ナメクジとカタツムリ、どちらが進化してる?「冴えない」生き物の冴えた生存戦略〜注目の新書紹介〜
こんにちは、書評家の卯月 鮎です。生き物の世界は、「ナマケモノ」とか「アホウドリ」とか、身も蓋もないネーミングが意外と多いですよね。言葉や呼び名は時代に合わせて変わるもの。ボーイがウェイターになったり、アベックがカップルになったり、コール天がコーデュロイになったり……(コール天なんて今では「なんの天ぷら?」と思われそう笑)。
言い換えの理由はさまざまですが、ナマケモノも「ノンビリモノ」や「いやしモノ」なんて名前にするのもありかもしれません。
研究者が生き物の個性と進化に迫る
さて、今回紹介する新書は『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(稲垣栄洋・著/ちくまプリマー新書)です。著者の稲垣栄洋さんは植物学者で静岡大学大学院教授。専攻は雑草生態学。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っています。『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)など著書も多数です。
ナメクジとカタツムリ、人気者はカタツムリだけど……
人間からちょっと蔑まれている生き物たちを取り上げ、その生存戦略のすごさを解説していく本書。第1章は「『みっともない』生き物」として、冒頭にナメクジが取り上げられています。
確かに、マスコットキャラにもなるカタツムリとは違い、ナメクジは嫌われ気味ですよね。私もどちらかというカタツムリのほうに親しみが湧きます……。でも、殻があるカタツムリと殻がないナメクジはどちらが進化しているのか?
恐竜時代の軟体動物はアンモナイトのように殻がありましたが、イカやタコは殻を脱ぐことで進化を遂げたと稲垣さん。ナメクジもまた殻を捨てたことで、殻を作る炭酸カルシウムが不要となりその分早く成長できるようになりました。さらに、狭い隙間にも入りやすく、身を守るのに適した体に! なるほどナメクジは、カタツムリをシェイプアップした形態だったんですね。
また、この章にはアホウドリも紹介されています。アホウドリは別名を「バカドリ」ともいうそうです。その命名の由来は、地面の上をうまく歩けずあまりにも簡単に人間に捕まってしまうから。ただ、実はその分特化した別の能力があるのです! その能力が気になったら、ぜひ本書を手にしてみてください。
中高生向けのちくまプリマー新書ですが、身近な生き物でも知らないことばかりで大人でも勉強になります。生き物を馬鹿にしたり、笑ったりする方向性ではなく、その裏側の見えない“すごさ”に焦点を当てているのが本書の特徴。
それぞれの項目の最後は「そのままでいいんだよ」という稲垣さんの言葉で締めくくられ、すべての生き物を肯定するスタンスに心が温かくなります。スローロリスがゆっくり動くのは? ハエはなぜうるさく飛ぶ? ハゲワシがはげているメリットは? その生存戦略には感心させられます。私も個性を活かしてしっかりと生きねば!
【書籍紹介】
ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ
著:稲垣 栄洋
発行:筑摩書房
イモムシやタヌキに雑草……。いつも脇役のつまらない生き物たち。しかしその裏に冴え渡る生存戦略があった!ふしぎでかけがえのない、個性と進化の話。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。