけるほうがいいのではないかと思う。
攻撃的な選手で言えば、昨夏にベルギーリーグのサークル・ブルージュに移籍した上田綺世は、カタールW杯前からゴールを決め出すと、年が明けてからゴールを量産し、チームメイトからの信頼が高まってボールがさらに集まるようになり、終わってみれば40試合で22ゴール。得点王には及ばなかったがリーグ2位、移籍1年目で中位のチームで稼いだゴール数という点を評価している。
ただ、私が上田へかけている期待は、この活躍程度のものではない。彼のゴールを奪う能力は、もっと高いレベルでも通じると信じているし、そうした舞台でレベルの高いDFと渡り合うことでさらに研ぎ澄まされていくはずだ。来季は5大リーグのクラブや、それ以外でもCLに出場するチームなどでのゴール量産を楽しみにしている。
堂安律(フライブルク)や伊東純也(スタッド・ランス)も新天地で結果を残したが、一方で気がかりなのが南野拓実だ。リバプール(プレミアリーグ)からモナコ(リーグ・アン)に移籍したが、さっぱりなシーズンになってしまった。
フランスリーグの特徴に、フィジカル強度の高さと、キャリアアップを意識する若い選手たちが個で局面を打開しようとする傾向が強くある。
スピードという圧倒的な武器のある伊東純也は、そうした環境下でも持ち味を発揮しやすいのに対し、南野の場合は個で勝負するというよりも、周りの味方と関わりながら違いをつくりだすタイプだ。それもあって今季は不本意なシーズンになった面はあるだろう。
来季は味方を生かすサッカーをするチームに移籍して、本来の南野らしさを取り戻してもらいたい。ブンデスリーガならドルトムントやライプチヒ、ホッフェンハイムといったチームが味方を使うサッカーをする。ただ、これらは若い選手を育てて売るチームなので、南野が入る余地はない。
個人的には、鎌田大地の抜けるフランクフルトのサッカーは、南野に合うと思っている。鎌田と南野ではプレースタイルは異なるが、南野のよさは発揮しやすいはずだ。来季も現役を続ける長谷部誠がいるのも、南野復活には心強いだろう。
果たして南野は、来季の身の振り方にどんな答えを出すのか注目している。
【スタメンを張る日本人選手が増えている】ほかにも話したい日本人選手は多いが、そのなかでスコットランドで三冠を達成した、セルティックの古橋亨梧と旗手怜央に触れたい。
古橋はリーグ戦27ゴールで初の得点王になり、リーグMVPも獲得。セントラルMFとして攻守で存在感を示した旗手は32試合6得点。今季の三冠達成に不可欠な存在だった。
だが、5大リーグでプレーする日本人選手が多いことや、セルティックとレンジャーズの「2強+その他」というリーグにあっては、彼らの真価をはかる難しさはあった。
そうしたなか、プレミアリーグのトッテナムの来季の新監督にセルティックを率いたアンジェ・ポステコグルー監督が決まった。ポステコグルー監督のサッカーを具現化できる古橋や旗手を、ぜひとも一緒に連れて行ってもらいたいと思う。
世界最高峰の舞台で古橋と旗手がどこまで通用するのか。そのパフォーマンス次第では彼らの評価は世界ではもとより、日本代表を率いる森保一監督からもさらに高まっていくのではと思う。
日本人選手が所属するクラブのレベルは、以前なら各国リーグのなかで下位のチームがほとんどで、ビッグクラブに所属していてもベンチ要員というケースも多かった。
しかし、いまは各国リーグでCL出場権やそれに続くヨーロッパでのコンペティションに出られるチームで、スタメンを張る日本人選手が増えている。この流れが来季はさらに加速して、5大リーグの上位争いをするクラブでスタメンとして毎試合出場する日本人選手が増えることを期待している。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。