小田原市とNTTe-Sports、NTT東日本は、eスポーツを活用した新たな観光誘客施策「小田原eスポーツ」を発表しました。その「出陣式」が11月12日に小田原城址公園にて開催されたので、取材に行ってきました。

小田原城址公園にて「小田原eスポーツ」の出陣式とアンバサダーの就任発表が行われました

小田原市には、小田原城に関する歴史遺産、かまぼこや地魚などの食文化、小田原提灯、鋳物などの伝統産業など、さまざまな観光資源が存在します。しかし、それらを認知し、魅力と感じている層は40代より上の世代。若年層には観光地としてのイメージに乏しいという結果も出ています。

そこで、若年層に向けた観光資材として魅力あるコンテンツを用いることを考え、eスポーツをとりあえげることになりました。すでに2022年2月に開催したプレイベント「eスポーツ小田原の陣〜ぷよぷよ体験会〜」では、ファミリー層を中心に多くの来場者を集めています。参加した人たちからは好印象、好評を得ており、eスポーツが根付く土壌ができつつあります。

出陣式に登壇する守屋輝彦小田原市長

若年層にとって、小田原は観光地としてのイメージは弱く、娯楽がないとの意見

2月に開催した「ぷよぷよ体験会」は、プロゲーマーのlive選手を迎えて行われました

eスポーツという新たなコンテンツを得たことで、すでにある歴史観光をより認知してもらいつつ、それらを融合することで、新たな小田原の観光コンテンツを創出する予定です。そのため、単純にeスポーツ大会を開くだけでなく、教育、起業、福祉など、さまざまな観点からeスポーツを絡め、浸透させていく必要があるでしょう。

小田原の持つ歴史観光とeスポーツの融合により、新たなコンテンツの創出を目指します

その施策の1つが、eスポーツ練習場の無料開放。JR小田原駅周辺にある再開発事業で新たにオープンした「ミナカ小田原」内にある「おだわらイノベーションラボ」にゲーミングPCを設置し、毎週水曜日の16〜20時の間、高校生以上を対象に無料開放する予定です。

高価で高性能なゲーミングPCに触れる機会を小田原市民に提供するほか、月1回の頻度でeスポーツの体験会や交流会、講演会なども開催していくとのことです。

小田原駅再開発によってオープンしたばかりの「ミナカ小田原」内にある「おだわらイノベーションラボ」。この一角にゲーミングPCを設置する予定です

2023年3月には、eスポーツイベントも開催。今回の出陣式でも体験会が開催された『ポケモンユナイト』を使用し、自由参加型eスポーツ大会と事前申込制トーナメント大会の2つを予定しています。会場は小田原城址公園二の丸広場および洞門広場。まさにeスポーツと歴史観光の融合を目指した大会と言えます。

また、eスポーツではありませんが、ゲームを題材としたイベントとして、歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』とコラボしたデジタルスタンプラリーを実施予定。2023年2月ごろから約1カ月間行われ、スタンプラリーの成果に応じたプレゼントを用意します。これも歴史遺産とゲームが融合したおもしろい企画でしょう。

『信長の野望』とコラボしたデジタルスタンプラリーを開催予定

小田原城址公園で『ポケモンユナイト』の大会を開催。初心者の参加が見込まれる「自由参加型」とガチ勢の参加が見込まれる「事前申込制トーナメント」を行います

中長期的な展望により、小田原eスポーツの定着を目指していきます

出陣式では、小田原eスポーツのアンバサダーの発表もありました。アンバサダーに就任したのは、TIMの2人。『ポケットモンスター』を題材にした情報番組「ポケモン☆サンデー」のMCをつとめており、『ポケモン』とは縁があります。今回行われた体験会や今後予定されているeスポーツ大会では、『ポケモンユナイト』を使用しているので、親和性の高い2人と言えるでしょう。

『ポケモン』シリーズをプレイしていた人にはお馴染みのTIM。「祝」の人文字で出陣式を盛り立てます

また、出陣式では小田原市長とチームを組み、市役所員と対戦するエキシビションマッチも開催されました。eスポーツキャスターのコーリー氏が実況を担当。コーリー氏は、そのあと行われた体験会でも実況を行い、参加した子どもたちのプレイを盛り上げていました。プロのキャスターに実況してもらうのは、いい経験になったのではないでしょうか。

