奥野一成のマネー&スポーツ講座(34)〜投資信託とは?(後)

 高校生向けの投資教育が、昨年度から家庭科の授業内で行なわれている。その教材には家計管理やライフプランに始まり、「使う・貯める・増やす・借りる」などが説明されている。

 集英高校で家庭科の授業を担当している奥野一成先生は、野球部の顧問でもある。その奥野先生から、練習の前後などに経済に関するさまざまな話を聞いているのが3年生の野球部女子マネージャー・佐々木由紀と新入部員の野球小僧・鈴木一郎だ。

 前回は「投資信託」についての説明を受けた。個人が個別の企業の株式に投資をするのではなく、多くの人から集めたお金をプロのファンドマネージャーが運用し、その投資効果の分配を受けるという投資信託。そのメリットは理解できたが、由紀と鈴木にはまだ聞きたいことがあった。

由紀「先生は『投資信託にもいろいろな種類があって、その数は約6000にもなる』とおっしゃっていたけど、個人がそのなかから選ぶのだとしたら、それってすごく大変なこと。どうやって選べばいいのかしら」
鈴木「あと、運用はプロのファンドマネージャーがしてくれるとしたら、僕らが教わってきた『投資の考え方』はどうなるんだろう。先生は『ムダになることは絶対にない』と言ってたけど......」

「ではもう少し投資信託についての話を続けようか」と、奥野先生が会話に加わってきた。

奥野「まず、鈴木君が感じたことについて説明するよ。鈴木君が言ったように、プロのファンドマネージャーが運用する投資信託を保有するなら、会社の業績や財務内容を自分で調べて、投資先を見つけるという手間を省くことができる。だから、投資信託で運用するならば、僕が前々から君たちに伝えてきた『投資の考え方』なんて必要ないじゃないか、という疑問を持ったというわけだね。

 でも、まったくそんなことはないよ。『投資の考え方』は君たちがこれから社会に出た時に、必ず役に立つものなんだ」

鈴木「たとえばどんな時ですか?」

【「投資の考え方」と投資信託】

奥野「たとえば鈴木君が将来、営業の仕事をすることになったとしよう。取引先と話をする時、相手に関する情報を持っているのと、まったく持っていないのとでは、契約に至るまでの成功確率が違ってくるはずだよね。

 じゃあ、どんな情報が必要なのかということなんだけど、それは相手の業績の推移だったり、財務内容だったりする。業績推移や財務情報は、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表に記載されているから、これらを読んで理解できるようにするための知識を、身につける必要がある。そして、これらの知識は、株式投資を通して身につけることができるんだ。

 ただし注意しなければならないのは、同じ株式投資でも、『チャート』といって株価の値動きを示したグラフを見るだけで予想をして投資をしているだけでは、いつまで経っても、こうした会計の知識は身につかないということ。社会人として、ビジネスの世界で身をたてていこうと思うなら、会社の業績や財務といった基本的な数字を見て、その会社の良し悪しを判断できる能力を持つことが大切になる。この能力は、とても大きな武器になるし、ビジネスにも投資にも両方で役に立つはずなんだ。

 社会人になったら、自分で自分の市場価値を上げる努力をしなければならない。会計の知識だけでなく、たとえば英語のスキルも高める必要がある。グローバルに戦えるビジネスパーソンになるには、たとえば海外のビジネススクールで学ぶことも大事かもしれない。

 やるべきこと、学ぶべきことはたくさんあるから、社会人になってしばらくは、自分で投資先を選んで資産を運用する時間をとるのは現実的には難しいと思うんだ。それでも資産運用は若いうちから始めたほうがいいので、そこは専門家に任せてしまうのが合理的だし、そのためにも投資信託という商品が存在する。『投資の考え方』を学ぶことと投資信託の関係については、そう理解すればいいんじゃないかな」

由紀「投資信託って約6000本もあるっておっしゃいましたよね。そもそもどんな種類があるんですか」

【投資信託を大まかに分類すると...】

奥野「投資信託には本当にたくさんの種類があって、分類方法もさまざまなんだ。だから種類を説明するのはとても難しいんだけど、本当にざっくりとした分け方で考えてみようか。

