飲食店の「深夜料金」、ファミレスにあって牛丼店にない理由は? 専門家に聞く
仕事が終わった後にファミリーレストランや牛丼店、立ち食いそば店などで夕食を取る人は多いのではないでしょうか。これらの店舗は夜遅い時間まで営業していることが多く、非常に便利です。
ところで、ファミリーレストランの場合、午後10時以降に来店して料理を注文すると、会計時に料理代金とは別に深夜料金を請求されるのが一般的ですが、24時間営業の牛丼店や立ち食いそば店などでは深夜料金を請求されることはありません。深夜料金を請求する飲食店と請求しない飲食店があるのはなぜでしょうか。飲食店専門経営コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。
従業員の人件費が影響
Q.ファミリーレストランでは、午後10時以降に来店して料理を注文した場合、会計時に料理代金とは別に深夜料金を請求されるのが一般的です。考えられる理由について、教えてください。
成田さん「一番の理由は、深夜営業のコストが高いことです。そもそも、ファミリーレストランの主要なターゲットは家族連れの客で、ランチやディナーの時間帯に収益が上げられるように営業しています。また、スマホやSNSの普及の影響で、コミュニケーションの場として深夜にファミリーレストランを利用する人が少なくなったこともあり、深夜は通常の時間帯と比較して、売り上げが少ない傾向にあります。
一方、労働基準法では深夜労働の賃金を25%上乗せする規定があり、深夜は販売管理費が高くなります。深夜料金を請求するのか、深夜料金を設定せずに深夜帯の減収分を通常メニューの価格に上乗せするなどして収支を調整するのかは、各企業の経営判断になるかと思います」
Q.ファミリーレストランとは違い、24時間営業の牛丼店や立ち食いそば店では、深夜料金を請求されることはありませんが、なぜでしょうか。
成田さん「24時間営業の牛丼店や立ち食いそば店などは、自動券売機を設置したり、従業員が1人ですべての業務を行う、いわゆる『ワンオペ』が可能なように客席を配置したりするなど、必要最低限の人数で店舗を運営できるように工夫しているため、もともと販売管理費に対する人件費の割合は少ない傾向にあります。
また、牛丼店や立ち食いそば店は、深夜や早朝に働いている人が入店しやすいほか、飲み会帰りの人が利用するケースも多く、ファミリーレストランと比較すると深夜帯の利用率は高いです。牛丼店や立ち食いそば店の運営企業は、これらの状況を総合的に判断して、深夜料金を設定していないと考えられます」
Q.今後、24時間営業の牛丼店や立ち食いそば店などが深夜料金を設定した場合、どうなるのでしょうか。
成田さん「例えば、牛丼店や立ち食いそば店が深夜料金を設定した場合、深夜料金分の売り上げが増加するメリットよりも、深夜料金による割高感が影響し、一般的に『安価』とされるブランドイメージが崩壊するデメリットの方が大きいと想定されます。実際に、飲食店の中には、ブランドイメージの維持を優先するため、深夜帯の営業を廃止した店もあります」
Q.このほか、大手ファストフード店や大手カフェチェーン店の中には、午後10時以降も営業を続ける店がありますが、牛丼店や立ち食いそば店と同様、深夜料金を請求されることはありません。考えられる理由について、教えてください。
成田さん「これまでにも、大手ファストフード店や大手カフェチェーン店で深夜料金の導入が検討されたことは何度もありましたが、見送られました。例えば、深夜にほとんど利益が出なかったとしても、『あの店なら24時間営業している』というブランドイメージが定着すると、深夜帯だけでなく、その前後の時間帯の売り上げも伸びていきます。
午後10時以降は人件費が高くなるため、収益が悪くなるのは事実ですが、深夜営業を継続する企業は、深夜帯だけで損益を見ず、日中の時間帯も含めた全体で収益を上げられるように経営をしていると考えられます」