TIM市長チームと職員チームによるエキシビションマッチ。城下で『ポケモンユナイト』をプレイする姿はなかなか感慨深いものがあります

実況はコーリー氏が担当。体験会でもMCや実況を担当していました

出陣式の前後で行われていた『ポケモンユナイト』によるeスポーツ体験会

出陣式終了後、小田原市経済部観光課長事務取扱の飯山淳二氏に小田原eスポーツの目的や今後の活動について話を聞いてきました。

――小田原市でeスポーツを観光で活用することを企画したのはいつごろでしょうか。

飯山淳二氏(以下、飯山):3年以上前から企画は立ち上がっていました。同じ神奈川県である横須賀市がちょうどそのころからeスポーツ事業を立ち上げていまして、先にやられてしまったという感じでした。

――観光としてeスポーツを取り上げた意図はなんでしょうか。

飯山:小田原は歴史文化の観光イメージが強いと認識していました。しかし、アンケートをとってみると、そのイメージを持っているのは40代以上がほとんど。10代、20代の若年層は、歴史以前に、そもそも「小田原に観光地としてのイメージがない」という結果が出てしまい、ちょっとショックでした。

そこで、今後は観光地として、若年層にもアピールしていかなくてはならないと考え、eスポーツに注目したわけです。

――eスポーツは地方創生の目的で扱われることも多いのですが、それで集客するにはほかとの差別化も必要になってくると思います。小田原としてはどのような施策があるのでしょうか。

飯山:たしかに、どこもかしこもやりはじめてしまえば、特色はなく、観光資源としての魅力は薄くなるとは思います。ただ現状ではまだそこまで多くの自治体が手を出しているわけではないので、早い内に手を出すアドバンテージがあるのではないでしょうか。

行政が率先してやっているところはまだ少ないと思います。特に関東近辺ではそうですね。あとは、観光資源としての話をしていますが、それだけで考えているわけではありません。教育や福祉の分野での展開も考えています。

今回の出陣式も小田原城址公園で行いました。すでにある小田原の歴史遺産や観光資源はeスポーツと大きく絡めていこうと考えています。ここは行政が率先して行っている強みですね。観光地としての小田原を知っていただいている人たちでも、駅前の再開発や小田原城の大改修など、新しい試みは知らないかもしれません。eスポーツきっかけでそういったものを知っていただき、もともとある観光資源をより活用できるようにしていきたいですね。

大改修した小田原城

2020年に再開発されたミナカ小田原。城下町の武家屋敷とビルが融合した小田原の新名所

――私自身、10年ぶりの小田原歴訪でしたが、駅前の再開発は訪れて初めて知りました。

飯山:eスポーツをやってみようと発表したら、さまざまなところから協力したいと声をかけていただきました。行政だけでなく、観光地としての価値を高めたいと考えている人は多いので、eスポーツがきっかけとなればいいと思っています。

あとは、県の教育委員会とかにも声をかけていて、高校にeスポーツ部を作りたいと働きかけています。私学ではこういったものは作りやすいと思いますが、公立高校にも作れるようにバックアップをしていきたいですね。

――再開発した駅前のビルの一角を開放してeスポーツに触れる機会を作るとのことですが、ほかにも計画はあるのでしょうか。

飯山:観光客だけでなく、市民が楽しめる、交流できる場を作っていきたいと思っています。先に出た横須賀市もeスポーツに積極的ですし、同じ神奈川県として交流したり協力したりできればいいですね。

――ありがとうございました。

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一定の年齢を超えた人であれば、小田原は言わずと知れた観光地。おそらくほかの観光地を目指す地方都市からしてみれば、うらやましい存在でしょう。そんな観光資源のある場所ですら、コロナ禍や若年層へのリーチに苦慮しています。

それを解消するのが1つの手段として、eスポーツはポテンシャルを秘めていると思われます。若者と既存の観光客を分断するのではなく、すでにある観光資源を活用してeスポーツを展開するのも、小田原ならではの優位点です。

観光地としての資産を出し惜しみせず、全振りできるのは、観光地としてのノウハウと知見の蓄積、観光を生業とすることの難しさを知っているからこそなのかもしれません。

著者 : 岡安学 おかやすまなぶ eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)。@digiyas この著者の記事一覧はこちら