伊東純也はスピードだけにあらず、南野拓実はボールロストが目立った…フランスで戦う日本人プレーヤー5人の明暗
王者パリ・サンジェルマン(PSG)が国内最多となる通算11度目の優勝を飾って幕を閉じた、2022-2023シーズンのリーグ・アン。終わってみれば、20年ぶりにチャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得した2位RCランスとの勝ち点差はわずか1ポイントで、3位マルセイユはCL予選から参戦することが決定した。
そのリーグ・アンでは、スタッド・ランスの伊東純也、モナコの南野拓実、トゥールーズのオナイウ阿道、ストラスブールの川島永嗣、同じく冬の移籍期間にローン加入した鈴木唯人と、過去最多となる計5人の日本人選手がプレー。それぞれ、悲喜こもごものシーズンを過ごした。
そこで今回は、リーグ・アンでプレーした日本人選手たちの今シーズンを振り返ってみたい。
南野拓実のモナコ移籍は大きな話題となったが...
まず、最も充実したシーズンを過ごしたのは、スタッド・ランスの主力として高いパフォーマンスを持続した伊東だろう。
ベルギーのゲンクから2022年7月に移籍し、今シーズンから初めてリーグ・アンに活躍の場を移した伊東は、リーグ戦35試合に出場し、そのうち34試合に先発。出場時間はトータル2929分で、この数字はキャプテンのDFユニス・アブデルハミド(3330分)、チーム内得点王のFWフォラリン・バログン(3010分)に次ぐチーム内3位だ。
つまり38試合中、伊東が欠場したのはわずか3試合のみ(開幕直前の負傷によって大事をとった第1節のマルセイユ戦、第9節トロワ戦でもらった一発退場の2試合出場停止処分による第10節のパリ・サンジェルマン戦、第11節のロリアン戦)。負傷明けの第2節クレルモン戦で途中出場デビューした以外は、すべての出場試合で先発している。
これらの数字だけを見ても、いかに伊東がチームに欠かせない存在だったかがよくわかる。だが、それ以上に伊東の評価を高めることになったのが、毎試合コンスタントに披露した高いパフォーマンスだった。
【南野拓実に22億円の価値は?】伊東はチーム内3位となるシーズン6ゴールを記録したほか、チーム内トップのMFアレクシス・フィリプ(6アシスト)に次ぐ5アシストを稼いだ。また、ゴールやアシストには記録されなかったチャンスメイクから、いくつもの決定機を演出した。
それらは、最も得意とするドリブル突破からのクロス供給だけではない。ダイレクトパスやピンポイントで配球される高精度のスルーパスなど、多彩なプレーによって攻撃のバリエーションを増やした。
シーズン序盤はバログンとの2トップコンビでゴールによく絡み、ウィリアム・スティル監督体制になってからは主に4-2-3-1の右ウイングでプレー。ポジションがゴールから少し離れたことでシュート本数は減ったが、それでも伊東がスタッド・ランスの攻撃の中心核であり続けたことに変わりはなかった。
とりわけシーズン途中から際立っていたのが、相手がプレスを仕掛けられないほどの抜群のボールテクニックと、パス精度の高さだ。これまで伊東の主戦場は「右の大外エリア」と見られていたが、今シーズンのプレーを見ると、中央でも左サイドでも柔軟に対応できるマルチロールのアタッカーへと進化した印象だ。
もはや伊東の武器は、スピードだけにあらず。来シーズンもスタッド・ランスの中心選手として君臨するはずだ。
対照的に、予想以上の苦戦を強いられたのが、モナコの南野だ。
出場試合は半分以下の18試合で、そのうち先発したのは10試合。出場時間は724分にとどまり、1ゴール3アシストという数字はアタッカーとしてあまりにも寂しい。
しかも、リーグ上位を争う強豪モナコが1500万ユーロ(約22億円)の移籍金を支払ってリバプールから獲得した即戦力。周囲の期待を大きく裏切る格好となった感は否めない。
特に苦労したのが、リーグ・アン特有の激しいデュエルだ。
たとえば、伊東は相手のプレスに対し、間合いをとれれば自慢のスピードを生かしたドリブルを、間合いがとれなければダイレクトパスを有効に使うといった工夫を見せたが、プレミアリーグのフィジカルバトルを経験済みの南野は真っ向勝負で対抗。その結果、ボールロストが目立った。
【オナイウ阿道が残した爪痕】また、CL予選を戦ったモナコの選手層は厚かった。
カタールW杯後には17歳のMFエリーゼ・ベン・セギル(現在18歳)が彗星の如く台頭。元ドイツ代表FWケヴィン・フォラントも含め、シーズン後半戦から南野が任されるようになった1トップ下のポジション争いはさらに激化した。
それでも、終盤に近づくにつれてリーグ・アンのサッカーに馴染みはじめ、出場した試合では及第点のパフォーマンスを披露するようになったことは好材料だ。
そのなかで、プレスを浴びた時にダイレクトパスを有効活用するようになったのは来シーズンにつながる変化であり、本人もそれなりの感触を掴んだのではないだろうか。いずれにしても、初年度の経験を2年目に生かせるかどうかが重要になる。
一方、昨シーズンはリーグ・ドゥ(2部)で10ゴールを叩き出したトゥールーズのオナイウ阿道も、自身初のリーグ・アンで難しいシーズンを過ごすこととなった。
今シーズンのオナイウは34試合に出場。出場時間も1068分と、まずまずの成績を残したが、先発したのは9試合のみ。主に1トップとウイングの控えに甘んじることになった。
開幕早々にエースのFWリース・ヒーリーが今季絶望の大ケガを負った。だが、その代わりに12ゴールの活躍を見せたのは、22歳の新戦力FWタイス・ダリンガだった。
また、ウイングには新加入のFWザカリア・アブクラルが躍動したほか、2015年にアルビレックス新潟に所属したこともある新加入のFWラファエル・ハットンの活躍、さらに下部組織出身のファレス・チャイビ(20歳)の台頭もあり、ポジション争いに苦しんだ印象だ。
とはいえ、前線の複数ポジションをこなせる起用さもあり、重要な控えアタッカーとしてフィリップ・モンタニエ監督から重用されたことは間違いない。そのなかで記録した2ゴール1アシストは、オナイウが残した爪痕のひとつと言っていい。また、クラブ史上初のタイトルとなるクープ・ドゥ・フランス(フランスカップ)獲得に貢献したことも、選手としての勲章となった。
【鈴木唯人のデビューは衝撃】リーグ・アン7年目となったストラスブールの川島は、今シーズンも控えGKとしてシーズンを過ごしたが、2019−20シーズン以来2度目となる公式戦の出場なし。特にカタールW杯後は肩の手術もあってベンチ外が続いた。なお、40歳となった川島の契約は今シーズンかぎりなので、今後の去就に注目が集まる。
同じストラスブールの鈴木は、第31節のアジャクシオ戦の後半75分にデビューを果たすと、華麗なドリブル突破から初ゴールをマーク。センセーショナルなデビューを飾って地元サポーターを歓喜させた。
しかし終わってみれば、その試合を含めて途中出場3試合(出場時間33分)のみ。ゴールもデビュー戦だけでシーズンを終えている。
鈴木のローン契約は今シーズンいっぱい。今後はクラブが買い取りオプションを行使するか注目される。