CL決勝に臨むインテルの強みを風間八宏が分析 「相手に合わせられるサッカー」でシティも食らうか
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ついに始まるチャンピオンズリーグ決勝。今季のCLを追ってきた風間八宏氏に、両チームの見どころを解説してもらう。まずは13季ぶりのイタリア勢優勝を狙うインテルから。シティとの力の差はあるが、「相手のスタイルに合わせることができる」のが強みだという。
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CL決勝のキーマン。インテルのラウタロ・マルティネス
いよいよ目前に迫ってきた今シーズンのチャンピオンズリーグ決勝戦。今回は、悲願の初優勝を目指すプレミア王者のマンチェスター・シティ(シティ)と、通算3度の優勝を誇るイタリアの名門インテルの対戦になる。
下馬評では圧倒的にシティ優位と見られているが、果たして、周囲の予想を覆してインテルがビッグイヤーを掲げる可能性はあるのか? 独自の視点を持つ風間八宏氏が、チャレンジャーの立場と見られるインテルの強さと可能性について詳しく解説してくれた。
注目の決勝戦を展望する前に、まずは今シーズンのインテルの印象について聞いてみた。
「イタリアのチームらしくディフェンスで強さを発揮するのが、まずひとつ。自陣ペナルティーエリア付近で守ることも苦にしませんし、むしろ得意としています。ただし、インテルは攻撃にも強みを持っています。
たとえばそのひとつが、トップにエディン・ジェコという明確なターゲットになる選手がいること。彼がどこにいるかをみんなが見ながらプレーしていて、それによって空いたスペースを使って、ラウタロ・マルティネスを生かしたり、有効なサイド攻撃を見せたりします。また、攻撃に変化をつけたい時には、ロメル・ルカクという切り札も持っている。
それと、布陣が3−5−2で固定されているうえ、各ポジションでプレーする選手もそれほど流動的に動くわけではないので、横の変化はつきにくい一方、縦の変化で勝負することができます。それだけに、前向きでプレーしている時に強さを発揮します」
風間氏が指摘するとおり、確かに就任2年目を迎えたシモーネ・インザーギ監督が構築したサッカーは、メンバー編成を含めて試合ごとに大きく変化することはない。攻撃もある程度パターン化されているので、ペップ・グアルディオラ監督が率いるシティとは異なるタイプのサッカーと言っていい。
【ジェコとラウタロのコンビネーション】「シティとはまったく違うスタイルですね。いい意味でも悪い意味でも、予想どおりの結果になりやすいサッカーと言ってもいいでしょう。たとえば、グループステージではバイエルンと対戦していますが、2試合とも0−2で完敗。実力差は明確で、なかなか厳しい内容の試合になりました。
とはいえ、グループリーグではバルセロナを上回ることができましたし、決勝トーナメントでもポルト、ベンフィカ、ミランを破って勝ち上がっています。それらの試合を見れば、運だけで勝ってきたわけではないのがわかります。
そのバックボーンになっているのが、チームとしてやることがはっきりしている点。チームとして自分たちの距離と時間が決まっていて、しかも明確なかたちを持ちながら相手のスタイルに合わせることができる。つまり、再現性のあるサッカーです。
そこがチームとしての強みであり、予想どおりの結果になりやすい傾向になっている要因ではないでしょうか」
そのように分析したうえで、風間氏が決勝戦で注目するインテルの攻撃と守備のキープレイヤーをそれぞれ挙げてくれた。
「もちろんインテルの攻撃の調子を計るバロメーターは、ジェコにボールが収まるかどうかという点になります。ただ、相手のシティが唯一抱えている不安はディフェンスラインの背後を狙われるかたちなので、そういう意味で、キープレイヤーになると見ているのはラウタロでしょうね。
止まって受けるのがうまいジェコが"静"だとすれば、何度も動き直しをして背後も狙えるラウタロは"動"。インテルの2トップは、この"静"と"動"のコンビネーションが強みなので、たとえばジェコに一度当ててから、ラウタロが相手の背後を狙う攻撃パターンが予想できますし、それがシティ攻略のポイントになると思います。
一方、守備のキープレイヤーとしては、GKのアンドレ・オナナと、3バックのセンターを務めるフランチェスコ・アチェルビの2人を挙げたいと思います。
今シーズンのチャンピオンズリーグの準々決勝以降を見ていると、勝つチームのGKは目立った活躍をする傾向にあります。オナナもそのひとりで、実力的にも決勝で活躍する可能性は十分にあると思いますし、逆に、シティとの力の差を考えると、オナナが神がかり的な活躍を見せるようでないと、なかなか勝つのは難しいのではないでしょうか。
それと、インテルはどうしても相手に押し込まれる時間が長くなることが予想されるので、最終ラインはなるべく自分たちのゴールから離れたところに設定したい。シティには狭い場所でも高さや足元の技術を発揮できるアーリング・ハーランドがいるうえ、質の高いミドルシュートを狙える選手も多いので、自陣ペナルティーエリアで守ってばかりいるようでは厳しいゲーム展開になってしまいます。
そういう意味で、3バックの中央でコントロールする役割を担うアチェルビのパフォーマンスが重要になります。ハーランドをどのようにして抑えるかも注目されますが、なかなかひとりで抑えるのは難しいでしょうから、3人の連係がカギとなるでしょう」
【3本のシュートで勝てるかどうか】では、インテルが決勝戦でジャイアントキリングを起こすためには、何が最も重要になるのか? 最後に、風間氏が語ってくれた。
「どこでサッカーをするのかを設定するのも大事ですが、まずはできるだけ想定外をなくすことがポイントになるでしょう。つまり、あらゆるシチュエーションに対して準備をして、オナナを中心に神がかったパフォーマンを全員が見せられるかどうか。
それと、意外とシティは最初にビッグチャンスを相手に与えるケースが多いので、その最初のチャンスを生かすこと。もちろん、それを決めれば勝てるというわけではありませんが、決めれば勝利の可能性が生まれるはずです。
数字的には、相手に20本シュートを打たれても無失点に抑えつつ、3本のシュートで勝てるかどうか。客観的に見て、両チームの間にはそれぐらい差はあると思うので、インテルはそれくらいの覚悟を持って戦う必要があるでしょう」
シティ対インテルの決勝戦は、現地時間6月10日(土)の20時(日本時間11日早朝4時)にキックオフする。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。