(※写真はイメージです/PIXTA)

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会社で問題行動を起こす「モンスター社員」に頭を悩ませている経営者は少なくありません。一度雇用した従業員を解雇することは簡単ではなく、正当な手順を踏まなければ不当解雇として相手側から訴えられてしまうリスクもあります。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、問題社員の解雇について柏真人弁護士に解説していただきました。

一度も納期を守らないモンスター社員をクビにしたい

会社を経営している相談者のTさんは「とある従業員をクビにしたい」と、ココナラ法律相談「法律Q&A」に相談しました。

その従業員Sさんは一度も仕事の納期を守らず、会社にかなりの迷惑をかけてきました。最近ではSさんのせいで300万円の契約が無効になり、金銭的な損害が発生しています。

Tさんは進捗状況を把握するために、Sさんと毎日コミュニケーションをとっていましたが、「間に合うから大丈夫」などと言い、陰でゲームをしていました。

また相談者は他の従業員と連携できる環境を作り、私自身も「手伝うことがあれば何でもする」と声をかけていますが、「手伝わなくていい、一人でできる」と言われ、他の従業員と連携を取ることを拒否されています。

このような状況ですが、Sさんには反省の色が全く窺えません。TさんはいつまでもSさんのせいで金銭的損害や仕事の遅延が生じるのは耐えられないため、クビにしたいと思っているそうです。

このような従業員を解雇するための合理的な理由とは、どのようなものがあるのでしょうか。

不当解雇で訴えられることも…「お前はクビだ!」は慎重に

ご相談者様が抱えているような、モンスター社員がいる場合に一番心掛けておかなければならないことは、あくまでも冷静に対処するということです。

つい感情的になる気持ちもわかりますが、感情的な対応をしてしまって、パワハラで訴えられたり、解雇はしたけれど不当解雇で訴えられたりしたら元も子もありません。ご相談者様は、この従業員をクビ=解雇したいとお考えのようですが、解雇はあくまで最後の手段と考えるべきです。

日本において、解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条:いわゆる解雇権濫用法理)とされており、解雇が認められるハードルはかなり高いからです。

今回のご相談のような事例でも、一見すると当然に解雇が認められそうですが、いざ不当解雇として裁判所に訴えられると、勝訴できるかどうか(=解雇が有効と判断されること)の見通しはとても難しいものとなります。

会社側が解雇を考えるとき、まずは自分の会社の就業規則を確認し、解雇事由にあたる根拠があるかどうかをチェックしなければなりません。その後は、冷静に証拠を集めることから始めます。

一般的に就業規則には、解雇事由として「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員としての職責を果たしえない時」(厚生労働省のモデル就業規則参照)などといった規則が定められていることが多いと思いますので、今回の相談でもそれにあたるような行動を証拠化していく必要があります。

ご相談者様は、問題の従業員が「陰でゲームをしているようだ」とおっしゃっていますが、それもきちんと証拠化しなければ意味がありません。単に、ゲームをしている様子を押さえるだけではなく、一日の就業時間のうちどれくらいゲームに費やしているのか、1ヵ月にするとどうか、など会社の業務に与える影響を調査し証拠化すべきです。

本相談のモンスター社員のように、会社が期待したような能力もなく改善意欲もないような社員を解雇する場合に一番重要なことは、会社が「能力改善のための十分な指導」を解雇前に施したかどうかということです。

裁判所は、会社側が能力改善のための十分な指導をきちんとおこなったのかどうか、を厳格に判断する傾向があるからです。

ご相談者様は、問題の社員とコミュニケーションを取ろうと頑張っておられるようですが、「解雇」を念頭に置いた場合には十分とは言えず、指導担当者を決めて指導したり、指導内容がわかるように文書化したりして「能力改善のための十分な指導」を十分に行う必要があるでしょう。場合によっては配置転換などが必要とされることもあります。

その他、細かい点を挙げればきりがありませんが、念には念を入れて解雇の準備を行うことをお勧めします。

その上で、まずは退職勧奨を行い、それでも話し合いがうまくいかなかった場合には、これまで集めてきた証拠を使っていよいよ最終手段としての解雇の手続きに進むべきです。

普段から解雇に備えた対策をしておきましょう

日本では、いわゆる解雇権濫用法理により、一度雇用した従業員を解雇することはリスクを伴います。

一番のリスクは、不当解雇として訴訟を起こされ、敗訴して、解雇が無効となり、多額の金銭の支払いを命じられたあげく、当該社員の職場復帰まで命じられる…というものでしょう。

解雇できる場合が厳しく制限されているため、敗訴リスクも高くなります。解雇は最後の手段と心得、まずは退職勧奨を検討される必要があります。

なお、退職勧奨が退職強要ととられないよう、あくまでも話し合いだという姿勢を崩さないことも重要です。

強引な解雇を避けるためには、まずは採用のところでミスマッチを避けるということも大切です。採用面接等ですべてを見抜くのは困難でしょうから、いわゆる試用期間のところで会社が求める人材なのかどうかを判断する必要があります。(ただし、試用期間中の解雇でも、解雇権濫用法理が働きますから安易な解雇は厳禁です。)

厚生労働省のモデル就業規則は「試用期間」について、以下のように記載しています。

第〇条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から○か月間を試用期間とする。  

2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。  

3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第〇条第〇項に定める手続きによって行う。 

4 試用期間は、勤続年数に通算する。

しかし、この就業規則によると試用期間を短縮することはできても、「延長」することはできません。

採用のミスマッチを避けるという点では、試用期間を「延長」できるような就業規則を定めておくべきだと言えます。このような就業規則を定めておけば、本採用すべきか未だ見極めがつかない…という場合に、試用期間を延長しさらに適性を見極めることができるのです。

試用期間にも解雇権濫用法理の適用があると述べましたが、本採用の場合と比べて緩やかに判断されますので、試用期間を延長できることには大きな意味があります。従業員の方にとっても、自分に適性のない職場でストレスフルに働くよりは、次の自分に合った職場を見つけて働く方がよっぽど幸せなはずです。

このように採用のミスマッチを避けることは、労使双方にとってメリットがあると考えます。

その他、解雇に備えるという観点で見た場合には、就業規則の服務規律の項目などを工夫したりすると良い場合もあります。多くの中小企業の方々の就業規則は、厚生労働省のモデル就業規則、をほぼそのまま使っておられることが多いと思います。

ただ、これまでお話ししてきたように、少しの工夫で、とても使い勝手の良いものに改良することができます。本当は、個々の企業がそれぞれの就労実態に合った形で、就業規則をアップデートしていくといざという時の備えになり有用です。

弁護士(顧問弁護士がいる時には顧問弁護士)や社労士などの専門家に、自社の就業規則について一度相談されると良いと思います。