福田正博 フットボール原論

■最終節までもつれたJ1の優勝争いは、横浜F・マリノスが制した。優勝の要因となった選手を入れ替えながら戦うターンオーバーだが、「実はやりきるのは相当難しい」と福田正博氏。そして、その多くの選手が活躍したスタイルに、今季はMVPやベストイレブンを決めるのが難しいと指摘した。

実は相当に難しいターンオーバー

 横浜F・マリノスが、3年ぶり5度目の優勝を決めた。

 今季の横浜FMの特徴は、ほとんどのポジションで選手を入れ替えながら戦ったことだ。これは選手層の厚さがあればこそ為せる業ではある。だが、その一言で終わらせられないほどの難しさがあるのも見逃してはいけない。


選手層の厚さを生かしきって、2022年のJ1を制した横浜F・マリノス

 なぜなら選手はコンピューターゲームのキャラクターと違って、感情を持っているからだ。調子のいい選手が起用されなかったり、試合途中で交代させられたりしたら、普通なら選手は「なぜ俺が使われないんだ!」と不満をあらわにするものだ。

 FWのアンデルソン・ロペスとレオ・セアラのケースは、顕著な例だろう。アンデルソン・ロペスは今季5月21日のアビスパ福岡戦で、ボールに関係のないところでツバを吐いたことで6試合の出場停止になった。福岡戦を含めたそれまでの14試合で7得点を挙げていたFWを、6試合も欠く一大事にあって、スタメン起用されたのがレオ・セアラだった。

 レオ・セアラはその6試合で6ゴールを決めた。続くセレッソ大阪戦も2得点、次のサガン鳥栖戦でも1得点を決めたが、両試合ともアンデルソン・ロペスと途中交代してベンチに下がった。そして、次戦の鹿島アントラーズ戦からはベンチスタートに戻ったのだ。

 普通に考えれば、巡ってきたチャンスに結果を出したのにベンチスタートに舞い戻るのは、その後のモチベーションに大きく影響するものだ。しかし、レオ・セアラはその後も毎試合しっかりと途中出場の役割をまっとうしているのだ。

 このふたりのケースにとどまらず、ほとんどのポジションで選手が併用されるのだが、それでも選手たちが納得した顔でピッチを去っている。今シーズンは横浜FMの試合を数多く見てきたが、不満げにピッチを去るシーンはなく、選手交代でも笑顔でピッチを後にするシーンが続き、これがとても印象的だった。

 どんな手法でチームマネジメントをしているのかは窺い知れないが、2チーム分の戦力を持ってシーズンを戦い抜くのは実は相当に難しいこと。それを可能にしたケビン・マスカット監督をはじめとするコーチ陣、クラブスタッフの手腕は計り知れないものがある。

MVPやベストイレブンを決めるのは難しい

 その余波として今シーズンはMVPやベストイレブンを決めるのが、相当頭を悩ます作業になるはずだ。

 2020年シーズンは、優勝した川崎フロンターレの選手ではなく、得点王になったオルンガ(当時柏レイソル)が選ばれたが、私はMVPはよほどのことがない限り、優勝チームから選ばれるべきだと考えている。その点で今シーズンは得点王争いも低調なため、横浜FMからMVPが選出されると思うが、では、誰かとなると選手が入れ替わりで起用されるので困ってしまうのだ。

 出場時間で考えれば、MVP候補は2人に絞られる。ひとりはGKの高丘陽平。リーグ戦フル出場はチーム唯一で、失点数でもリーグ最少失点と結果を残している。もうひとりが岩田智輝だ。出場時間は高丘に次ぐ多さで、フィールドプレーヤーでは唯一2500分を超えた。

 個人的な気持ちとしては水沼宏太をMVPに選びたいところだが、1シーズンを通したチームへの貢献度という点で考えれば、やはり岩田が受賞に値するのではないかと思う。チーム事情から守備的MFとセンターバックの両方で起用され、存在感を発揮したのは大きいからだ。

 ベストイレブンは過去を振り返れば、ゴールをよく決める選手から選ばれる傾向がある。今シーズンは得点王争いで前半戦を10ゴールでトップを走った上田綺世が7月に海外移籍。それを抜いた選手は7人いるが、トップはチアゴ・サンタナ(清水エスパルス)の14ゴール。これはあまりに寂しい数字だ。

 2019シーズンに横浜FMが優勝し、得点王を仲川輝人とマルコス・ジュニオールが15得点で分け合った。あの年は同一チームに2人の得点源がいたからだと考えられたが、今年はそうではないために、15得点は最終的に超えてもらいたかったと思う。

 このため、例年のようにFWから11人を決めていくのが難しいと思う。優勝チームはターンオーバー制で、誰にするかの決め手がない。得点王争いは低調。そうしたなかで、ベストイレブンをどう決めるのかは、興味深いところではある。

私が11人を選ぶなら...

 私なら今年はサンフレッチェ広島の躍進も踏まえて、ベストイレブンを選びたい。監督のミヒャエル・スキッベは優秀監督賞の候補というのもある。

 まずGKは、優勝チームから高丘が入る。リーグ最少失点の原動力は当然ながら受賞に値する。

 両サイドバックは横浜FMから右が小池龍太、左が永戸勝也を入れる手もありだろう。横浜FMではこのふたりに松原健を加えた3人で両サイドバックをまわしていたが、出場試合数と出場時間数でわずかの差ながらも、この2項目で松原を上回る小池と永戸を入れた。

 センターバックは広島から佐々木翔を選びたい。もう1人は川崎を支えた谷口彰悟。守備的MFも広島の野津田岳人を選びたい。今シーズンのプレーぶりは広島の屋台骨を支えていたからだ。その相方の守備的MFがMVP候補の岩田になる。

 前線は1トップに得点王を獲ったチアゴ・サンタナ。その下の3人は、川崎の家長昭博とマルシーニョ。もうひとりは数字には残らない今季印象的だった選手として、横浜FMの水沼宏太をここに入れたいと思っている。

 これが私の今シーズンのMVPとベストイレブン、そして優秀監督賞になる。現役選手にとっては賞というものは「もらえればありがたい」程度に考えているものだ。しかし、受賞歴の有無によって引退後の肩書が大きく変わるだけに、受賞できるチャンスがある時は、しっかり狙うべきものだと思っている。

 果たして、11月7日に行なわれるJリーグアウォーズでは誰が表彰されるのか。今シーズン活躍した選手がしっかりと選ばれることを期待している。