 まず投資対象では株式型と債券型に分類できる。次に国内型と海外型という地域別の分類。そして運用手法としてアクティブ型とインデックス型がある。

 これらの組合せによって、投資信託の商品分類が決まってくる。たとえば『国内株式型(アクティブ型)』とか、『海外債券型(インデックス型)』というようにね。もちろん、他にもさまざまな種類はあるんだけど、おおまかに言えば、投資対象・地域・運用手法という3つの要素の組合せが基本になるんだ。

 さらに言うと、株式型か債券型か、国内型か海外型か、という、いずれか一方を選んだうえでの組合せだけではなく、複数の資産や地域にバランスよく投資するタイプもあるんだ。たとえば国内株式、海外株式、国内債券、海外債券を一緒にして運用するタイプだね。このタイプの投資信託をバランス型って言うんだ」

鈴木君「投資対象と地域はなんとなくわかったけど、インデックスとアクティブって何ですか?」

奥野「これは運用手法の違いによる分け方なんだけど、インデックス型とは、日経225平均株価や東証株価指数(TOPIX)、NYダウのような、マーケット全体の値動きを示すインデックスとほぼ同じ運用成績を目指した運用手法で、アクティブ型はそのインデックスを上回るリターンを目指した運用手法のことだよ。

由紀「アクティブ型のほうがいい運用成績が期待できるってことですか」

奥野「ここはちょっと説明が必要かもしれないね。確かにアクティブ型は、インデックスを超えられるような運用成績を目指しているんだけど、だからといって常にそういう運用成績をあげられるかというと、そうではない。インデックスが10%値上がりしたのに、アクティブ運用の投資信託は5%しか値上がりしなかった、あるいは値下がりしてしまったということだって起こりうるんだ。

 また、アクティブ型のほうが、前回説明した『運用管理費用(信託報酬)』が高い傾向にあるんだ。

 アクティブ型の付加価値は、インデックスを超えるリターンが期待できることにあるから、購入する時はどの投資信託にするかを、自分で選ばなければならない。当然、運用会社や運用担当者が違えば、同じ投資対象だとしても、おのずと運用成績には差がついてくるからね。

 一方、たとえばTOPIX並みの成績を目指して運用されるインデックス型の投資信託は、運用会社や運用担当者が違ったとしても、ほぼTOPIX並みの運用成績に収れんされるから、どの運用会社のインデックス型投資信託がいいのか、という点であまり悩む必要がないんだよ」

鈴木「インデックス型の投資信託のほうが簡単そうですね」
由紀「ちなみに、アクティブ型はどうやって選んだらいいんですか?」

奥野「確かにインデックス型を選ぶのは簡単で、選ぶ基準は、低コストであることと、どれだけたくさんのお金を集めているか、つまり残高の大きなものを選んでおけば、そう間違いはない。

 でも、アクティブ型は投資信託ごとに運用方針が違うので、そこを確認するのも大事だ。たとえば、あるアクティブ型投資信託は『長期的に成長する企業を厳選する』、『売らなくていい企業を見極める』という運用方針を掲げているんだけど、それを見て、自分自身が手触り感を持って納得できるかどうか。そして納得できるのであれば、その投資信託を保有すればいいということになる。

 これはアクティブ型に限った話ではないんだけど、投資信託は日々、値動きがあって、時には大きく値下がりすることもあるでしょ。そうなった時、つい不安になって解約してしまう人がいるんだけど、投資信託は長く持つことでより効果が期待できる投資商品だから、下がった時でも持ち続けることが大事なんだよ。その時、やはり何か心の支えみたいなのが必要になってくる。だから、運用方針に共感できるかどうか、ということが大事になってくるんだ。

 自分が共感できる運用方針を持つ投資信託なら、多少、値下がりしたとしても、その運用方針を信じて持ち続けることができる。だから、まずは運用方針をしっかり見てみることだね」

【profile】
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は4000億を突破。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。