ラグビーW杯フランス大会で日本代表に「必要なこと」 五郎丸歩が考える「キックの重要性」と「松田力也への期待」
W杯の開催地フランスのリーグでも活躍した五郎丸歩氏
2015年ラグビーワールドカップ(W杯)で日本代表として大活躍し、キックルーティンのポーズで日本中を席巻した、五郎丸歩さん(37歳)。現在は引退して静岡ブルーレヴズ(元ヤマハ発動機)のCRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)を務める五郎丸さんに、9月開幕のラグビーW杯に出場する日本代表への期待をフランスリーグ、そしてW杯経験者ならではの視点で語ってもらった。
――五郎丸さんは、2015年W杯後、フランスの世界的強豪であるトゥーロンでもプレーしました。2023年はフランス大会ということで日本代表に「ここに気をつけてほしい」、「ここを楽しんでほしい」といったことはありますか?
フランスは、ご飯が美味しいです! あとは、やっぱり(日本の試合会場や合宿地のほとんどが)南仏なので、天候もいいです。ただ試合はナイターで、夜9時キックオフ。日が落ちるのが遅いですし、そういった条件での試合は日本の選手はほとんどが経験したことがないので、そのあたりの時間のマネジメントをどうコントロールしていくかというのは頭に入れたらいいかなと思います。また芝も夜9時ぐらいになるとどうしても夜露でスリッピーになったりしますね。
――2023年大会は、2015年のイングランド大会と同じ、ヨーロッパで開催されます。
やはり予選プールの初戦(チリ代表戦)は大事かなと思いますね。2019年大会は自国開催でしたが、今回はアウェーの大会になるので、一番大事な(予選プール)2戦目のイングランド代表戦に向けても、初戦をしっかり勝って、フランス国民を味方につけてほしいですね。フランス人はヨーロッパではなかなか見られないような日本代表の展開ラグビーが好きですから。
――7月から8月にかけて国内でW杯に向けた強化試合が5試合行なわれます。選手たちはどういったことをしてW杯に備えればいいのでしょうか?
まずは国内リーグから世界レベルまで上げなくちゃいけない。国内リーグがリーグワンになって強くなったとは言っても、まだワールドクラスではないので、ここから1〜2カ月というのは選手たちが本当に強化するために必要な期間になる。そのなかでも、チームのために体を張ったり、張り続けたりした選手が最後(のスコッド33名)に残っていくでしょう。いい選手でもケガだったら残れないので、そこは運の要素もありますが、そのあたりのマネジメントをしっかりやりながらいい形でW杯に向かってほしいです。
――五郎丸さんはラグビー日本代表時代、BK(バックス)の要の一人であるFB(フルバック)選手として活躍しました。BKで、W杯での活躍を期待している選手はいますか?
SO松田(力也/埼玉ワイルドナイツ)は司令塔としてチームを引っ張っていってほしいなと思います。
――今季リーグワンで「ベストキッカー」にも選ばれたSO(スタンドオフ)松田選手は、五郎丸さんと同じプレースキッカーも務めますね。
W杯はそんなに簡単な試合はないと思いますし、予選プールでは、必ずキックが重要になってきます。これからW杯に向けて、チームとしてもそうですが、キッカーとしてもワールドクラスの取り組みをしていかないといけないでしょうね。
――他に期待しているBKの選手はいますか?
基本的には、いつものあのメンバーが出てくるんじゃないかな。SH(スクラムハーフ)流大、CTB(センター)中村亮土、WTB(ウイング)/FB松島幸太朗、FB山中亮平といった2019年のメンバーが軸になると思います。
――五郎丸さんが関わっているブルーレヴズからはベテランPR(プロップ)伊藤平一郎選手(32歳)が日本代表候補に入りましたね。
日本代表候補ということで、基本的にはバックアップという形ですが、スクラムに対してはかなりこだわりがあるし、(現在日本代表コーチで、ヤマハ発動機でも指導していた)長谷川慎コーチの下で(スクラムを)やってきた選手です。
仮想イングランド代表、アルゼンチン代表というなかで、試合に出ることが一番優先順位は高いけど、チームに携わる方法はたくさんありますし、試合に出るメンバーをサポートすることも必要です。もしそういう立場になったらなったで、しっかりとベテランらしく、組織の力になれるよう、ポジションは問わず頑張ってほしい。もちろん、日本代表候補のなかから勝ち抜いていってほしいです。
――ファン、スポンサー、行政などとクラブをつなぐ役割であるCROという立場としては、ブルーレヴズの選手にW杯に出てほしいと思っているのでは?
もちろん、伊藤選手が(W杯に)出てくれることに越したことはないですが、でも日本代表が勝つことが優先順位の一番です。どこのチームの選手が出てほしいというのは、あんまり考えていません。
――五郎丸さんが出場した2015年大会で活躍したFL(フランカー)リーチ マイケル選手(ブレイブルーパス東京)、HO(フッカー)堀江翔太選手、PR稲垣啓太選手(埼玉ワイルドナイツ)、WTB/FB松島選手(東京サンゴリアス)もまだまだ健在です。
そうですね。とくに誰に頑張ってほしい、ということはないですね。ただ(一緒に合宿していた早稲田大学の後輩FB)山中(亮平/神戸スティーラーズ)は、おそらくラストのW杯だと思うので、しっかりと有終の美を飾ってほしいなという思いはあります。
――前回の自国大会はベスト8に入りましたが、アウェーの大会で、日本代表はまだベスト8に進出したことはないですね。
今大会はアウェーで勝つ難しさが間違いなくあります。世の中的にはベスト4以上という期待がありますが、2015年大会では(予選プールで)3勝しても決勝トーナメントに上がれなかったように、そんなに簡単ではない。その壁というのはかなり高いので、しっかりヨーロッパで行なわれる大会でベスト8に入るということを成し遂げてほしい。
――最後に、ファンにはどこに1番注目してほしいですか?
日本代表はティア1(世界の強豪トップ10)にこの3年間、勝ってないですが、(W杯では)イングランド代表、アルゼンチン代表を倒して2019年大会同様に全勝して決勝トーナメントに上がってほしい。今大会は(強豪国もそれ以外も)どのチームも試合の間隔が空いていてフェアになった。そのなかで勝ち抜くのは意味があると思います。
――ベスト8に入れば、前日本代表指揮官のエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が率いるオーストラリア代表と対戦する可能性もありますね。
選手たちには、そんなことを考える余裕ないと思うので(苦笑)、予選プールで一番強いイングランド代表をターゲットに挑戦してほしい。日本大会で初めて日本代表はベスト8に入りましたが、ヨーロッパで初めてベスト8に入れば日本のラグビー界自体もさらに評価が上がる。とにかく、初戦からいい形で勝利して、ヨーロッパで初めてベスト8に入って帰ってきてほしいなと思います。