山本由伸が今年「捉えられる」理由を星野伸之が分析 リリーフ陣は1、2点差のビハインドで課題も
星野伸之インタビュー 中編
オリックス投手陣について
(前編:吉田正尚が抜けたオリックス打線の新たな強み 中嶋聡監督は「もっとも苦労している年」>>)
パ・リーグの首位を走るオリックス。2年連続のリーグ優勝に大きく貢献したピッチャー陣は今年も健在だ(チーム防御率2.88はリーグ2位/6月7日時点、以下同)。長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、現状のオリックスのピッチャー陣を分析してもらった。
6月6日の巨人戦で5勝目を挙げたオリックスのエース・山本由伸
――まず、ここまでの先発ピッチャー陣をどう見ていますか?
星野伸之(以下:星野) 調子がいまひとつだった山粼福也の状態が上がって白星がつき始めましたし、何よりも山下舜平大の台頭が大きいです。山本由伸や宮城大弥ら"実績組"としても山下の存在は刺激になるでしょうし、負けられない気持ちがあるんじゃないでしょうか。
田嶋大樹はキャンプの時からすごく元気に投げていたので期待していましたが、大量失点する試合もあったりして少し心配です。ただ、得意の楽天戦を中心に投げさせて、結果的に勝ち星が先行しています。
山岡泰輔は白星がなかなかついていないのと、5、6回を投げたら交代かなという感じの使われ方。山本(5勝2敗、防御率1.82)は特例で抹消されていましたが、復帰した(5月30日の)広島戦で8回無失点のいい投球を見せました。そう考えていくと、先発ピッチャー陣はそれほど心配しなくてもいいかなと思います。
――今シーズンの山本投手はいかがですか?
星野 数字だけを見ればいいのですが、例年よりもバッターに捉えられるシーンがちょっと目につきます。ひとつ変わったのは、投球時のスライドステップ。キャンプで取り組む様子を見ましたが、踏み出すほうの足をすごく意識していました。もしかしたら、踏み出すほうの足を意識しすぎて、ちょっと突っ込み気味になっているのかもしれない。あと、バッターもタイミングを合わせやすいのかな、という感じもします。
以前のように足を上げて投げるように戻すのかなと思っていましたが、今もスライドステップで投げ続けていますね。ただ、本人が無駄な部分を削っていった形が今の形になっているんでしょう。理想を追求しているんだと思いますが、今まではバッターが当てるのさえ苦労していた鋭いカーブも、けっこう当てられているんですよね。
――踏み出すほうの足を意識して、突っ込み気味になることのデメリットは?
星野 突っ込んでしまうと、球離れが早くなってしまうんです。特に、ランナーがいる時のスライドステップがそう。どこかに「早く投げなきゃ」という気持ちがあるので、体が先に前にいって腕が遅れてくると、「もうボールを放さないと」という意識が働いてしまい、腕の振り幅が弱くなって力が入りません。
―― 一方、リリーフ陣は宇田川優希投手が不在ですが、山粼颯一郎投手が安定したピッチングを見せています。また、昨シーズンは一軍での登板がなかった漆原大晟投手は、6月7日の巨人戦では4失点したものの、それまでは12試合無失点と頑張っていますね。
星野 三振を取りたい時に取れる宇田川がいないのは痛いです。本田仁海にはもう少し 頑張ってほしいですね。球威はあるのですが、高めのボールが多いのが気になります。阿部翔太は昨シーズン投げた疲れなのか技術的な部分なのか、いまひとつです。
漆原も、一番いい状態まではいっていない印象です。彼の場合はもうひと押しなんですよ。バットをグッと押し込む力というかね。
そう考えると、ベテランの平野佳寿や比嘉幹貴、助っ人の(ジェイコブ・)ワゲスパックは別として、リリーフ陣はまだ横一線な印象です。言いかえれば、まだ平野に頼らなきゃいけない部分が多いということ。平野を見ていたら「こういうピッチングをしたら信頼を得られるんだ」というものがわかると思いますし、いい部分を見習ってほしいです。
――昨シーズンは、最初は先発だったワゲスパック投手がリリーフに転換されて胴上げ投手になりましたが、今シーズンもピッチャーの役割は流動的?
星野 手探りの状態だと思います。ブルペン捕手に聞いて「今日はいいですよ」となれば使って、そうでなければ使わない。使ってみて結果が出たら「本当だな、いける」という感じで起用しているんじゃないかなと。相当、入れ替えもあると思います。
ワゲスパックが先発で今ひとつだったのがクローザーでハマったように、先発がいいのか、リリーフがいいのかを見定めているピッチャーもいると思います。ワゲスパックがまたクローザーになる可能性もあると思いますし、本田も力があるので期待していますが......現段階では、すごく迷っていると思いますよ。
――現状のリリーフ陣で一番の課題は?
星野 ビハインドの展開で誰に投げさせるか、特に逆転がある程度見込める1、2点のビハインドをどう我慢できるかの場面で送り出すピッチャーに、「もう少し安定したピッチャーが出てきてくれないかな」と悩んでいると思います。
だから、当初は先発だった黒木優太をリリーフに回したのかなと。先発はある程度揃っているから、という理由もあったと思いますけどね。現状では本田、阿部、漆原、小木田敦也あたりへの期待があるのかもしれませんが、投げさせてみるとイマイチなので太鼓判を押せないんじゃないでしょうか。
――1、2点のビハインドで使うピッチャーは勝ちパターンでも使われたりしますし、起用する側も起用される側も大変ですね。
星野 僕もブルペンコーチをやっていた時に思いましたが、ビハインドの試合も勝ち試合も投げるとなると本当に大変なんです。用意しなければいけないシチュエーションが幅広くなってしまうので。
よくあるケースが、試合の序盤から用意していたのに、結局は投げるのが7回や8回になること。長い時間ブルペンにいなきゃいけないし、投げる回数も多くなるので......。最初は調子がよくても、いざ投げるとなった時に調子が悪いこともありました。
中嶋聡監督は就任1年目から、リリーフに2連投以上はさせていません。シーズン終盤の勝負どころでは3連投もあるかもしれませんが、基本的に2連投までです。ピッチャーがなんとか踏ん張って、そこから野手がワンチャンスを活かして逆転して勝ちを拾っていきたいですからね。
――チーム打率.258はリーグトップ。今シーズンは打線がつながっている印象です。
星野 そうですね。ビッグイニングを作るケースも例年より多いですし、ピッチャーには「どこかで打線がつながってくれる」という気持ちがあると思います。なので我慢ができるというか、ピッチングに粘りが出る。投打がかみ合っている要因でしょうね。
(後編:パ・リーグ新人王も期待できる若手ピッチャーたち オリの「新怪物」、西武のクローザー候補も>>)
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。