「シニア世代のファッショニスタ」として話題の女優・柏木由紀子さん(75歳)。先日、初めてのファッションブック『柏木由紀子ファッションクローゼット』(扶桑社刊)が発売。こちらは発売前重版がかかるほど大好評。そんな柏木さんのスペシャルインタビューを3回に渡ってお届けします。3回目の今回は年齢を重ねてからの暮らし方についてお話しいただきます。

夫と死別、子どもたちの独立…。柏木由紀子さんの今の暮らし方

――年齢を重ねると、新しい人間関係をつくるのは難しくなってきますよね。お嬢さんたちに「友達をつくった方がいいよ」「趣味をもったほうがいいよ」と背中を押されてのお仲間づくり、どんなふうにされたのですか?

【写真】おしゃれ!柏木さんのファッション

柏木:私はもともと自分から進んでなにかをやるというタイプではないし、お客様をうちに招いておもてなしするといったことに積極的なほうでもなく、友達や仲間をつくるのは決して得意ではないんです。

とくに結婚してからは、主人が夫であり友達でもある、というような存在だったので、2人で過ごすことにすっかり満たされていて、たまに昔のお友達に会えればもう十分という気持ちで。だから、人間関係を広げる努力をしてこなかったんです。それだけに、娘たちの言葉にはハッとさせられました。

とはいえ、まったく新しいところへ入っていくのはちょっと不安です。なので最初に向かったのは、主人と一緒に通っていたテニスクラブ。主人との思い出がありすぎて、一時は前を通ることもできなかった場所です。

久しぶりにテニスで汗を流して…。うーん、そうですね。以前のように「あー、すごく楽しかった!」というのとは、ちょっと違いましたね。

でも、かなりご無沙汰の私を、みなさん、ものすごく温かく迎えてくださって。ああ、私たちは優しくていい方たちに囲まれてきたんだなあと改めて実感しました。とても居心地がよく、それからは少しずつ1人で参加するようになりました。

人間関係を新しくつくっていくって、どうしても時間がかかりますよね。ただ、私の場合、幸運なことにおうちを建て替えたことが、お友達の輪をぐんと広げるきっかけになりました。

●夫が一生懸命働いて買った家を守るのが使命に

――家族4人の思い出の家を建て替えたのですね。

柏木:子どもたちが巣立ち、1人になったら、コンパクトなおうちに住み替えることを考えますよね。でも、私はこれまで暮らしてきた家をどうしても守りたかったんです。坂本九が一生懸命働いて買ったこの家を守るのは、私の使命だと思いました。

とはいえ、古い家で間取りも設備もとても使いにくかったので、手を入れないといけません。さて、リフォームか、建て替えか。

決断にとっても時間のかかる私は、なんと10年間も悩み、2004年にようやく自宅を立て替えたのです。

外観は以前の家をほぼそのまま生かし、内装も主人と暮らした家のイメージをできるだけ残しながら、主人が好きそうな素材を選びました。そしてお仏壇はリビングの中心、いつも見える所へ。

1階はそれまであった和室を取り払い、広々としたリビングに。そして、キッチンはリビングに向かって立つことのできる、アイランドキッチンに。

将来娘たちがそれぞれの家族を連れて楽しく集まれたら、坂本九のギャラリー的な要素が残せたら、古くからのお友達やこれから出会うみなさんに気軽に来ていただける場所がつくれたら――。

そんな思いを実現すべく、時間もエネルギーも注ぎ込んで、自分でも信じられないくらいの行動力を発揮して、ついに希望通りの家が完成。長年の夢が形になったときの感激は忘れられません。

●友達、家族が集まる家に

――家が人を呼び込んだのですね。

柏木:その前に、家が人を変えちゃったんです。

じつは私、それまではお掃除はあまり好きではなかったのですが、この家の主だと思うと家がかわいくて、せっせとお掃除に励み、パティオ(中庭)を掃き清め、花壇のお花を手入れして。インスタグラムにはおでかけの記録ばかりを残しているので、みなさんに毎日出歩いていると驚かれてしまうのですが、午前中は掃除や洗濯などの家事をすませ、せっせとお庭仕事をしているんですよ(笑)。

そうこうしているうちに、だんだんとお客様が集まるようになってきたのです。これまでのキッチンは昔ながらの造りで、いちばん奥にあったんです。お客様を招いたとしても、キッチンに立っているとどうしても孤立してしまう場所だったんですよね。そこをアイランド型に変えたことも大きかったかもしれません。

学生時代のお友達、犬友のみなさん、テニスのお友達、お仕事での友人。それから、芸能界でのお友達。

コロナでしばらくお休みしていましたが、毎年バラが美しく咲く季節には、1日おきくらいにお客様をお呼びして、おいしいお菓子を買ってきて、小さなお茶会を開いています。

そうそう、小学生のころからの同級生グループに麻雀好きな人がいたことが発端で、わが家に集まって麻雀大会をするのも恒例になりました。麻雀卓をレンタルして十数名の麻雀大会は、ゴルフコンペみたいですごく楽しいんですよ。このときに私がふるまう「まかないごはん」も好評なんです(笑)。

わが家での集まりを楽しみにしてくださる方もいらしゃるし、友達が友達を呼んできておつき合いの輪も広がるし、おうちを建て替えて本当によかったと思います。

――花子さんも舞子さんも結婚され、お孫さんにも恵まれて。

柏木:はい、もう世のみなさまと同じく、孫はかわいくてたまりません。

娘たちとはいつの間にか、友達みたいな関係になりました。洋服の最近の着こなし方や新しい化粧品の情報を聞いたり、スマホの使い方を教えてもらったり。おいしそうなお店があると連れだって出かけたり。

娘たちと一緒にいると、「ああ、幸せだな」と心から思っている自分に気づきます。どん底も経験して、悲しいこともたくさんあったけれど、今は笑って暮らせています。こんなにも楽しくこんなにも幸せ。

そして、まさかの70代になって、大好きだったおしゃれをご紹介する本を出すという幸運も舞い込みました。これからも、おしゃれを味方に、元気に楽しく生きていきたいと思います。

 

すべて私物、セルフコーディネートで77の着こなしを紹介している、柏木由紀子さんの新刊『ファッションクローゼット』(扶桑社刊)は発売中。