密漁船は逃がさない! 韋駄天巡視艇「たかつき」引き渡し 守備範囲は瀬戸内・愛媛
1番船は日本海での漁業監視などを目的に誕生。
ウォータージェット推進で最大速度は36ノット以上
海上保安庁は2023年1月26日(木)、大型巡視艇「たかつき」(100総トン)の引き渡し式を墨田川造船(東京都江東区)で実施しました。配備先は愛媛県の宇和島海上保安部(第六管区)。主武装として12.7mm多銃身機銃を備えるとともに、海上において犯罪や船舶遭難などが発生した際には、いち早く現場に駆け付けられるよう36ノット(約66.67km/h)以上の高速で疾走できる性能を持っています。さらに新型コロナウイルスの感染拡大などを踏まえ、感染症患者の搬送を想定した隔離区画も設けられているのが特徴です。
東京都江東区の墨田川造船で行われた巡視艇「たかつき」の引き渡し式(深水千翔撮影)。
「たかつき」は1999(平成11)年12月に1番船が竣工した、はやぐも型巡視艇(30メートル型PC)の25番船です。はやぐも型は新日韓漁業協定の締結を受けて、両国の中間線付近での監視を行うため、まず3隻が1999(平成11)年から2003(平成15)年にかけて建造されました。
長さは32m、幅は6.5m。違法操業を行う漁船などの高速化に対応するため、ウォータージェット推進器2基を搭載し、速力の向上を大幅に図っています。
運用の結果、小型ながら良好な性能と高い汎用性が評価され、2008(平成20)年以降、老朽船を置き換えるべく大量建造が行われてきました。
なお、はやぐも型はその優秀性から日本だけでなく海外でも活躍しています。国際協力機構(JICA)が設けた無償資金協力「海上安全能力向上計画」の一環として、墨田川造船で建造された同型船2隻が、2018(平成30)年にスリランカ沿岸警備庁に引き渡されています。
離島の多い瀬戸内海での急患輸送も想定
現在、海上保安庁は密輸・密航などの海上犯罪取り締まりや救難・防災などといった業務基盤の充実・強化を図るため、巡視艇の代替整備を進めています。今回、新造された「たかつき」も、1992(平成4)年に竣工した巡視船「たかつき」(114総トン)の代替であり、2020年度補正予算に計上された5億円で建造されています。
同船は従来のはやぐも型に比べて、船内のレイアウト変更や情報伝達能力の強化といったマイナーチェンジが図られていますが、なかでもコロナ禍後に計画された新造船ということで、船内に「感染症患者搬送区画」を設置しているのが特徴となっています。
船首甲板上に整列した新造巡視艇「たかつき」の乗組員(深水千翔撮影)。
宇和島海上保安部の担任水域である宇和海は、大島や戸島といった離島が点在しており、緊急時には設備が整った病院がある地点へ患者を運ぶ急患輸送に対応する設備が求められていました。加えて、周辺を航行する船舶で新型コロナなどの感染者が発生し、陸上の医療機関への搬送が必要になった場合にも対処することが想定されています。
新設された「感染症患者搬送区画」では、巡視艇と海上保安官への影響を最小限に抑えるため、患者を運び入れる区画向けに専用の空調と水密扉を整備。室内の気圧を外より低くした陰圧室としての機能を持たせることで、船内でのウイルス拡散を防ぐようになっています。なお、隔離区画は船内を経由せずに外から直接、感染症患者を運び込める構造となっており、患者が船内の他の区画に移動しなくても済む構造となっていました。
ほかにも、目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備える12.7mm多銃身機銃や、昼夜を問わない監視・採証と捜索救助を可能にする採証機能付き探照灯、最新型の複合型ゴムボートなどを搭載。停船命令等表示装置もフルカラーのものを両舷に設置しています。
引き渡しに際して海上保安庁長官の訓示を代読した、第三管区海上保安本部の江原千晶総務部長は、「乗組員諸君は、我が国周辺海域を巡る情勢が緊迫する中で、海上保安庁に課された任務の重要性を改めて認識し、本船の優れた能力を遺憾なく発揮できるよう研鑽に務めると共に、国民の負託に存分にこたえられるよう業務にまい進してほしい」と述べました。