シンガーソングライターとして活躍するSuperflyの越智志帆さん(39歳)が、初のエッセイ集『ドキュメンタリー』(新潮社刊)を刊行。アーティストとしてこれまで明かされることがなかった日常のことなどをつづり、ファンを中心に話題になっています。初のエッセイはどういった気持ちで望んだのか。制作に対しての思いを振り返り、話を伺いました。

越智志帆さんインタビュー。日常を文章で表現するということ

越智さんにとって初のエッセイ執筆となった本作。きっかけは出版社からのアプローチだったものの、いざ一冊にまとまったとき「書いてよかった」と感じたそう。筆を進める中で、歌詞を書くこととは違った魅力を、ご自身でも感じるようになりました。

●世間のイメージと日常にあるギャップ

「エッセイを書いてみませんかとお誘いを受けたとき、正直戸惑いましたが、これもご縁だなと思いトライしてみました。書き進めてからは、歌詞を書くのとは違って、エッセイには自由さがあるという感覚でした。書くほどに心が解き放たれ、純粋に楽しかったです。自分が自由に、素直になっていくのを、執筆中は感じていました」

“Superflyの越智志帆”といえば、多くの人がパワフルな歌声から、強くてハキハキとした女性をイメージすると思います。今まで越智さんはプライベートな側面をそこまで出して来なかった印象ですが、エッセイで素の自分をさらけ出すことに抵抗感はなかったのでしょうか。

「私には常々、世間の皆さんが抱いているイメージと、普段の自分にギャップがあるのは感じていました。アーティストイメージでよく言われる私はパワフルですが、普段はテンポがゆっくりで声も小さめです。こうしたギャップに引かれてしまったことも過去にありました。エッセイの中では、あえて素の自分を出すようにしています。文章で表現することで、今までのイメージと本来の自分との差を埋められたらいいなと意識しました」

●書いていて、考え方を再認識をすることも

エッセイでは、普段考えていることから、日常の食事のことまで等身大の越智さんがつづられています。中でも、もっとも書いていて印象に残ったエピソードが[答えのないこと]という題名のエッセイです。答えが出ていないこととは、旅。旅の楽しみ方は人それぞれですが、越智さんなりの旅に関する考え方を再認識できたそうです。

「あえて自分の中で答えが出ていないことを書いてみたんです。それが旅でした。私自身は、遠いところに旅をするのが怖いんですが、その理由はなんだろうとか、私らしい旅ってなにかなと考えながらペンを走らせてみました。最終的に『これだ!』って答えにはたどり着けなかったんですけどね(笑)。それでも旅はしているし、これからも怖がらずにいろいろ行ってみたいなって思えたのは大きかったです。そんなふうに日々の生活でも、<着地点が見えそうで見えないけれど、進んでみると見えてくるものがあるな>ってリンクした気がして、自分自身も気持ちがラクになったのを覚えています」

●すべてのものづくり経験は、歌に返ってくる

エッセイでは、こうしたプライベートな越智さんの表情を感じられる話が盛り込まれ、<アーティストSuperfly>のイメージとは違った魅力を感じることができます。最後に、歌手活動15周年を経て、次に意識するものについて教えてもらいました。

「じつは今、ものづくりが本当に楽しいんです。歌詞を書くのも昔は苦行だったこともあったんですが、エッセイをつづる経験を通して、言葉を生み出す楽しさを感じています。また、日常をつづることで、生きるということへの感度も敏感になってきて、それが創作にもつながっているように思います。今がいちばんなにかをつくっていて楽しいと思えます。よく『歳を重ねると脂が乗る』って言いますが、まさにその通りだなって。

これからも音楽作品はいっぱいつくりたいですし、エッセイみたいな普段の自分ではやらなかったことも、拒否せずやってみようと思っています。本業以外の活動も、最終的には本業に返ってくるなと今回の執筆を通じて感じました。だから今後もオープンな気持ちで、いろいろとやっていきながら音楽制作も質を変えていけたらと思います」

 

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